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3話 参入者は猫のような人

 頬を押さえていた俺の元に一人の女性が駆けつける。


「ニャニャ!? にゃにが起こったにゃ!?」


「ニャニャさん!?」


 そこに猫耳をつけて猫尻尾をつけたニャニャさんが登場。うん、やっぱり胸がでかくて可愛い。

 肩に合わせた髪はふわふわと空気を含んでるかのように揺れている。髪は薄く茶色がかっていて頭上には猫耳がついている。合わせてぷりっとしたバランスのいいお尻からは猫の尻尾がついている。


 瞳の青はどこまでも澄み切っている。

 桃色の唇は潤いたっぷり。口の端があがっていて彼女の美しさをより濃くしている。

 背丈はすらりと伸びていて足なんて物凄い綺麗。


 全体的に華奢だが、胸だけは異常なほどに成長している。

 イエニとは真逆の女の子だ。性格は結構似てるけど。

 俺が見とれていると、向こうも頬を染めてはにかんでくれる。

 やべぇ、超可愛い。


 ここで起こったことについて簡単に説明するとニャニャさんはほっと胸を撫で下ろす。

 心配してくれてたんだと思う。


「グレム昨日ぶりにゃ。また来てくれてニャニャはうれしいにゃ」


「仕事で暇ができてな」


「暇というか、お前のミスのせいで戻ってきたんだがな」


「余計なこと言わんでいい!」


 アクティスはいつも一言余計だ。


「にゃにゃ、二人ともとりあえず怪我もなくてよかったにゃ」


 ニャニャさんがイエニと俺の間に割り込むようにして入ってくる。

 体をぺたぺたと触ってくる。ちょっとくすぐったいけど心配させてたからこのぐらいは許容しよう。


 兵士だもんな、俺ら。いつ命落とすかも分からないからそういう心配されるのは当たり前か。

 嬉しいけど、ちょっぴり寂しいかな。


「おいこら、無駄脂肪女。あたしを完全に無視してるわよねぇ?」


 あ、やべっ。

 昨日はこのままドラゴン同士の戦闘並みに激しい戦いが繰り広げられちまったんだよな。

 どうにか止めないと。

 ニャニャさんの肩を鷲づかみして、引っぺがそうとするイエニ。

 ニャニャさんは気だるそうに顔を向ける。


「お、お前等。争いはやめろって」


「だぁぁれぇぇぇがぁぁぁぁ貧乳ですって!?」


「言ってねぇーよ! 俺の言葉のどこにそんな要素が」


「やーいやーい貧乳。ニャニャの胸が憎たらしいからってこっち見るにゃ。もし胸が減ったらどうするにゃ。グレムを喜ばせられないにゃ」


 喜ばされたいっす、ニャニャさん!

 だけど、今は我慢しないと。

 ニャニャさんはこちらに顔を向けると胸を強く張る。

 ぼいんと揺れる胸に俺の目が釘付けになる……っていかんいかん。

 事態の収束に努めねば。


「刺激するなって! にゃにゃちゃんは巨乳で、イエニは貧乳。了解?」


「了解にゃ」


 にゃにゃちゃんはうんうんと頷いている。


「○×□△※※○□ッ!!」

 

 あちらさんはもう駄目だ。

 両手両足を激しく動かし、口も異常に動いている。

 顔は真っ赤で、たぶん怒りで染まってる。

 うん、着々とイエニの手が俺の首に伸びてきて、だけどそれを避けられない。

 何この威圧。体が石のように動かない。いや、かたかた震えている。


「ッ!」


「イエニさーん! 俺の首がぁぁぁぁあああーーー!」


「イエニ、さすがのグレムでもそれは死ぬぞ」


 俺の首に食い込むイエニの手。

 それを剥がすために一生懸命力を入れるが離れない。

 やばい、あれ? この子魔法よりも格闘の方ができるんじゃないのか?

 ていうかアクティス、君は俺を何だと思っているんだ。


「ニャニャッ!? イエニ、抱きつくなんてずるいニャー!」


 助けに入ってきたがイエニは微動だにしない。


「ちがーう! 論点が違うぞ、ニャニャちゃん!」

 

 俺は苦し紛れに吸い込んだ酸素を放出しながらニャニャさんに叫ぶ。

 くそ! 今の酸素があればもうしばらく生きながらえたのに。


「ずるいニャー!」


 ニャニャさんが背中にタックルしてきた!

 それにより態勢が不安定になったイエニの拘束から解放されるが、ニャニャさんに背中から押しつぶされる。


 むに。

 背中を二つの何かが衝突、いや包み込んでくる。

 なんだこの柔らかさ。

 ここの宿のベットもふかふかで気持ちよかったのにそれを超える柔らかさ。


 ていうか、あれ?

 なぜか前は何も見えない。

 手を動かしてみる、何か小さい二つのものを掴んでいる。

 柔らかいが、小さい。


 なんだこれ? 

 顔をあげたくてもニャニャさんに潰されてるせいでうまく動かない。

 顔を押し付けるてみる。


 服か?

 さらに下に行くと、肌に当たる。すべすべとしていてわずかに熱を持っている。

 服の上からでも柔らかさが伝わる。


「あああああああんた、何すんのよぉ……」


 頭上から半端なく震えた声が降りかかる。よかった、言葉を取り戻したようだ。

 この声はイエニだ。

 イエニがなんで上にいるの? 

 ……顔にあたる仄かな柔らかさはもしかして。


「ご、ごめん!!」


 今の俺は足を開いたイエニの間に挟まっているようなものだ。背中にクッションも背負っているから完全に袋小路。

 慌てて離れようとするが動かない。

 背中にいるニャニャさんががっしりと、締め殺さんばかりに押さえ込んでいる。

 ていうか痛い!


「ちょっと、離れてくれって」


「ニャニャが嫌にゃなのか?」


 背中に顔を埋めてきて、ニャニャさんが寂しそうな声をあげる。

 駄目だ、そんな庇護欲を駆り立てるような声をあげないでっ。


「嫌じゃないさ! 最高さっ!」


「にゃあり」


 ニャニャさんが何か呟いたけどよく聞こえない。

 ああ、ニャニャさん可愛すぎます。


「あ、あたしは?」


「……太股が柔らかいです」


 これがスカートならもっと良かったのだが、残念だ。


「さっき、胸触った。胸は?」


 なぜだろう、声が威圧的だ。


 ていうか、さっきの二つのものは胸だったのか。

 背中にあたるものと比べると戦力さは歴然。


 事実としては胸は大きかろうが小さかろうが柔らかいのはわかった。

 だけど、やっぱり大きいほうがいい。

 ごめん、イエニ。正直な俺が憎いぜ。


「……柔らかさに大きさは関係ないと思います」


「曖昧に言われるとむしろ傷つくわよ!」


「にゃっにゃっにゃー。グレムがすきなのは巨乳なのにゃー。岩石海岸は帰れニャー」


「さすがに抉れてないわよっ! もう、わかったわよ! あたしの胸の虜にさせてやるー!」


 そういうと、イエニが俺の頭を太股から持ち上げる。

 そっちには曲がらないんですけど!

 何とか両手で腕立てするようにして背中のニャニャさんごと体を上昇させてイエニの動きについていく。

 目線をあげるとイエニは真っ赤だった。

 何する気だよ。嫌な予感が背筋に伝う。


 何を思ったのかイエニは俺の顔を胸に押し付ける。

 痛い! 初めはそう思ったが、除々に柔らかさが伝わってくる。

 ぎゃぁぁぁぁぁー! 気持ちいいよー!

 

「ちょ、まっ! 虜になる前に死ぬから! 酸素不足だから!」


 俺は何とか溺れた人のように脱出を試みる。

 ていうか、周囲の視線が痛いよっ。見えなくても分かる。

 数多の殺気が俺を捕らえている。

 俺はむしろ被害者だよ!


「アクティース! お前何くつろいでんの! 早くたすけて、そして乗り込もう! 敵陣地に、俺達はこんなところでぐぼうふっ!?」


 胸から脱出して何とかアクティスがいる場所へと目を向けると悠々自適に過ごしていやがった。


 ていうか、イエニさん痛い!

 イエニが俺を押さえ込もうとしていたようで、足が顔面にヒットする。


 生足ならまだしも、靴を履いたままでは体のどこに当たっても痛い。

 イエニの膝が顔面に当たる。


 イエニさん、当たってます。膝が顔面に。

 最悪なことに膝は俺の鼻を捉えた。

 当たり所が悪かったのか鼻血が出てきた。


「よかったな。女の子に挟まれて興奮してるんだな」


「その鼻血じゃねぇぇぇえええ! 物理的なダメージによる損害だっ!」


「とにかく、出発は明日の朝早くだ」


「何でっ!?」


「あいつらはいつもここに泊って、朝に帰っていたらしいぞ。ねぇ、バーグさん」


 アクティスが同意を求めると、


「はい、そうですよ」


 バーグさんのにっこり笑顔。

 マジか。確かにそれじゃあ早く戻ったら不自然だ。

 二人はカウンターに座って俺達を肴にするかのように酒を飲んでいる。

 ていうか、二人とも楽しんでない?

 リーダー死にそうなんだよ?


「それにしても、見てて清々しいくらいですね」


「まあ、あいつは結構モテるんですよ。ささ、バーグさんも一杯どうぞ」


 酒、じゃない。ワインか?

 バーグさんが持つグラスにアクティスが注ぐ。


「ああ、ありがとう。いやぁ、人が大変そうにしているのを見ると楽しいですよねー?」


「ほんとですねー」


「てめぇら、こっちこい! ぶん殴ってやる。ぐごがっ!?」


 ニャニャちゃんとイエニが喧嘩を始めたよ!


「この巨乳! グレムから離れろっ!」


 イエニが蹴り上げる!


「嫌ニャ! ていうかお前が離れろにゃ、変乳!」


 ニャニャが素早くストレートを放つ。


「誰も好き好んでこんな胸になったわけじゃないわよ!」


 今度は左ストレート!

 ていうか、お前等全部俺行きだからその攻撃!

 お前等の腕は幽霊じゃないんだから貫通しないの! 俺殴って相手にダメージが伝わるわけでもないんだよ!

 

「ほ、ほんとにやめてくれません? 話し合いで解決できることも――」


「ないわよっ!」「ないニャっ!」


 仲が良さそうで何よりだ。

 もう、背中に当たる人の常識を覆すような胸にときめいたり、小さくても頑張るお胸さんに感動したりなんてしてる暇がない。


 俺は二人の戦争に巻き込まれ、そしてここで死ぬんだ……。

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