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1話 敵さんみっけ

 

「あ、やばい! 早く森から出るぞ!」


 アクティスの焦った声。

 確かにやばい。車が出発してしまっている。

 この森にエクスが通れる場所は少ない。


 ここに隠すために結構時間をかけて入ったんだ。

 つまり出るときも迷路を攻略するように出なくちゃいけない。

 俺はいつもの三倍増しに頭を使って何とか脱出する。

 脳が悲鳴をあげてるよ。

 後ろからアクティスも着いてくる。 


「よし、さっさとおうぞ、向こうだ!」


 アクティスに先導してもらう。

 俺、はっきりいいますと方向音痴なんだよな。

 ここに来るときも何度か迷ったからなぁ。


 道中モンスターを何体か見つけたがこちらに襲ってくることはない。

 エクスが便利なのは、エクスたちがモンスターが嫌がる魔力を放っているからだ。

 今俺達が追跡しているスリエンス兵が乗っていると思われる車も、モンスターが嫌いな魔力を放って走っているので、モンスターが寄ってこないって原理だ。


 速さは車よりもあるから俺達はすぐに見つけることができた。

 広大な土地のせいで近づくと目立つ。

 おまけに車側から見たら俺達は敵だ。

 兵士の服装してる俺達だから見つかったら即戦闘だ。


 それから10分ほど経って、男達は街に入る――の前に大分離れた森の中で車を乗り捨てたのか普通のどこにでもいそうな格好で男達が小さい森から出てくる。


 あ、ここは俺達が昨日滞在した街――ナイドだ。

 基本的には日中も夜も騒がしい街かな。

 あちこちで魔石を使った電灯があり、夜道も安全に移動できる。

 国の中心でもないのにこれは凄いと思う。


 基地の破壊に来た俺達は、電車に揺られて数時間でこの街に着いたのだ。

 昨日はここで宿をとったな。

 日も傾き初めて、もうすぐ夜だ。

 昨日行ったバーに行きたいなぁ。

 酒飲みてぇ。


「おれは車を見てくる。お前達はあの二人の追跡を頼んだ」


 アクティスはエクスを走らせて車がある方へ向かう。


「いよっし、面白くなってきた! 行くぜ、エクスッ!」


 そういえば、さっきから俺リーダーなのに命令されてばかりじゃね?

 後ろを振り返ると、

 

「ああああああ、アクティスの奴。変な気を回さないでよぉ。で、でもこれはもしかしてデート!? そ、そんなまだ早いわよ、あたし。そんな簡単に体を許すなんて将来舐められるわ、あ、でも……断るなんて無理ぃっ!」


「よし、何も見てないぞ」


 全然仕事に集中してない。

 でも、本番になればこいつはかなり優秀だから大丈夫か。

 エクスに乗ったまま街へと入る。

 入り口にいたエクス貸し出し所へ寄り、エクスを返して兵士たちを追う。

 男は全部で三人だ。

 他の国の人間だけど見た目の特徴で分かるような物はない。

 なんでこの街に来たんだ?

 ま、まさか……破壊か!?

 油断ならない奴らだ。戦力は上回っているのにさらに手抜かりなく攻めてくるというのか。

 

「イエニ、どうする? 破壊活動とかしてるかもよ?」


 エクスから降りた時に現実に帰ってきたイエニに訊ねると、首を振る。

 よかった、雰囲気は真面目なときのイエニだ。


「あいつら、見たところ武器は持ってないわよ。物資の補給とかが目的じゃない? まさかこんな堂々と買いに来てるとは思ってなかったけど」


「車隠して来てるけど、堂々とかぁ?」


「細かいこと気にしない」


「それ俺の決め台詞っ!」


 しばらく後をつけていると、あいつらはバーに入った。

 そこは俺達が昨日入った場所だ。む、あいつら意外といい目をしてる。

 あそこはかなりきわどい格好をした可愛い女の子が給仕をしてくれるバーだ。


「よし突入だっ!」


「一気にテンションマックスになったわね。ちょっとかなり不愉快なんだけど」


 イエニが毒を吐くのを気にせずに中に入る。

 金色に輝く入り口に入り、奥にはエレベーターがあるのも分かる。

 ここはバーと宿を兼ねているから今日泊る場所も決まった。


「あ、グレム昨日も来ましたね? 仕事うまく行ってないのですか?」


「いや、まあ、そこそこっす。そっちはっす?」


 敬語は苦手だ。

 アクティスに相談したら語尾にすをつけておけばとりあえず大丈夫だと言われたんだけど、問題ないか?


「ぼちぼちですかね。ただ、最近この町で謎の誘拐事件が起きてるんですよ。神隠しとも言われてますけど。それがちょっと心配で。うちの子も一人いなくなっちゃったんですよ」


「まじですか!? そりゃ、市民を守る兵士としてはほっとけないっすね」


 そういや、そんな話が兵士の間であがってたな。

 もしかして、スリエンスの兵士は誘拐に来ているのか?


「後で余裕があったら調べてくれませんか?」


「まあ、分かりましたっす」


 入り口で受付をしている男性と世間話。

 誘拐事件については仲間が頑張ってると思うけど、俺も余裕が生まれたら調べてみよう。

 男の人は 結構いい年の人だ。40半ばくらいだろうか。

 ダンディな人で、顎に生えている髭がいかした人だ。


 バーグさんとは結構前からの知り合いだ。

 この近くに兵士育成学校があり、授業を抜け出して度々足を運んでいたんだ。

 そのときに親しくなったのが目の前のバーグさんだ。


「バーグさん、ちょっと聞きたいことがあるんっすけど……いいでっす?」

 

「いいですよ、年寄りに聞きたいことがあれば何でも。部屋ならあんなことやこんなことをしても隣に響かない防音の二人用の部屋が余ってますけど?」


 ちょ、ちょっと何言ってんだこのじいさん!

 俺がイエニに顔を向けるともじもじした後ににこっと笑う。

 恥じらい半分、期待半分。期待? 何に?

 ていうかなんでそこで乙女笑顔!? 俺ちょっとどきっとしたよ。


 頬の熱を冷やすためにバーグさんに顔を戻す。


「そうじゃなくてっすね、バーのほうで話あるんだけど」


「バー……ですか。何か?」


 口元を隠すように拳を固めた手で覆う。

 バーグさんは人と喋るときよく口元を隠すのだ。


「ニャニャさんいる?」


 俺が兵士学校にいたときに知り合った女の子だ。胸がでかいのがポイントかな。

 天真爛漫で明るく、元気で可愛い。


「何聞いてんのよ! 違うでしょ! さっき入っていった男たちのことでしょーがっ!」


 男達が降りていった階段を指差すイエニ。

 うわっ、イエニに怒られた。だけど、これはかなり重要なことなんだ。


「おお、あの子なら君に会いたがっていたよ。今すぐには無理かもしれないけど、あわせてあげよう」


「バーグさんも答えなくていいから!」


 話が進まないからかイエニが髪を乱暴に掻き毟っている。


「さんきゅっ!」


 やった、またあの大きな胸に出会えるぞ。


「何あんた目キラッキラなのよっ! ええ、どうせあたしは胸がありませんよ、貧乳ですよ。でもそれが何よ。胸なんてあっても邪魔なだけじゃない。小さくても柔らかいんだから! 何疑いの目で見てるのよ! だったら触ってみなさいよ! ほら!」


 胸を突き出してくるけど、そんな度胸ありません。

 イエニの胸も相変わらず起伏に乏しいです。


「いやいや見てねぇから! 触らねぇから!」


「イエニさん。私は貧乳も好みですよ?」


 バーグさんが優しく微笑みかける。

 微妙に目がいやらしく細められているけど。

 鼻の下も若干伸びてるけど。


「嬉しくないわよー!」


 イエニが入り口のソファに泣いて縋っている。

 そこで電話が震える。

 俺は腰についている長方形の長い電話を取り出してボタンを押す。


『アクティスだ。中にはスリエンスの兵士服が三着あった。鍵がかけられていてうまく確認はできないが、たぶん間違いはない。今街に向かっている。そっちはどうだ?』


「あーこちらグレム。イエニさんがソファに泣きついてます」


 それだけで何かを察したのかアクティスが深いため息を漏らす。


『なるほどな。また、お前が何かしたのか』


「今ので分かるの!?」


『大体な。場所は?』


 超能力だ!


「昨日泊った宿。男三人は……ぼろぼろに酒飲んでるよ」


『ぼろぼろって何だ?』


「いや、すっげぇ飲んでるから最適な表現ないかなぁって」


『べろべろだ』


 そこで切られた。

 ひどい。魔石の魔力切れとは考えられないし、絶対わざとだ。

 腰につけなおして、俺はイエニに近寄る。


「アクティスがこっち向かってるってよ。こっちも準備しとこうぜ」


「……そうね」


 イエニは目を赤くして肩を落としている。

 悪い、イエニ。俺は自分に正直なんだ。


 胸はでかいほうが好きです。

 俺達は入り口で男達とイエニの様子を窺いながら、アクティスが来るのをひたすら待っていた。

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