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13話 イケメンとの戦闘&エピローグ

 ドアの前に立ち、ふぅと深呼吸。

 この先からは何かこうよからぬ者がいるような気がする。

 銃口を下に向けた態勢でイエニの準備が整うのを待つ。


 さっき食堂で放った魔法は魔石ごと消費してしまったらしい。

 俺の弾が減っちまったじゃん、くそ。


 前から順番に白魔石と火魔石と風魔石をくっつけた状態の銃を構えている。

 赤魔石のボタンを押すと、赤く光る。これでいまこの銃にセットされているのは赤魔石だ。

 これで連続戦闘でも問題がない。

 敵は強い可能性があるの最初から属性魔石を投入だ。

 イエニがこちらに向き首を振る。


「準備できたわよ」


 よし、いくか。

 ドアノブを捻って、押す。

 しかし、開かない。鍵がかかってるようだ。さすが偉い人がいるだけある。警備は厳重だ。

 これはぶっ壊すしかない。

 イエニに下がるように命じてから銃をぶっ放す。


 数発を喰らった後に、ドアが軋み始めたので蹴る。


 ああ、なんかすかっとするな。

 銃を肩にかけて中に入る。


「ああ、ようやく来ましたね」


 綺麗な部屋だ。

 白いソファが向かい同士で二つ並び、その間に机がある。

 壁際には本棚があり、中にいっぱい本が入っている。

 ここの部屋の持ち主は大量に本を持ってるんだな。

 本が大好きってことはアクティスと気が合いそうだ。

 ソファまでを光が照らしている。寝たら気持ち良さそうだ。

 窓の前には机があり、そこに座る男が薄く笑っている。

 声をかけてきたのはこいつだ。

 なんだか、不気味な奴だ。にこにこと目を線のように細めて眼鏡をかけている。

 兵士服を着ずにびっしりとした黒い服に身を包んでいる。

 運動には適していなそうな、服だが男には似合っていた。

 うわ、イケメンだ。


「ようやく、ってまるであたしたちがここにいるのを知ってたみたいね」


 イエニがその背とは比べ物にならないほど大きな態度で一歩前へ出る。

 こいつ、ほんと気が強くて気が短い。

 俺はいつも隣でひやひや。子供を見守る親ってこんな心境なのかもしれない。


「あなたがたが基地に入ってきたときからね。この基地の人間とは思えない澄んだ魔力を持っているんですからね」


 そりゃ、心が純粋ですからね。きっと魔力も澄んでるんですよ。

 イケメンはとてとてと腕を組みながら部屋を歩いている。


「魔力? あんたは魔力を探知できるの? ありえないわ、デタラメ言ってんじゃないわよ」


 断言するイエニ。

 俺は魔法を使えないからそういったことは分からないんだよな。


「イエニ、魔力って探知できないものなの?」


 イエニの耳元にもっていき、敵に聞こえないようにする。

 一見作戦会議をしているような図だ。

 これで相手に不安感を与えてやるのが真の狙いだ。


「……グレム。あんたって本当にあたしと同じ学校を卒業したの?」


 痛いです、ざっくりきてます。

 残念な物を見るような笑みに俺は心臓がある右側を押さえる。

 あれ? 心臓って、左にあるんだっけ? 右? 

 ま、いっか。見た感じ苦しんでるのが分かれば。


「どういう意味ですか……」


 下手に刺激するな。敵にやられる前にイエニにやられる。

 

「どんなに魔法に慣れてる人でも他人の魔力までは分からないのよ。自分のは分かってもね」


 イケメンへの警戒を怠らずに目だけをこちらに向けて教えてくれた。

 へえ、初耳だ。

 

「まあ、あなたがたに私の手の内を教えるようなことはしませんよ。それで、あなたがたの目的は情報ですか?」


 立ち止まり、自身が座っていた机に腰掛ける。お行儀が悪い。


 情報? はっ、そんなちんけなものじゃねぇぜ。

 聞いて驚くなよな。

 俺は一歩前にでてこいつの驚く顔を想像して嘲笑を浮かべる。

 胸を張り人差し指をイケメンを刺すようにびしっと向ける。


「この基地の爆破だぁぁぁああ!!」


「馬鹿正直に答えるんじゃないわよっ!」


 背中に拳がめり込む。

 イエニさん、痛い。ていうか、教えちゃ駄目ならもっと早く言ってください。

 怪我人がでてます。


 俺は膝をおり、近くのソファを支えにして男の顔を見てやる。

 ふっふっふっ、今頃恐怖に慄いているだろう。

 曝すんだ、その顔をっ!


 って、笑顔!

 この人、変わらず笑顔を貫いている。

 もしかしてその顔で固定されているのか、怖っ!


 逆に恐怖を与えられてしまい、俺は体をイエニの後ろに隠す。

 「あ、あんた子供?」とイエニが言ってくるのも耳にはいれないで。

 戸惑いながら頭を撫でるなイエニ!


「そうですか、それは誠に嬉しいことですね。ならば、私があなたがたを止めるというのは自分の首を絞めることになりそうです」


 男はふむと立ち上がり、腕を組んでふたたび歩き出す。


「どういうことよ? その言い方だと基地を破壊されたほうがいいみたいに聞こえるわね」


 イエニに話すのは任せる。

 何をたくらんでいるのか分からない男を油断なく見守る。

 俺は相手の一挙手一投足に注目だ。


「賢いですね、正解です。ここを破壊されることを望んでいます。ですが、今はまだここを任されていますから――」


 男は立ち止まり、身体を揺らす。

 正対した男は、にこりと笑みを濃くして。


「――あなたがたと形だけでも遊んであげましょう」


 男の纏う空気が変わった。ぴりぴりと肌を突き刺す威圧。

 俺とイエニはそれぞれ警戒を強めて、武器を取り出す。

 男の周囲にあるものが宙に浮かぶ。


「お、おい! あいつすっげえ手品してるぞ!」


「馬鹿! 魔法よ! 風の魔法! あんな綺麗に空中に止まってるなんて……かなり慣れてるわよっ!」


 右足を後ろに下げた状態のイエニが魔法の準備を始める。


「お話してる暇がありますか?」


 ソファや、机、本棚の中に入った本が所狭しと飛び交う。

 俺の方に飛んでくるものは銃弾と剣で弾き落とし、イエニも魔法で対抗する。


 物による攻撃が止んだ次の間には男は俺の眼前に現れている。

 瞬間移動とも取れる動きの速さだ。

 拳が突きつけられ、俺は何とか横に回避する。

 やられたらやり返せ!

 剣を突く。よっし、ヒット!

 て、もういねぇ。攻撃は外されたようだ。なにあいつ、まじで瞬間移動してんのかよ。


「動きがやべぇよ、目で追えないぞ」


 ぼやきながらイエニと背中合わせになる。スピードでははなから勝ち目がないのを分かっての隊形だ。

 これで自分の死角である背後はどうにかなる。


「風の魔法よ、あれ。自身に風を当てて加速する単純な魔法だけど、出来が凄すぎるわよ」 


 イエニは悔しそうに歯噛みしている。同時に驚嘆しているのも。

 イエニはあいつと同じ魔法を扱う兵士だ。なのに自分よりも何倍も上のレベルだ。

 悔しいのだ。魔法が使えない俺にだって分かる。


 得意としてるものが他人に劣っているのを見ると、頭で分かっても身体が言うことを聞かない。

 自分の方が上だ、と囁くもんだ。虚栄心がそうさせる。

 だけど、認めないと戦場では死ぬ。

 イエニは頑固でわがままで子供っぽい。利口で、利口じゃない。ここは俺が支えないとな。


「イエニ、さっさと切り替えろって。お前に足りないのは俺が補うんだから。その代わり援護は任せたぜ?」


「グレム……。分かってるわよ」


 イエニが柔らかい声で同意する。

 男は自分が座っていた机の上に立っている。唯一残ってるのはそれぐらいだ。後は全部床に散りばめられている。

 これも警戒しないといつあいつが操るか分からない。

 どこか楽しそうに笑っているので、俺も笑い返す。


「飛びますよ? 気をつけてくださいね」


 男は嘘偽りなく飛んでくる。

 空をまるで道があるかのように駆けてくる。

 俺は銃で牽制する。


 あいつは魔法が得意だが、たぶん格闘の方が得意だ。

 じゃなきゃ俺達から離れながら魔法を撃ち続ければあっさりと勝てるのだから。


 イエニの魔力を測り、自分と照らし合わせて。

 それで、たぶん魔法で押し切るのは厳しいと感じたんだ。

 そう思わせるイエニがいてくれてよかった。じゃなきゃこの戦い同じ土俵にさえあがれていない。


 きっと、そうだ。

 うん、なんかそんな気がしてきたぞ。

 銃弾をすべて逸らしながら男は俺の目の前で来ると同時に消える。

 まただ。

 攻撃される前に、俺はイエニを左腕で抱えあげてトリガーを引きながら、回転する。

 擬似的に全方位へと攻撃可能だ。


 相手は予想外だったのか避けることができずに当たる。

 まあ、この部屋全体にいきわたる攻撃だ。俺の目さえ回らなければ多用してやりたい。


 が、生憎足元がふらついているのでそれどころじゃない。


「イエニ!」


「ファイアアロー!」


 イエニが叫ぶと同時に魔法が生まれる。熱量を持った火の矢が真っ直ぐに男へと突き刺さる。

 男は避けきれずに服の裾が燃え上がる。

 俺は赤魔石からボタンを変えて、風魔石へ。 


 火っていったら風だ。

 服が燃え始めた男に対して風弾を打ち込む。緑がかった銃弾がひゅんと音を出しながら男へと迫る。


 だが、さすがに男には避けられ、カウンターとばかりに火の矢を打たれる。

 慌てて、イエニを抱えたまま窓の方へと飛び込む。

 俺とイエニは床へと倒れこむ。

 俺に当たらなかった火の矢が、窓を割る。


 やばい、破片が飛んできちまう。

 慌ててイエニに覆いかぶさるようにする。

 背中に破片が飛び散る。痛みはない。

 兵士服に刺さったように思ったが、防刃に優れているのか全くといって傷がない。


「あ、ありがとう」


 イエニが、頬を染めて感謝を告げてくる。

 おいおい、リーダーなんだから仲間は守って当然だろ?


「どういたましてだよ」


 俺達はすぐさま立ち上がり、男を見据える。

 攻撃してこなかったのは空気を読んだのか、消化に忙しかったからか。

 男はにこりと笑みを作ったままだが服の裾はこげている。

 火の進行は収まっている。

 濡れてる。消化したみたい。


「お似合いだぜ? その服」


 俺が剣を左手に銃を右手に剣を構える。

 銃は相手へと突きつけるように、剣は斜め下へと。


「そうですか。ではあなたも同じようにしてあげますよ?」


 ぞくりと死を彷彿させるような笑み。それと同時にさっきよりも濃くなった殺気。

 俺は思わず体が強張るが慌てて喝を入れる。

 男は火の矢を放ってくる。

 イエニがそれを水の壁で相殺したときには、男の姿はない。

 目を凝らすと、わずかに見えたような気がした。と思ったら俺の体は宙に浮いている。


「グレム!」


 くそ、受身をとってすかさず着地すると、今度はまた背後から蹴り飛ばされる。

 踏ん張りを利かせる。

 相手は背中ばっか狙うセコイ奴だ。

 イエニは背中を壁に当てている。俺も壁に近寄りたいが無理だ。

 部屋の入り口付近にいる俺はイエニと分断されてしまっているから背中合わせにもなれない。


 イエニの魔法の援護は見込めない。

 俺まで巻き添えを食らっちまうからな。

 俺は敵が消えた瞬間をじっと見る。

 ……うん。無理。

 すかさず、背後を斬るがいない。

 と思ったらさっきまで正面だったほうから衝撃が。


「つまりませんねぇ」


 イケメンは俺にゆっくりと近づいてくる。

 イエニに手を出さないのは、こいつにとって遊びだからか?

 それとも魔法の攻撃は俺と一緒にいる限りないからと考えているからか?


「ファイアアロー!」


 イエニが単体攻撃である火の矢を発射させる。

 真っ直ぐととびイケメンに当たる、が水の壁に阻まれる。


「おしかったですね。中々腕がいいですよ」


 ぱちぱちと手を叩く。本当に遊びかよ。

 イエニの方には目が向いている。注意はこちらにない。

 俺は足払いの要領で剣を横なぎにするが避けられる。

 くそ、ふらつく足で俺は立ち上がりイエニの方へと駆け寄る。


「二人揃うと面倒ですね。あなたから倒させてもらいますよ」


 男が俺のほうに飛んでくる。もちろん見えない。

 男が直線で俺に拳をたたき付ける。

 殴られた瞬間に見えても、遅いんだよ。

 衝撃に負けて体は壁に直撃する。窓から外に放り出されなくてよかったよ。

 壁を支えになんとか体を立ち上がらせる。


「グレム! さっさと逃げて! あたしが時間を稼ぐから!」


 どうやら魔法の準備を終えたらしい。だけどな、逃げるわけないだろうが。

 女を見捨てるわけないし、俺、リーダーだし。

 その頼みはきけねぇな。


 窓? そういや、この部屋窓あったな。イケメン野郎を外にぶん投げてやりたいよ。


 ああ、そうか。見えないこいつをどうにかする方法があったな。

 俺はあっはっはっはと笑いだす。

 狂ったような笑い声だろう。だけど、俺はおかしさでいっぱいだった。

 よく、よく考えたらこいつの動きが僅かに分かってたよな、俺。


「これで、お終いですかね」


「グレム!」


 イエニが駆け寄ってこようとするのを手で静止する。

 俺が今いる場所は元々本棚があった場所だ。

 どうせそっちにはすぐ行く。

 俺は最大限力を振り絞ってイエニの方へと走り出す。


「こいよ、イケメンめ!」


 挑発してやると、あっさりと飛んでくる。

 馬鹿め。俺はすかさず振りむき、銃を発射する。

 

「当たりませんよ!」


 声がするがどこにいるかは分からない。 


 きょろきょろと目を回すようなことはしないで、じっと足元を見る。

 そして、目の前に一度現れまた消えるのが分かった。

 

 見えてんだよ! 

 敵が消えた軌跡を追うようにして剣を振るう。


 横なぎに払った剣は窓から差す光を反射させながら、男のわき腹を捕らえる。


「ぐっ!」


「さすがに影が見えてりゃ、分かるんだよっ!」


 途中で見えたと思ったのは影だったのだ。

 剣を離して、銃を両手で持ち火魔石と風魔石がセットされているボタンを押して二つ同時に放つ。

 火を増幅させる風。

 できるのか実験的なところはあったけど、俺の直感が囁いている。

 

 きっとできるさー! っと。


 圧倒的な火弾による度を越えた魔法弾の雨。

 予想通りだ。はめ込む場所が三つついているのはいくつかの属性をあわせて効果を高めるためなのだ。



「名づけて、頑張る火弾!!」 



「か、かっこわる……」


「イエニうるさいっ!」


 もろに喰らった男はそこで膝をつく。兵士服と違って防御が薄いから攻撃が直接身体に響くのだろう。

 最初の数撃以外はほとんど喰らっていないようだ。

 それでもなお、笑顔は絶やさない。


「まさか、油断しました。あなたがそこまで考えてそちらに逃げているとは考えもつきませんでした」


 男の賞賛に俺は両腕をあげて胸を張る。 

 どうだ、俺かっこいいだろ。世界中にお見せしたいね、この戦闘。


「いや、こいつどうせ偶然こっちに逃げただけだから」


「イエニ! 俺の勝ちに泥を塗らないで!」


 確かに気づいたのは偶然だけども!


「それって認めてるのと同じよ?」


「なに? くそ、はめられた!」


 イエニの誘導尋問により、せっかくの俺の勝利がなんか薄汚くなっちゃったじゃん!


「くくく、あははははっ!」


 男が突然、尻を床につけて笑い出した。

 もう、戦う意志は消えたようだ。


「おいこら、何笑ってんだ! 怒るぞ! 怒るからなっ!」


「いえ、失礼しました。イエニさんでしたっけ? あなたは随分と楽しそうですね」


 男は戦闘をする気力は完全にないだらんと怠けた格好だ。

 イエニもそれを悟ったのか、警戒を解いている。

 だけど俺は油断しない。

 こいつは何かをしようとしているのかもしれない。


 こいつにとって会話することで、何か事態が好転するとか。

 うん、考えてみたけどよく分からん。 

 ていうか、俺たちすぐに逃げないと兵士に追いつかれる!


「イエニ! さっさとずらからないと兵士が来ちまう!」


「そういえばそうよね。ていうかあたしたちは確かここに偉い人がいると思ってそいつを人質にしようとしてたのよね」


「そういや、そうだった!」


 ひとまず剣を回収。

 血が僅かについた剣を鞘に戻して男を立たせる。

 剣の手入れなんてしてる暇はない。

 意外と重たい。着痩せするタイプか?


「ああ、私を人質に? それはたぶん、無駄ですよ」


「はぁ? あんたここで一番偉いんでしょ?」


 イエニが疲れたようなため息をつき腰に手を当てている。


「ええ」


「だったら、十分じゃない」


 ここを纏め上げる力を持った人をやすやすと殺すわけにはいかないだろう。

 それともスリエンスは簡単に仲間を見捨てるような非人道的な国なのか?

 はたまた、優秀な人材がいっぱいで一人ぐらいどうということはないのか?


「私は現時点を持って用済みですよ」


「意味わかんないわよ」


「いたぞっ!!」


 おっと、長戦闘、長話をしていたせいで兵士に追いつかれてしまった。

 だけど、残念だな。

 俺達の手中にお前達のリーダーは落ちたのだ!

 銃を男の頭に向ける。


「お前等! こいつがどうなってもいいのか!」


「グレム、なんかものすっごい小物臭いわよ?」


「イエニはいつもいつも俺に対してうるさいよっ! 結構頑張ってるんだから大目に見てっ!」


「うん、偉い偉い」


「うわぁっ! すっげぇ馬鹿にされてる!」


 イエニが背伸びして頭を撫でやがる。

 ああ、離れろ。

 ぶんぶん首を振る。

 兵士達は一度立ち止まる。状況の理解を始めたようだ。

 兵士達はドアを塞ぐようにして、佇んでいる。誰も何も話さない。


 こういう時ってリーダーを放せ! とかいうものじゃないの。

 何、この人たち。マジでやばいのか? 


 そして、剣を構える。ある物は銃を、手をこちらに向ける。

 どういうことだよ。


「これがこの基地の全貌ですよ。いえ、スリエンスの国の全貌ですかね」


 男はもう腹の傷が癒えたのか驚いて力を入れられていない俺からあっさりと離れる。

 あ、やばい。


「侵入者三名を発見! ただちに殺します!」


 三名? それって、俺、イエニ、アクティスか?


「おい、そこの男! 止まれ!」


 そこの男……それはイケメンのことだ。

 まるで敵のように、剣を向けられている。


「スリエンスは王が圧倒的な魔力を保有しているのですよ。その力で人々を操り、自身の駒として動かしている。私は魔力が高いのでそれを跳ね除けることができますが多くの人は王の駒になってしまう。基本的には呪縛からは解放されていますが、こういった事態になれば皆が王の駒となって動きます。あなたがたは潜入していたのですよね? 昼にみた兵士たちは本当の姿です。兵士たちは操られていることにさえ気づいていないのです」


 イケメンは、捲し立てるようにいい、そして壁を突風で吹き壊す。

 むき出しになる部屋。ここは三階だから結構風が入ってくる。

 男はそこから飛び降りる。


「私を倒して、ここから解放してくれたあなたがたへの置き土産の情報です。また、どこかで会ったらよろしくお願いしますよ? その時はもう敵ではないと思うので、では。さよなら」


 言い残して、空を飛ぶ。といっても落ちるスピードを和らげているだけだ。

 残された俺とイエニ。

 絶体絶命のピンチだ。

 そこに電話が鳴る。


『おい、こっちはなんとか脱出に成功した。突然マジックキャノンが倒れてきたときはもう、死ぬかと思ったな』


 アクティスゥゥゥゥ! ごめんなさーーーい!


『モーターボートには誘拐された三人もいるぞ。そっちは?』

 

 アクティスゥゥゥゥ!

 助けてぇぇぇええっ!


「大ピンチだ。逃げ場は空しかない部屋でたくさんの兵士に囲まれている」


 手短に状況を説明。


『モテモテだな』


「ふざけてる場合じゃねぇんだよ!! こっちマジでピンチなんだよ!」


『飛べ。風魔法を使えばどうにか海までいけるだろ?』


 確かに海には行けるけど?

 だけどね、海に思いっきりたたきつけられると凄く、痛いんだよ。

 川で泳ぐときに思いっきり腹打ったことあるから俺には分かるんだ。


『お前達はおれが乗ってる船は見えるか?』


「あー、見えた。ちっこくあるな」


 現実逃避気味に外の景色を見てみると確かにぽつりとあった。

 乗ってる人までは見えないがたぶん、アクティスたちなのだろう。


『爆弾を全部起爆して、その爆風に乗って海まで来い。着地はイエニに任せろ』


「ああ、もう分かりましたよ!!!」


 やけくそ気味に電話を切る。

 兵士たちは今もまだ構えている。


「イエニ! 作戦、僕は飛びます、どこまでも。始動だ!」


「ま、まさか。ここを飛び降りるの?」


 今にも泣き出しそうなイエニ。指差す場所は壁の向こう側に広がる大空。不安に染まったその心境はまさしく俺も同じだ。


「その通り! イエニもリモコン用意しろ!」


 両手をあげながら壁際まで近寄る。

 敵さんは入り口を塞いだまま動かない。

 それを確かめてから足場に残りすべての爆弾をばら撒く。

 兵士は警戒を強めるように武器を構え直す。

 自分のリモコンのボタンに指を乗せる。


「せーのっ!」


 イエニも腹をくくったか、俺と同様やけくそになったのかボタンを押し捲る。

 同時に、足場の爆弾が光を放って。


 爆発!


 5個ほどあった爆弾は凄まじい威力を発揮する。

 基地内部のあちこちから火があがり、俺達は空に投げ飛ばされる。

 俺は今、空にいます。

 人間はとうとう空を飛ぶことができました。

 

「やばい! 海に届いてない! このままだと崖にキスすることになる!」


「ええ!? あたし着地するための魔法しか準備してないわよ!?」


「泳げ! 目一杯腕で空気をかくんだ!」


 イエニも俺も空中で間抜けな態勢で腕と足を動かしまくる。

 功を為したのか元々ここまで届く威力だったのか知らないがなんとか崖付近にまでやってきた。

 それでも、まだ足りない。

 こうなったらイエニだけでも。

 どんどん近くなる崖を見ないようにしてイエニの腕を掴む抱き寄せる。


「何するのよ! 泳げないじゃないっ! 死んじゃう! 結婚するまで死にたくないっ!」


 涙目でイエニが叫ぶ。結婚までか、俺も同じだ。

 だけど男は女を守らなくちゃいけない。それに俺はリーダーさ。

 グッバイ、イエニ。


「俺の分まで生きるん、だ!」


 空中で態勢を立て直してイエニを海側へと蹴りとばす。

 イエニは目を見開き、必死に俺の方へと腕を伸ばす。


「グレム!? あんたなにしてんのよっ!」


「大丈夫だ! 崖にかっこよく着地してみせるから!」


 そして、崖を見る。

 急勾配だ。威風堂々とした荒々しい崖の着地できる位置を探る。


 い、いやぁ、無理でしょ。なにこの絶壁。イエニに負けず劣らずだよ。

 駄目で元々。

 両足をつける。よし、できた。


 次の瞬間には捻ってしまい。そこからはもう制御不能。

 ごろごろと体を傷つけながら崖を駆け下りる。


 なんとか意識を保ったまま海にぼちゃんと落ちる。

 やっべぇ、なんか身体が痛すぎてこれが平常なんじゃないのかと思えるよ。

 首から上は怪我をすると致命傷と聞いていたから庇ったけど、腕と足はぼろぼろ。

 体の内部も相当怪我してしまっただろう。

 全く動かない。

 海の中じゃなければまだマシだったかもしれない。


 だけどこりゃあな。

 死がどんどん近くなっていく。

 

 ああ、駄目だこりゃ……。

 俺ももうすぐいくよ。母さん、父さん。

 今まで見たこともない、両親が目の前に白い光となってうっすらと映ったような気がした。

 俺は手を伸ばして天国へ飛び上がろうとした瞬間――

 

 ――妙に現実的な感触により腕が掴まれる。痛い。握られただけで引きちぎれそうな痛みが襲う。

 まだ、痛みを感じると言うことは俺は生きてるようだ。

 もう少し丁寧に掴んでくれませんか? 反抗の声をあげたいが海の中。

 

 口を開けばしょっぱい味が俺を襲う。

 誰なのかと目を開けてみる。っていたぁ! 海の中で目を開けたら痛いのは当たり前じゃないか!


 しばらくして、俺は空気と再会する。目を開けることはうまくできないが半目で確認する。

 海から顔を出した俺は誰に助けられたのかと思ったら。


「大丈夫か?」


 鋭い声の中に優しさが潜んでいる。

 誰だ、こいつは。水を含んだ黒髪の美人な女性。


「これは酷い傷だ。少し待っていてくれ」


 女性が俺の身体に触れる。痛い。

 しばらく触れていると、痛みが消えた。

 だが、動かないのは依然として変わらない。


「大丈夫か? 済まない、私のせいでこんな傷を負ってしまい。今は応急処置しかできない」


「あ、あんたは誰?」


 唯一動く首から上である口を使い、訊ねる。

 体の痛みはないが腕と足が動かせない奇妙な状態で、女の人に抱っこされている。


「そうだったな。自己紹介が遅れた。私はミシェリだ。あそこに誘拐されていた者だよ」


 ふっと微笑む姿は力強い。かっこいい系の女性だ。

 下手したら男よりも女にモテるタイプの女性だ。


「あ、そうなの」


 緊張の糸がぶちっと切れた俺はそこでがくりと意識を失った。

 






 俺の傷は案外すぐに治った。

 ミシェリは治癒魔法が得意らしいのだ。

 ということで、俺は治った身体で軍に復帰。無事給料アップだ。


 しっかりとナイドにもよってきた。

 うん、すっげぇ心配されてて色々困った。

 会いに行ったのは基地破壊してから二週間くらい経ってたからかな。


「そっち行ったわよ!」


 イエニが指差しながら叫ぶ。

 分かってるよ。


「おう!」


 俺は基地で拾った剣と銃を使ってモンスター狩りの真っ最中だ。

 武器については上の連中には隠している。

 ばれたら絶対取り上げられるからな。

 今回の標的はボアの討伐。

 別に強いモンスターではない。ただ単に異常発生したからな。


 一通り狩りは終わって、俺とイエニとアクティスは地面に腰を落とす。

 一体は弱いのに数が多いから苦労した。


「ふう、今日はこのぐらいか」


 アクティスが剣を仕舞い、腰から外す。

 

「もう、いい加減めんどくせぇーよ。もっとこう一気にばばっと倒せないのかよ」


 俺は体を投げ出して寝そべる。

 最近はこんなちっこい依頼ばっかりだからいらだちが溜まってる。

 ここらで派手なものをしたいね。


「お前を巻き込んでいいなら、できないこともないな」


「どんな技ですか……」


「お前を生贄にモンスターを集めてイエニの魔法でどかん」


 おお、確かに画期的だ。

 一掃できるな。アクティスで試してやろう。


 そんな、他愛もない毎日。

 事件なんて起こらない、つまらない日々。

 


 あーあ、派手な事件おきねぇかなぁ。


 俺は寝そべって、空を見てそのまま目を閉じた。

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