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12話 開始っ!

 現在二階、食堂前。

 俺達は食堂には入らずに外から中を窺ってみたらみんな頭の被り物を外していた。

 これじゃあ、中に入って食事をとることはできない。正体がばれてしまう。

 腹が減っていたのに残念だ。


 食堂はかなり広い。

 最低限の兵士を残してほとんどがここにいるからそれに見合った大きさじゃないといけないのは分かるがさすがにこれは圧巻だ。

 ようは、中にはほとんどの兵士がいるってこと。


「うん? お前達入らないのか?」


 何度かこんな質問を受ける。

 イエニは受け答えるわけにはいかない。

 アクティスもいないから必然的に俺が相手をしなくちゃならない。


「人が少し減ってからにね。ちょっと人が多くて窮屈だからさ」


「ふうん。だけど昼休み一杯は席開かないと思うぞ? そしたら飯抜きだぞ、お前等」


 みんな揃って同じようなことを言ってくるから苦笑するしかない。

 腹は減ってるけど、被り物を外すわけにはいかないんだ。


「まあ、あんまり腹も減ってないんでそれでもいいかなと」


 俺は腹を摩りながら内心涙していた。

 腹と背中はくっつきそうなほどうに疼いている。

 油断すると腹の音が基地全体に響き渡りそうだ。


「ほう、おかしな奴だ」


 うるさいやい。

 そういってドアを押して開け、兵士は中に消えていく。

 

『ああ、こちらアクティス。配置についた』


 どれくらい待っただろうか。

 ようやく電話が唸りをあげてくれる。

 アクティスが完了の電話を送ってくるまでずっと逃げ回る必要がある。

 かなりの重労働が予想されるが、助けるためだ。

 そう思うと身体に力がわいてくる。

 

「了解、こっちもいつでも動けるぜ」


『そうか。なら一発派手な魔法を頼む。それを合図にこちらも動く』


「あいよー」


 電話を切る。

 食堂に入ってくる人はもういない。

 遠くまで見える廊下は右にカーブしている。

 カーブの先や、その手前の階段から人がやってくることはない。


 後は魔法を撃って逃げるまでに来ないことを祈るしかない。

 大魔法を撃つとイエニが疲れて動けなくなるから、俺が担がないとだからな。


「イエニ、魔法の準備は?」


 なんでも準備に火魔石と風魔石が必要とかで俺が渡しておいた。

 おかげで減っちゃったよ。


「待ちくたびれたわよ」


「んじゃ、俺がドアを開け放って被り物を取っ払って銃弾を頭上に打ち上げたらな」


「……ドアを開け放つ以降の行為の意味は?」


「モチベーションって大事だろ?」


「ようは、意味がないってことね」


「はっきり言うなよ」


 俺はドアに手をかける。

 そして一気に押し開ける。すると中から伝わる圧迫感すらも与える兵士達の話し声。

 う、うるさっ! このドアどんだけ防音に長けてんだよ。今まで静かすぎるだろ。

 こんな調子なのでドアの音には誰も反応してくれない。

 だから、俺は銃を頭上に持ち上げてトリガーを引く。

 バババババババッ! と銃弾が天井に当たって、跳弾して近くの兵士の頭にヒットして気絶させる。

 あ、ごめん。そんなつもりはなかったんですよ。


 兵士に手をごめんと向けて、それから俺は頭の被り物をとる。

 すると、兵士がみんな注目する。

 ふ、俺のイケメンフェイスに驚きが隠せないようだな。


「ここはこれから俺が占拠する予定だ! 大人しく、お縄に頂戴し――」


「業火よ。雷鳴と混じりて、顕現せよ。ライトニングボルケーノッ!!」


 イエニは言うと頭上に火と風の魔石を投げる。

 天井に当たると同時に天井全体に魔方陣が浮かび上がる。

 そしてそこから赤き稲妻が無数に飛び出て、無差別に人を貫いていく。

 貫かれた人は電撃に痺れた後に体が焼かれる。

 それでも兵士服のおかげか死に至るものは少ない。服はボロボロでも何とか生きている。

 この服、魔法の威力も抑えるのか。厄介だなぁ、おい。


 魔法は、詠唱や溜めがあるせいで一対一ではあまり活躍しない。

 が、魔法の力は常識を覆すようなありえない力を生み出せる。

 だからこそ、相手が多い場合は絶大な力を発揮する。


 イエニはその場で崩れ落ちる。

 あれほどのやっべぇ魔法を使ったんだから仕方ないか。

 ていうか、さっき俺も巻き込まれそうだったからね。

 俺の反射神経がよくなかったら一緒にお眠りだったよ。


「グ、グレム。ちょっと休ませて!」

 

 イエニが俺の腕に縋ってくる。

 分かってるさ。


「よっしゃ、後で迎えに来るからなっ!」


「置いて行こうとしてんのよっ! 死ぬ! ここに放置されたら絶対あたし死ぬわよ!」


 冗談だって。武器を仕舞い、俺はイエニの膝の裏に右手を、首元辺りに左手を宛がい抱え上げる。

 軽い。羽が生えてんじゃないかって言うほどにイエニの体は重さを感じない。

 これなら余裕だ。片手でもどうにかなる。


「よっしゃ、これなら十分動ける」

 

 まだすぐには動けないだろう食堂の面々に背を向ける。


「お、お姫様抱っこ……グレム、ちょっと何してるのよ! 照れるじゃない……!」


 そういや、姫様抱っこだな。だけどこれ、前にもやったことあるじゃん。

 ていうかそんな恥ずかしいことなのか? 俺には女心は分からん。


「痛い! 痛いよ! 腕をつねらないで!」


 だけど痛みは分かるさ。

 しばらく走っているとイエニが静かになる。

 どうしたんだ、まさか寝てないよな。

 顔を下に向けるとうっとりと頬を桃色にしている女の子がいた。

 思わず見とれるが、こいつは凶暴女。すぐに冷静になれた。


「グレム、あたしたち幸せになれるよね?」


「なんでお城から脱出した姫様みたいな感じになってんの!」


 ばかでっかい音に反応してか、どたどたと階段を登る音が響く。

 くそ、逃げ場がない。


「イエニ! 俺に抱きつけ!」


「ええ!? ちょ、ちょっと、それは早いわよ! あたしだってもっと雰囲気がある場所がいいわよ!」


「何と、勘違いしてらっしゃるんですか! イエニさーん!」


「え? 俺を抱け、って」


 いやんいやんと頬に手を当てて身を左右に振る。

 落ちるから、大人しくしてくれ。


「別におかしいところないよねぇ、ていうかちょっと文が変わってんだけど」


 この子がおかしいです! 魔力が減って色々ぶっ壊れちゃったのか?


「おかしいところない! それってプロポーズ?」


 あぁ、と幸せの頂点に達したような感動のため息を漏らして神祈るように手を組んでいる。

 嬉しそうで何よりだ。

 できれば勘違いはやめてください。


「どこが! いいからさっさと抱きついてくれって!」


「はい! あなたっ!」


「やっべぇよ。状況は好転したのに、俺すっげぇ不安だよ」


 イエニを赤ちゃんのように抱っこする。

 片腕をイエニの背中に回してイエニは俺の首に腕を回してくる。

 視界がふさがれないようにイエニは配慮してくれてる。

 俺は片腕にスリエンス銃を持ち、前方の階段付近に発射し続ける。


 足音がするんだよな。 

 俺が放った銃弾は階段の入り口にとび、ちょうどよく飛び出てきた兵士たちにヒットする。


 ビンゴッ!


 銃に時間を稼がれた兵士たちを俺は追い抜く。

 あいつらの得物は剣だ。一度距離を稼げばそうそうやられる事はない。

 俺はイエニを強く抱きしめて左手に銃を持つ。


 そろそろ弾切れだ。

 白魔石のボタンを押すと赤く光っていたボタンは色を失くす。

 そして、一番目につけた火魔石のボタンを押す。


 これで切り替えられたはずだ。

 赤く光ったのを確認してから右手に戻す。

 追ってきてるのは分かるが、首を曲げることはできない。

 後ろを見ずに銃を足音へと向けて発射する。

 ぐえぶっ! という悲鳴が聞こえた。

 たぶん、当たったね。


「グ、グレム!? 何? 何なのこの状況! 確かあたしはグレムと結婚式をあげてて……あれ?」


 あ、ようやくイエニが復活した。

 急激に魔力を使うと人間にはあまりよくないらしくて人それぞれ様々な悪影響がでるらしい。

 ……結婚式? どんだけ記憶に障害が生まれてるの?

 イエニの魔力が回復したわけじゃなく体が慣れただけだから魔法の援護は期待できないが、これでようやくしっかり囮ができる。


「早く下りてくれ! 今ピンチッ!」


 イエニを走りながら投げるように床へと投擲。

 うまくイエニは着地して並走してくる。


「もしかして、結婚式じゃない?」


 真面目で、整った可愛らしい顔で覗き込んでくる。

 その瞳はきらきらと輝いている。

 期待してるようだけど、期待には答えられないからな!


「今さらなんの質問!? 俺が逆に聞きたいよ、なんで結婚式!?」


「いや、確かそんな感じじゃなかったかしら?」


「欠片もねぇよっ!」


 その時、後ろから魔法弾が飛んでくる。

 俺はなんとなくそれが分かり、俺はその銃弾に銃を向けて放ち、相殺する。


「え? あれ? あんたなんか銃の腕あがってない?」


 イエニの疑問は俺も感じてる。

 この銃は結構俺にフィットする。なぜか分からないけど凄い使いやすい。


「俺が天才なんじゃないのか?」


 ふふんと銃を頭の横で構えながら胸を張ってみる。


「……もしかしてスリエンスの銃って魔力に関係してないんじゃないかしら。純粋に魔石の力だけを使って銃弾を作成して放ってるんじゃないかしら? だから魔法の才能皆無のグレムにも不自由なく使える」


「ごめん、わかんない」


「あたしたちの国の銃は本当に微量だけど使用者が魔力を込めないとうまく撃てないのよ。だからあんたは全然腕があがらない。魔力は微妙にあるけど込め方学んでないわよね?」


 新事実発覚。長年使っていた銃にはなんと微妙に魔力が必要だったらしい。 

 俺としたことが、魔法とは無縁だけど魔法みたいな攻撃ができるからとと銃を武器に選んだのに、実は魔法だったなんて。

 魔力の込め方ね。魔法関係の授業は関係ないと思ってずっとサボってたからなぁ。


「てことは、スリエンスの銃が凄いってことだよな!」


「その一言だけで終わらせるなんてあたしの旦那はちょっとお頭が残念みたいね」


「まだ続くのかよ、結婚式!」


「なによ、嫌なの?」


 嫌じゃないけど、何かちょっと違和感。

 イエニと新婚生活を送る図を想像してみる。

 すっごい尻に敷かれてる絵が浮かぶ。

 ……まあ、いいか。


「嫌じゃないけど、今はんなこと考えてる暇じゃないって!」


 前方から向かってくる剣を持った兵士。兵士の奥に階段がある。


「あいつら突破して階段に登ろうぜっ!」


 スリエンス銃をいくつか発射しながら剣を抜く。敵は剣で銃弾をガードし、そして向かってくる。

 相手の剣に俺は剣をぶつけて、そのまま巻き込むようにして敵の剣を弾きあげる。

 空いた懐にトリガーを引き続けて態勢を崩す。

 蹴り飛ばして階段を登ってきているその他兵士を巻き込む。


「イエニ! 早くっ!」


 俺達を追いかけてきていた敵を魔法で足止めしていたイエニはすぐに走ってくる。


「爆弾で階段破壊しなさいっ!」


 そっか、その手があった。

 他にも階段はあるから地味な時間稼ぎにしかならないけど、何もしないよりましだ。

 上りきった後に、3、4、5と書かれた爆弾を取り出して階段に放り、番号に対応した爆弾を押す。


「あ、間違えた」


 ボタン、1、2、3、4、5を押してしまう。

 つい、ノリで。

 1は確か、キャノンに仕掛けた奴だ。2、も結構まずい場所だよな。

 どがんっ! と激しい爆音が轟き、階段は見事破壊できた。

 さらに、やばい音が外の方から壁を破って俺の耳に届いている。

 爆風に俺達は体が浮き、壁にたたきつけられるがそれよりもやばい案件を作ってしまった。


 アクティス、いきてっかなぁ。


 イエニは顔には汗がつたっている。冷や汗かもしれない。

 綺麗な長髪は顔に張り付いている。

 こいつ、ほんと人形みたいだよ。

 現実逃避はやめよう。


「……アクティス、死んだかしら?」


 引きつった笑みを作っている。

 俺もイエニに負けず劣らずな引きつり具合だ。


「……たぶん、大丈夫だろ。うん、大丈夫。ていうか大丈夫じゃないと俺達も死ぬ」


「作戦通りね……」


「ごめんなさい、俺が全部悪いんです……」


 俺とイエニは一端、アクティスのことは忘れることにした。

 そしてどちらに進むか考える。

 右は、突き当たりに扉がある。右の道の途中に階段はない。どうやらこの先からの奇襲はないようだ。

 左は長い廊下。あちらには階段がありそうだ。

 ていうか逃げてきた方向だからな、あっちはちょっと避けたい。

 

「危険な臭いしかしない扉ね……なんか偉そうな人がいそうだわ」


 俺も同感。こうなったらやることは一つしかないね。


「よっし、突っこもう!」


「めちゃくちゃ楽しそうね。まあ、あんた子供みたいなとこあるから危険とか好きだもんね」


 疲れたようなため息をつき、だけど嬉しそうに頬を緩ませている。

 俺もつられて笑う。


「おうよ、人間何もかもを失っても子供心はなくしちゃならないんだぜ?」


「優しさじゃなかったの?」


 イエニは口にはしなかったけどあそこでちゃんと聞いてたのか。


「……人間は偉大な生き物だよな」


「その流し方意味分からないわよ?」


 え、何か言ったかな? 俺はもう聞こえません。

 さっさと歩こうじゃないか。ほら、ジト目をこっちに向けてないでね。


「あそこにもしも偉そうな人がいたら捕まえて人質にするわよ。間違えても殺さないでね?」


「なるほど、そりゃいい作戦だ」


 作戦名は、どうしよっか。

 要人生贄作戦とか。おお、結構しっくりくるな。

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