11話 奪い返せ
「よし、気づかれる前にさっさとずらかるぞ!」
アクティスが激を飛ばして機械に近寄る。
戦いの余韻に浸ってる場合じゃない。
さっさと門を開けて避難しないと俺らが死ぬことになる。
俺とイエニも急いで開閉ボタンを探していると、
『門の開閉をお願いしまーす』
間延びした緊張を壊すような声がどこからか響く。
上かな?
天井にはごわごわしたものがだらんと伸びており、そこから声が出ているようだ。
「画面を見ろ」
アクティスが厳格な面持ちで画面を睨んでいる。
車が映っている。なんてタイミングが悪いんだ。ていうか、これならさっさと駐車場に行ってれば逃げられたじゃないか。ついてない。
『女二名、男一名、うち男と女一人が子供です。門を開けてくださーい』
男と、女?
まさか、誰かが連れ去られたのか。
連れ去られる? ……はっ!
そこで欠けていたものが埋まるように俺は納得した。
誘拐……もしかして、ナイドの街の誘拐事件と関係してるのか?
「アクティス! あれってもしかして誘拐かもしれないぞ!」
名推理をしてしまった俺はこのことを自慢したかった。
だからちょっと興奮気味にアクティスの腕を叩いた。
うっとおしそうにアクティスに跳ね除けられる。
「誘拐? ああ、この付近の街で突然人がいなくなる奴か。ちょっと早計だが、可能性はなくはないな」
思ったよりも感動が少ない。おお! グレムすげぇ! っていうのを想像してたからがっかりだ。
スリエンスの兵士は民間人になりすますかのように酒を飲みに来ている。
誘拐のチャンスはかなりあるはずだ。
くそ、むかついてきたぞ。
大事な市民を無理やり連れてくるなんて!
アクティスは顎に手をやり考える素振りを見せるがすぐに頭を振る。
「とりあえず、門を開けるぞ。このままでは怪しまれるからな」
しょうがないよな。中に入れないと不自然に思われてここに兵士がやってきてしまう。
アクティスがボタンを押すと門は開く。
アクティスって機械とかいじるの好きだったよな。
こういうの見るとわくわくするのかね。
俺も簡単なのだったらいいけど複雑なのはちょっと。頭が痛くなるのは嫌いだ。
アクティスの様子を窺ってみる。心なしか楽しそうだ。
って、違う違う。早く行動しないと。ええと、何をするんだっけか。
車に乗って、逃げる。それは後だ。
今は……早く助けに行かないと!
「やばいって! あの人たち助けに行こう!」
駆け出そうとした俺の首襟を掴む。
ぐえぇ! 首がぁっ!
なにしやがる!
「待てって! さすがに駐車場で争うのはまずいぞ。あそこは正面入り口が近くにあるからすぐに援軍が来る」
そうだ。入り口なんて目立つ。
暴れればスリエンス兵がわんさか湧いて捕まるのが容易に想像できる。
でも。
「だったら、どうすんだよ! 黙って見過ごすのかよ! ふざけんなっ」
「だから今考えてるんだ。少し落ち着け」
画面を見る。
門を通過した後、車から美人な女性とまだ小さい男の子と女の子の二人が入り口で待ち構えていた兵士に渡されている。
白黒だからはっきりとは分からない。
ただ、両手を縛られ反抗するのは不可能そうだ。
正面入り口から基地に入れられたら、俺たちがここで待ち伏せで奪い返すこともできないじゃん。
『門閉めてもだいじょーぶですよー』
ぶん殴りたくなる声が響く。アクティスは思考を巡らしながらもボタン操作をして閉じている。
こいつ、中々やるな。
三人を助けて、ここを脱出する方法はないのか?
三人を見捨てなくちゃならないのか? ふざけんな。そんなの俺がぜってぇ許さねぇからな。
色々俺も作戦を考えてみるが、いいのが思いつかない。
「二手に別れるぞ」
アクティスは顔をあげる。
表情は読めないけど何かを思いついたようだ。
「手短に作戦を説明する」
アクティスはそういって爆破ボタンがいくつかついているリモコンをイエニに渡す。
いや、イエニかよ。俺に渡してくれよ。
派手に爆破してやるからさ。
手をイエニに向けるがイエニは俺を一瞥して、鼻で笑った。
なに、この子! 今のは腹が立ったぞ!
「おれが一人で救出に向かう。二人は正体を明かして、できるだけ逃げ回ってくれ」
アクティスだけいいとこ取りじゃないか。
なんで、俺がそんな端役をしないといけないんだよ。
「つまり、俺達が囮? だったらリーダーである俺に救出の方やらせろって。そっちのがかっこいいじゃん」
助けたら女性と仲良くなれるかもだし。
「そんな簡単な話じゃないでしょーが! ていうか、あんた地図も読めない癖にどうするつもりよっ!」
イエニさん。いくら久しぶりに声を出せるからってテンションあげすぎでるよ。
喋ることがたまらなく嬉しそうなのか、つい手がでちゃったとばかりに拳が背中にめり込んでいる。
グーで怒らなくてもいいじゃないですか。満身創痍になりますよ。
「い、痛い……」
「あ、ご、ごめん。つい、癖が出ちゃった」
イエニが両手を合わせている。どうやら自分の非は認めているらしい。
俺は正面からだったので何とか防御できたが、殴られた部位を摩る。
「実際リーダーであるグレムとイエニはもっと大変なことをしてもらうんだけどな」
確かに全兵士を相手取るんだからそりゃ大変だろうけどなぁ。
かっこよさでいったらやっぱりアクティスのほうが高いじゃん。
イエニが確認とばかりに腰に手を当ててアクティスに言う。
「それでも、あんたのほうが大変よ? あたしとグレムは好き勝手に暴れればいいけどあんたは一般市民三人を守りながら移動することになるのよ?」
「それはさほど難しくはない。お前達が二階、三階を中心に逃げてくれれば一階はそこそこ手薄になるしな」
二階、三階か。といっても二階は個室多めだから逃げるのは大変そうだぞ。
長い廊下を走り続けるにしても敵が壁になって現れたら手のうち用がないし。
「脱出はどうすんだよ。俺達にげらんねぇぞ」
ここは外観とは予想外に兵士は少ない。
実は二階や三階にいっぱいいました、なんてこともありえるが俺達が通った道を見る限りそこまではいないと判断できる。
どうやって、逃げるか。
兵士の相手は問題ないとしても、一度二階にあがれば階段は封鎖されてしまうはずだから、俺達は袋の鼠になっちまう。
「脱出に車は使わない。船を使う」
「「船?」」
俺とイエニが揃って疑問の声をあげる。
「ああ、といっても小さいモーターボートだ。四人乗り用だからぎりぎり大丈夫なはずだ」
アクティスがあっけらかんというがこいつは運転できるのか?
ていうか何も解決してないよね。俺達どうなるんだよ。
「あたしたちはどうやって脱出すればいいのよ。あんたの作戦だとあたし達置いてけぼりよ」
「お前等はおれが連絡したらグレムが持ってる爆弾全部を使って基地を爆破しろ。その爆風で海まで飛んで、おれがキャッチする」
「俺たちゃ不死身か!」「あたしたちだけ無責任すぎないっ!?」
アグレッシブすぎるよ! もっとこう、なんとかなんないの!
「俺のいきあたりばったり作戦のほうがまだましだ!」
俺の作戦はこうだ。
とりあえず、助ける。どうにか頑張って脱出するっていう作戦を考え付いたんだけど、絶対こっちのほうがいい。
イエニもそう思うよな?
顔を覗き込むと手と首を激しく左右に振る。
「それはないわよっ! ええっ! アクティス本当にそんな作戦でいくの!?」
完璧否定されたよ。俺悲しすぎるよ。
なんか俺の立場がどんどん小さくなっていくよ。
そのうち消えてなくなるんだ、俺は。
「おう。これが最適だ」
「あんたは結構安全よね? 敵はほとんどあたしたちが引き連れてるんだし、もし気づかれたとしても数は少ないし」
こうなるとアクティスは自分の保身に走ったみたいに感じる、
違うよね、アクティス。
例え、借りたお金を全然返していない俺のこともしっかりと考えてくれてるよね?
「当たり前だ、おれは自分の身の安全は確保できてるはずだ」
「俺達のことも考えろ!」
アクティスに作戦を考えさせるのは間違いだったよ!
俺があっといわれるような作戦を今考えてやる。
「閃いた! アクティスを侵入者として捕らえて、代わりにあの三人の身柄を貰う!」
「アクティスを侵入者までは賛成だけど、後半は無理じゃない?」
「おい、おれをどうしたいんだお前等は」
「「役割の交代を望みます」」
「別にモーターボートの運転ができる奴なら誰でもいいぞ」
アクティスが探るように俺達を見てくる。
う、で、できない。
ていうか乗り物は全般無理。馬とかエクスしか操ることは出来ない。
イエニも同じようでがっくり項垂れている。
「ほら、リーダー。お前のわがままに付き合うんだ。作戦名をつけろ」
アクティスに急かされる。
ここで作戦名を告げたらもう後には引けないよな。ていうか今さらか。
俺は覚悟を決めて腹に力を入れる。こうすると何だか気が引き締まるように感じる。
こうなったらできるとこまでやってやるさ!
「作戦名、アクティスが成功したあとに敵にやられる、一般市民三人と俺達は無事に生還祈願スペシャル実行だー!」
俺が拳を突き上げると、
「やるわよー!」
イエニも突き上げる。
「驚いた。ここまで悪意ある作戦名は清々しいな。ていうか長い」
「なら、アクティスずるいや大作戦」
「結局、おれは恨まれたままか。まあ、いいか」
アクティスの呆れたため息をつき、笑う
その後、アクティスは三人が閉じ込められたと思われる地下へと向かい、俺達は二階にある食堂へと向かった。