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3:己薬神社

 最初にあったのは写真のようでした。

 画質は粗く、白黒の印刷では少し見にくい所もあります。


「由来書きです。夜にガラケーで撮ったみたいで」

「ああ、だからこんな画質なんですね」

「はい。あ、判別できる分は補足して、文字起こししてます」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 己薬神社 由緒


 当社は宝■三年の創建と伝えられています。


 古来よりこの地の厄封じの社として崇敬を集め、

 厄除け・[病気]平癒の御利益があるとして[知られ]ています。


 [社伝によれ]ば、かつてこの地には

 各地より集められた呪物が眠っていました。

 それらを■らわせることで厄を宿した虫を鎮め、

 その地に社を建てたのが当社の始まりとされています。


 社殿奥には古来より■き続ける水と祠があり、

 そこにご神体が安置されています。


 毎年[八月]に執り行われる例大祭では、新たなご神体に役割を■承し、

 安置する神事が行われます。

 ご神体は一年をかけて■■■■、■■残った■に継承されます。


 この神事は創建以来一度も絶えることなく続けられてきた、

 伝統的なものとなっています。


                   己薬神社 社務所


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「この後半は……」

「現地にも行ったんですけどね。焦げてて読めなかったんですよ」


 ずず、とコーヒーフロートが底をついた音が響きました。


「焦げ……?」

「ボヤがあったらしくて。まあ、ウェブサイトもあるのですが……」


 彼は言葉を曖昧に切りました。


「見れないんですか?」

「いえ、見れます。ただ。そうですね」


 先を読んでもらえたら分かります。と言って、彼は店員さんを呼びました。

 追加をオーダーするのでしょう。

 先を、と呟いて僕は報告書をめくります。

 

 それは、とあるブログを出力した物のようでした。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【 ザインのざつぶろ。 己薬神社について 】


 ここはちょっと変わった神社だ。

 

 平安時代に創建された、歴史ある神社。

 古来より厄封じとして信仰を集め、御利益は厄除けと病気平癒。

 「薬」という字を持つにふさわしい御利益だね。


 この神社の面白いところは、ご神殿と境内の中に小さな川があること。

 その水源は神殿の中央にある湧き水。その中央の小島(といっても漫画雑誌くらいの広さ)に箱が安置されている。

 その箱の中身がご神体。さすがに扉で閉ざしてあるけど、水の音は絶えず聞こえてくる。夏とか涼しそう。

 毎年例大祭で、中身が交換されるらしい。

 

 現在この神事は非公開なのでご神体を見る事は叶わないけど。

 古い文献を当たれば記録が残っている。


 ご神体は虫。

 これはよくあるけど、話はここから。


 一年かけて厳選した虫を、先代ご神体と入れ替えながら代々引き継いでいる。


 この虫の厳選方法も、境内で採取した虫と先代のご神体をひとつの箱に集め、打ち勝った虫が次のご神体を引き継ぐ。

 これさ。蠱毒と同じ仕組みだよね。


 そうするとこの神社の名前に疑問が出てくる。

 元はここ「蠱毒神社」だったのではないだろうか?

 安直すぎる? いいじゃん。


 仮に「蠱毒神社」だったとしよう。


 「忌み言葉」というものがある。

 「スルメ」を「あたりめ」って言ったり、「葦」を「ヨシ」と呼んだりする。


 じゃあ、毒は? そう、薬。

 毒は薬にもなる、と昔の人も言ってた。

 

 「蠱毒」は「蠱薬」となる。あとは読みが一緒の漢字を当てて「己薬」になった。

 「やく」は「厄」にも通じるしね。

 意味も良くなって、ダブルミーニングもできて一石二鳥。

 

 千年分、下手すればそれ以前からの呪いを代々凝縮し続けるご神体。

 それはもう、祀り続けないとアカンでしょ。

 ここの祠壊したらヤバいよ。


 まあ、これだけで「変」と断ずるのはきっと許されないね。

 虫がご神体なのも忌み言葉もよくある話だし。


 俺がこの神社で一番変だと思ってるところ。

 URLだけ貼っておく。正直、俺はもう見たくない。

 

 [己薬神社由緒書きのURL]

 


 テスト

 追記テスト


 消えろ消えろ消えろ消えろ


 追記

 なんで追記ができるのに削除できないんだよ。

 記事の削除もできない。


 #神社紹介 #考察


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 読み終えた僕は、僅かな胸焼けを胃に下ろすように身体をさすりました。

 最後の追記が壁に残った爪痕のように思えて、そこから目を逸らすように彼を見ました。


「なんですかこれ……」

「オカルト系のブログだったんだと思います」

「思います?」

「ええ、このブログは現在移転してまして。更新は続いているんですが、方向性も変わってました。旧ブログは、この記事だけを残し全て削除されています」


 思わず眉が寄りました。目を閉じて嫌な靄を振り払おうと試みましたが、うまくいった気はしません。


「でも、アーカイブを掘り返して、過去の記事をいくつか読むことができました」


 彼は淡々と話を続けます。


「関連あるような記事はありませんでしたが、時々「虫が湧く夢を見る」「死が集まってくる」といった記述が見られました」

「嫌な夢ですね……ところでこのQRコードは」

「ああ、それが己薬神社のURLです。由緒書きのページになります」

「読み込んでみた方が良いですか?」


 彼は湯気の立つコーヒーにミルクを入れながら、曖昧に笑いました。

 

「そうですね……こればかりは私の判断でこの形式にしてあります。お好きにどうぞ」

「何かあったんですか?」

「いえ……まあ、実際見たら分かるかもしれないし、分からないかもしれません」

「どういうことですか」


 彼はスプーンでコーヒーをかき混ぜながら溜息をつきました。


「読み込む度に、内容が変わるんですよ」

「……」


 僕はしばらくそのQRコードとにらみ合い。

 意を決してスマホを取り出しました。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 当社は宝亀三年の創建と伝えられています。


 古来よりこの地の厄封じの社として穢れを集め、

 厄除け・病気平癒の御利益があるとして知られています。

 全部集まり、染み込みます。


 社伝によれば、かつてこの地には

 各地より集められた呪物が眠っていました。

 それらを喰らわせることで笑を宿した虫を鎮め、

 その奥に箱を堕としたのが当社の始まりとされています。


 社殿奥には古来より湧き続ける水と祠があり、

 そこに死ががががが産み出されて■■■。

 死は連鎖する。


 数十年おきに執り行われる例大祭では、新たなご神体に役割を継承し、

 解放する神事が行われます。


 ご神体は一年をかけて選別され、生き残った虫に継承されます。

 ご神体は一年をかけて選別され、生き残った者に継承されます。

 ご神体は一年をかけて選別され、生き残ったお前に継承されます。


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