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エースの誕生 その10

高校を卒業して半年が過ぎた。

就職できなかった俺は、この村の中ではアルバイトすら見つける事が出来ない。

しばらくは口やかましく言っていた親も、今ではもう諦めたように口を閉ざしている。

やる事もなく、自室の椅子の上で仰け反って、ぼんやりと天井を眺めながら音声のみでニュースを聞いていた。

ここ数日ニュースはずっと、逮捕された連続殺人鬼の話題だ。

「逮捕……よかったな、捕まって」

この村にも似たようなものがいるが、逮捕される事はないだろう。どうやったらあいつを無力化できるのかずっと考えているが、良いアイデアが出てこない。

証拠の残らない殺人。

証明出来ないもどかしさ。

物証でもあれば1人くらいは信じてくれるかもしれないが、俺みたいな視野を持っている人に出会う事が稀だ。

太維(だい)のような友達がいた事は、恵まれていたのだと思う。

この村を出てからぷっつり音信不通だが、新しい土地で無事過ごしてくれているのならそれでいいと思っていた。あの同級生や中学の先生みたいに、死んでしまうより遥かによかった。

それなのに。

「……なんだ、これ」

頬を涙が伝う。

なんの感情も動いていない。

ただぼんやりと天井を見ていただけだと言うのに、涙が溢れてきた。

あの時のように何かされたのか?

いや、心当たりがない。

こうして自室で何もせず過ごしていたのだから。

だとすると、俺の心が悲鳴をあげている?

孤独に闘うのは、辛い。

誰からも理解されないのは、悲しい。

あの時、紙が破れるような音が聞こえなかったら俺は今頃、余慶と楽しく寺で過ごしているだろうか。

もしくは、命を捧げて楽になりたいと願っていたかもしれない。

へんな術にかけられなくても、諦めたいの文字が脳裏を過ぎる事なんて、1日に何回もある。


もういっそ……


委ねてしまえば楽になれるか……


…………


「よし」

俺は体を起こすと深呼吸をした。

思いっきり両頬を叩くと、立ち上がって誰に言うともなく口を開く。

「落ち込み終了! 死にたくない、負けたくない、アイツにだけは屈しない」

自分に言い聞かせるみたいに声を出し、もう一度頬を叩いた。








炎天下、あの杉の木を目指す。

聖域でなくなっても、俺の思い出が詰まった場所だ。初心忘れるべからず。

山の中にあって、一際大きなその存在感。

遠目に見ただけだが、今日もやはり白色は見当たらない。

それでも、久しぶりに登ってみようか。

「ついた……」

根本から見上げる杉は変わらず雄大だったが、どこか様子が違うように感じる。

なんだろうとは思ったが、見た感じですぐ分かるような変化はない。

「どこから登ってたっけ」

杉の周辺を見て周り、いつか少女が座れといった突き出した根の前で立ち止まった。

「そうか、これを足場にしてたんだ」

触って強度を確かめる。

小学生の重さには耐えられても、今の俺を支えられるだろうか。

様子を見ながら片足をかける。今のところは大丈夫そうだ。

見上げて掴む枝を確認し、腕を伸ばした。上の枝は少し脆くなっている気がしたので、幹の窪みに手をかけて登る。立っても大丈夫そうな場所を探り、なんとか見つけた。

そろりと腰をおろし、幹に体を預けてふうと息を吐き出す。そのまま上を見ると、木漏れ日が美しく瞳に映る。

すっと目を閉じると、微風が吹いて汗を冷やしていく。

さわさわと聴こえる葉擦れの音を聞きながら考えに耽る。

初めて余慶を見た時の恐怖、太維のじいちゃんを死なせてしまった悔しさ、先生を助ける事ができなかった後味の悪さ。

俺の力不足は否めない。だけど、これは全部余慶のやったことだ。

己を疑うな。

誰かのために戦うんじゃない。自分の命を守るためだ。

「極めて、危うい」

はっと目をあけて声の方を見る。

あの少女が俺より一段高い枝に腰掛けている。

「いつの間に……」

なんの音もなかった。

前触れもなくそこに存在していた少女は、前に見た時と同様、取り憑かれて呪われていた。呪いが何かは分からない。でも、きっとその解釈で正しい。

唯一の違いはマスクをしている事くらいか。

それなのに、纏う雰囲気が全然違って見えた。畏怖を感じるのは同じだが、さらにそれが大きくなっている

「どうやってそこに?」

答えようとした少女は、ふと気づいたように頭上を見た。

手をかざして、葉の中に隠れていた肩の怨霊を気絶させた。

これで邪魔が入らないと言う事だろうか。

俺に顔を向けると静かに答える。

「この身の呪いが能力者の所へ勝手に連れていく。この者を助けるために宿っているが、それがまたこの者を苦しめている。お前に助ける事ができるか?」

「えっと……」

俺は今、何と話しているんだ?

いや、それより助ける?

俺が?

余慶ですら手に余ってるというのに。

「俺にできることですか?」

少女の姿をした何者かは、じっと俺を見つめる。少しだけ首を傾げながら言った。

「何が良い結果に結びつくかなど、我に判断できようもない」

……つまり、分からないと言いたいのか。

「呪いについて詳しくないので、どうやったらいいのか分かりません」

マスク越しでわかりにくいが、小さな溜息が聞こえた。

「そうか。思考の邪魔をしたな」

少女がその場で立ち上がると、体が揺れるほどの突風が吹く。

「おわっ!」

慌てて手近な枝を掴み、顔を上げた時には誰もこの場には存在しなかった。

「木の命が燃え尽きようとしている。足場を失わないうちに降りるがよい。そして可能ならばこの閉鎖された場所から離れて遠くへ行くが良い」

声だけが聞こえたが、耳がとらえたのか、直接頭に響いているのか不明だった。

だが、やはりこの木に異変はあるのだ。

風が凪いで辺りに静けさが戻る。

慎重に木を降りると、改めて見上げる。

ぐるりと周回すると、幹に割れ目が見えた。

中を覗くと焦茶色の脆そうな木肌が見える。

「枯れるのか?」

この村で1番大きい杉の木だ。

守り神のように思ってる人もいるんじゃないだろうか。

その木が、枯れる?

脳内で行われる崩壊のイメージは、木から始まり、村にまで広がった。

どうしようもないのだろうか。

髪を掴んで強く引っ張る。

「ぐぅ……」

どうして何も思いつかないのだろう。

「俺には何も出来ないのか……」

頭が痛い。

「……」

何か、何かないのか。

「そうか」

ふっと力が抜けた。

何も思いつかないのは、俺に知識がないからだ。アイデアなんて出るはずもない。

そこでふと疑問に思う。

余慶と俺の知識量には、どれほどの差があるのだろう。

俺が知らない知識をあえて教えない事は過去の会話からも明らかだ。

「知ると対策が打てるからか……」

漠然とそう思った。

助けてくれる人がいないなら、自分でなんとかするしなかい。

「よし」

気合いを入れるように拳を握り締め、その場を足早に離れた。


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