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LAW ORIGIN —— 見えざる法のはじまり ——  作者: おまる
第3章:結斗編 ─ LAW REMAINS ─
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【第5話】 限界と決意

──翌日、



結斗は、世界の変化を

期待しながら事務所へ向かった。


結斗:

「田中所長、おはようございます!」


田中所長:

「おはよう。今日は早いねー。

何かいいことあった?」


結斗:

「はい。案件への向き合い方……

心の整理がついた感じです。」


田中所長は一瞬だけ結斗の顔を見て、

ふっと力を抜いたように笑った。


田中所長:

「そうか。それはいいことだね。

でも、くれぐれも無茶はしないこと。


仕事のこともだけど、心のことも、

何かに詰まったら何でも相談しなさい。


一人では間違いに気付かないこともあるからね」


結斗:

「ありがとうございます。」


少し間を置いて、

結斗は視線を外しながら切り出した。


結斗:

「田中所長……

今日もストーカーの案件は多いですか?」


田中所長:

「ん? ゼロだよ?」


意外そうでもなく、

むしろ当たり前のように答える。


「ストーカー法は、結構厳しいからね。

相談にくる以前に、

逮捕に至るケースも少なくない。


もちろん、すべてが悪意とは限らない。

でも、事態が深刻化する前に、

被害者を守ることが優先されるんだ」


結斗:

「そう、なんですね。」


一拍置いて、

いつもの調子で言葉を返す。


結斗:

「僕も、勘違いされないように、

気をつけて行動します。」


(……確定だ。


誰も助けられなかった人たちを、

守ることができた……。)


事務員がくすっと笑いながら口を挟む。


事務員:

「所長、気をつけてくださいね? フフッ」


田中所長:

「ちょっとちょっと、

前科持ちみたいな言い方、やめてくれる?」


肩をすくめて、

苦笑する。


田中所長:

「でも……

お互い気をつけような。」


事務所に、小さな笑いが落ちた。



結斗:

「田中所長、最近多い案件で、

解決が難しいのは、どういうものが多いんですか?」


田中所長:

「なになに? 解決してくれるの?」


冗談めかした口調で、

少しだけ身を乗り出す。


田中所長:

「んー……、そうだな──」


少し考えてから、

言葉を選ぶ。


田中所長:

「最近で言えば……

ニュース記事でもよく見かけるようになった、

クチコミサイトでの、名誉毀損とかかな。」


結斗:

「確かに、よく記事で見かけますね。


投稿者の特定は、出来ないのですか?」


田中所長:

「その情報は運営会社が握っていてね。

信用問題にも関わるので、個人情報を安易に売るような真似はまずしない。


例え、通報したところで


『個人の感想です』

『それが嘘だという絶対的な根拠がないと削除できません』


……って返答がくるのがオチだね」


結斗:

「現時点では、

我慢するしかない。

……ってことですね。」


(黙認しているのなら、

運営会社にも、問題があるのでは……?)


田中所長:

「表現の自由ってのはね、

人を守る盾でありながら、

同時に人を傷つける武器にもなる。」


少しだけ声を落とす。


田中所長:

「……なんとも、皮肉な話だよ。


残念ながら、

時間とお金という労力を考えると、

我慢する。

……というのが、リアルなところだね。


──悔しいだろ?」


結斗を見て、

静かに続ける。


田中所長:

「でも、我々は法の中で出来ることを

全力でやるしかないのが、現実だ。


……昔は私も、

自分の無力さを、憎んだものさ。」


事務員は何も言わず、

机に置き去りになったままの、書類を見つめていた。


それ以来──


結斗は、

法に触れれば触れるほど、

この世界に、違和感を抱くようになっていった。


与えられた仕事を淡々とこなしながら、

法とは何かを、考え続けていた。


(僕は、正しい人を……守りたい。)


真弓:

「──?

──くん?」


結斗:

「──えっ?

ああ、ごめん。

ちょっと……考え事を、しててね。」


真弓:

「難しい顔してたから、

どうかされたのかと思いまして。

何か、ありましたか?」


結斗:

「んー……。

ここ最近、よく耳にする

ネット上での誹謗中傷について、

引っかかっててね。」


真弓:

「そうですね。いまや誰もが違和感を

抱いている問題かと思います。」


結斗:

「この問題、

形だけで、法がうまく機能していない気がして

……ね。

白石さんは、どう思う?」


真弓:

「正直、これは欠陥法と言っても

過言ではないと思います。


私の行きつけの店も、

事実無根のクチコミで炎上し、閉店に追い込まれました。


挿絵(By みてみん)


最終的には名誉毀損が認められ、

クチコミは削除されたようです。

──ですが、もう店は戻りません。


被害者は人生を壊され、

加害者は数十万の罰金。

おかしいとは、思いませんか?」


結斗:

「──たしかに。

まったく、罪と罰が釣り合ってないよね。


やはり……身近にもあるんだね。

こういう、理不尽なことが。」


真弓:

「人生をかけて作り上げたものが、

誰かのストレスの捌け口で潰される。

そんなこと、許されるはずがありません。」


結斗:

「そうならない為には、

特定やフォローを迅速に行う必要があるけど──。

現状の法では、不可能……か。」


真弓:

「投稿者の責任は、確かに重要だとは思います。


──ですが、

私は、その状態を黙認している

運営会社に、一番原因があると思います。


生徒がいじめられているとき、

校内の問題を、先生が黙認しているようなもの。


見て見ぬふりは、罪です。

それが自分の環境下にあるなら、尚更です。


──あっ、すみません。


このあと、田中所長とミーティングがありますので、

失礼します──。」


結斗:

「あ、……ありがとう。」


(白石さんはやっぱり、芯がブレないな。


よし……

これで、何をどうすべきかは見えた。


次は──。)



──自宅にて。



結斗:

「ただいまーっ!」


母:

「おかえり、結斗。

あら、仕事は順調のようね?」


──ゴホッ


結斗:

「まだ、体調治ってないんだね。

ご飯は自分で用意するから、

ゆっくりしておいてね。


──あれから、

アイツは来てない?

……大丈夫?」


母:

「ええ、心配いらないわ。

あれから、一度も姿を見せてない。


気にかけてくれて、ありがとう。

でも、今は大切な時期だから、

自分のことだけを、考えなさいね。」


結斗:

「……それならよかった。

お母さんも、たまには自分のことを

一番に考えてよね。


僕も、社会人になったんだから。ね?」


母:

「ふふっ。

結斗も言うようになったわね。

……ありがとう。」


結斗は自室に戻ると、

食事のことを考える間もなく、本を開いた。


同じ数行を何度も、

確かめるように、読み返した。


結斗:

(ここだ……これで。)


青い光が滲み、

二行の法文が静かに崩れ落ち、消えていく。


──カンッ。


遠くの方で、何かの音が鳴った

──気がした。



──続く──

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