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LAW ORIGIN —— 見えざる法のはじまり ——  作者: おまる
第3章:結斗編 ─ LAW REMAINS ─
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【第4話】 正義の目覚め

事務所では、

いつものように、手慣れた仕事が淡々と進んでいた。

コピー機の低い駆動音と、紙を揃える乾いた音だけが響く。


田中所長:

「またかあ……。

社会的ストレスも原因だろうけど

一度は愛し合った仲のはずなのに。

……なんともねえ。」


結斗:

「所長、どうかされたんですか?」


田中所長は、手元の書類から目を離さず、軽く肩をすくめた。


田中所長:

「いやね、相変わらずDV案件が多いなって思ってね。

まあ、DV案件は比較的スムーズに解決できるから、被害者を救えて嬉しいんだけど──。」


結斗:

「……え? 先日、立証が難しいと言われてたと思いますが?」


ペン先が一瞬、止まる。


田中所長:

「ん? 簡単に録音できる時代だよ?

DVなんて一発で証拠揃ってアウトさ」


結斗:

(おかしい……。

確かに、解決しにくい案件だと言っていたはず……

……僕の聞き間違いだろうか。

でも──)


結斗は言葉を選びながら、慎重に続けた。


結斗:

「継続的に証拠を取らないと、立証できないと思いますが……」


田中所長:

「DV案件はね、一回でも行為が確認されれば、即アウトになるんだ。

考えてみなさい。

一回だけだからと放置していたら、その間に事件になるかもしれないだろ?」


結斗:

「……はい。確かにそうですね。

手遅れになるケースも、実際に出ているわけですし……。」


(どうなってるんだ……。

確かに、継続的な証拠が必要だったはず。

現にそれができたなら……。)


結斗はその違和感を胸の奥に押し込め、

一日の仕事を終えた。


結斗:

「白石さん、今日一緒に帰らない?」


真弓:

「どうかされましたか? かまいませんよ。

もう少しで切りが付くので、少し待っていただけますか。」



──帰り道。


夕暮れの街を、自転車を押しながら二人で歩く。



結斗:

「白石さん、DVの案件ってほんとに多いよね。

今って、録音とか証拠があれば一発でアウトだったよね?」


真弓:

「そうですね。

一時を争うこともありますから、

基本的には証拠があがれば、即立証できると思います。」


結斗:

「でも、もしかしたらその証拠は、

長い生活の中の、ほんの一部の切り取りかもしれない。

継続的な証拠が必要だとは……思わない?」


真弓:

「確かに、それもあるかもしれません。

けれど、偶然の一回を録音できる。

──そんな都合のいいこと、ありますか?」


少しだけ、間を置いた。


真弓:

「一回ではなく、複数回しているからこそ、

録音する機会が生まれる。

だから、例え証拠が一つだとしても

複数回している可能性が高いと思います。」


真弓は、迷いなく言い切った。


真弓:

「今のこの法律。

私は、助けを求める被害者が実際に救われて、とても正しい法律だと思います。

何も間違っていません。

……そうは、思いませんか?」


結斗:

「そうだね。

これが法律の、あるべき姿だよね。

人を守ってこそ、法律……。」


小さく息を吐く。


結斗:

「ありがとう、白石さん。

なんか、すっきりしたよ」


真弓:

「どういたしまして。

これからも、私たちに出来る限り

困っている人を助けましょう。」


一瞬だけ、視線を伏せてから。


真弓:

「悪は、罰せられるべきです。」



二人はそこで別れ、それぞれの家路についた。



結斗:

「ただいまー。」


母:

「ゴホッ……ゴホッ……。

あぁ、おかえり結斗。」


母は咳をこらえるようにして、

無理に笑顔を作った。


母:

「母さん、ちょっと風邪ひいたみたいでね。

うつしちゃうと悪いから、早く自分の部屋に行きなさい。

あとでご飯、持っていってあげるから。」


結斗:

「大丈夫?

あとで僕が家事やっとくから、無理しないでね。」


母:

「ありがとう、結斗。

……そうさせてもらうわ。」



──自室にて。



結斗:

(……確実に、法が変わった。

なんでだ? もともと、この法律には違和感があった。

でも……そんな都合よく……。)


机に向かい、ふと手が止まる。


結斗は先日、法文をペンで塗りつぶしたことを思い出した。


(……あのときは、確かDV案件でモヤモヤして──。)


再び本を開き、 塗りつぶしたはずの箇所を探す。


この言葉さえなければ、と思って消した言葉。


【継続的】


だが、その言葉は、

法文のどこにも、

──見当たらなかった。


(なんでだ……?

確かに塗りつぶした……はず……。)


──。


(……塗りつぶした……から?)


──。


(そんなこと、あるはずがない……。)


一瞬、迷ったあと、

結斗はページをめくった。


(……それなら。)


結斗は、とある法文の中の


【反復】


という言葉を、

確かめるように、ゆっくりとペンで塗りつぶした。



──次の瞬間。



【反復】という文字が、淡い青色に光り、

紙面から剥がれ落ちていく。


結斗:

「……っ!」


無意識に、息が止まる。


(こんな事が……あっていいのか?)


だが、胸の奥で、別の感情が膨らむ。


(……もし、これが本当なら。)


指先で握ったペンが、わずかに震えた。



救われない人がいるなら、

僕が――。



──続く──


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