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LAW ORIGIN —— 見えざる法のはじまり ——  作者: おまる
第2章:ラル編 ─ LAW MAKER ─
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【第12話】 ──未来を生きる人の為に──

大地震から数日。


街にはまだ傷跡が残っていた。

崩れた壁。

傾いた屋根。


泣き声と、笑い声が交差する広場。


それでも──

“生きている”。


ユラは、歩くたびふらつくラルの腕をそっと支えながら言った。


「……風が、柔らかいわ。

あの日とは違う……街が、前を向こうとしてるの。」


ラルはゆっくり頷いた。


「……見えないけど……

分かるよ。

みんなの声が……“生きてる”。」


彼女の視界には、もうほとんど何も写らない。

影と光の境目が、わずかに揺れるだけ。


けれど──

代わりに聞こえるものがあった。


人の震え。

人の願い。

人の “生きたい” という声。


ラルは胸の奥で、その温度を静かに受け取っていた。



ふたりが借りた家は、小さな木造の平屋だった。

瓦礫をくぐって倒れずに残った、“奇跡の家”。


玄関の前でユラは新しい表札を持ち上げる。


「……できたわ。

かけてみましょう。」


ラルは、揺れる気配を感じながら手を伸ばす。

指先に刻まれた文字が触れる。


『新生 由蘭』


「……これ、ユラって読むの?」


ユラは少し照れながらうなずいた。


「ええ。私の名前よ。」


ラルは指でそっと溝をなぞりながら、

ゆっくりと言葉をこぼした。


「……こんな漢字だったんだ……

“由”も“蘭”も……すごくきれい……

ユラって名前、こんなに優しい形してたんだね……」


ユラは不意をつかれたように目を瞬き、

そしてふわっと綻んだ。


「……ありがとう、ラル。」


風が二人の髪を撫でる。


ラルは次の刻みへ触れた。


『成瀬ラル』


指先で自分の名前の溝をなぞりながら、

ふわっと笑って言った。


「ちゃんと……私の名前もあるんだね♪

なんか……うれしいな。」


ユラが隣で柔らかく微笑む。


そして──最後。


『小鉄♡』


その瞬間、小さな足音がとととっと家の中から走り、

小鉄が飛び出してきた。


ラルは笑った。


「……小鉄、もう自分の家だって分かってるんだね。」


ユラは膝をつき、頭を撫でた。


「順応が早い子ね、本当に。」


ふたりは、くすりと笑い合った。

壊れた街の中に浮かぶ、小さな灯火のように。


家に入り、ラルはノートを開く。

紫も赤も、もう光らない。


けれど、それでよかった。


「……この世界がまた壊れそうになったら……

そのたびに描き直せばいいんだよね。」


ユラが肩に手を置く。


「ええ。ラルの言葉は、誰かの命を守るためのものだもの。」


ラルはうなずき、最後のページへ文字を記す。



《附則》

**一人で抱え込まず、仲間と──家族と──ともに相談すること。

相談しても解決できない日もある。

それでも心の重さは分け合えるし、前へ進む一歩になる──勇気ある行動とする。


もし、そばに相談できる人がいないなら……

“悩む人を見かけたあなたが、そっと手を差し伸べる存在” になっていい。


支え合いは、誰かが始めてくれるのを待つものではなく、

あなたから始めてもいいものとする。**



文字は光らなかった。

けれど、確かに息づいていた。


「……未来につながるように。

忘れないための言葉だよ。」


ユラは微笑んだ。


「ラル。

二人で歩いていけば大丈夫よ。

見えなくても……感じられるでしょう?」


ラルは小さく笑い、

そばにいた小鉄をそっと抱き寄せた。


「……うん。

ユラも、小鉄もね。

私……もうひとりじゃないから。」



街の復興が進んだ頃、

ふたりはかつて あの丘 へ向かった。


丘の端にあった、あの崩れかけたお墓のような石──

かつてユラが花を撫でていた場所の横にあったそれは、

すでに形を失い、ほとんど崩れ落ちていた。


風が吹くたび、

砂のようにさらりと崩れていく。


ラルは手を伸ばし、

その“崩れた石”の残った輪郭をそっと確かめた。


「……これ……崩れちゃって……る……?」


ユラは目を伏せ、

その小さくなった石をしばらく見つめていた。


風が、そっと二人の間を抜ける。


そして──

そのすぐ隣には、新しい慰霊碑が建っていた。


崩れた墓石の破片、焼けた木材、

街を守って散った“無名の想い”を集めて積み上げた碑だ。


刻まれた文字。


『忘れられた命は 誰ひとりいない』


かつて対立していた老人と若者が、

いまは肩を並べて石を積んだという。


ラルは碑に触れ、目を閉じる。


「……もう、誰も忘れられない世界に……なるといいな。」


ユラは風に髪を揺らしながら言った。


「人は、一人で抱えれば迷うけれど……

誰かと繋がれば、前に進めるものなのよ。」


小鉄は碑の前で尾を揺らした。

まるで、この場所を知っているように。



街は整備され、新しい人々が移り住んだ。

法学校は拡張され、

ラルとユラが歩いた小道は公園の散歩路になった。


ラルが遺した言葉は、

磨かれ、引き継がれ、

やがて国の法体系の“根”となった。


さらに──時代は進む。



──どれほど時が流れても、

未来はいつも誰かの手で描かれていく。


ニュース番組のアナウンサーが語る。


「本日、性犯罪に関する厳罰化および

被害者保護を強化する法改正が正式に可決されました。」


条文の片隅に刻まれた理念。


『誰かの痛みを、誰も見落とさないために』



キャスターが資料を見て首をかしげる。


「えー……次に提出された法案ですが、正式名称は──」


画面に映る文字。


《 説明責任強化法 》

附則:“誠意をもって、ちゃんと説明すること♡”


スタジオがざわつく。


「…………♡……?」

「これ、公式文書ですよね?」

「最後のハートはどういう……」


SNSは秒で祭り。


「なんで♡ついてんだww」

「国会でハートは草」

「内容はちゃんとしてるのに最後だけ自由すぎる」


そのとき、公園を抜ける風がそっと流れ──


「……ラル、また♡つけてる……」

「へへ……だって、かわいいし……ね?♡」


二人の女性の笑い声が、一瞬だけ重なった。

気配だけを残し、風は消える。


夕空に沈む陽の向こうへ、

紫の粒子が静かに舞い上がる。


まるで誰かが

そっとページをめくったように。


そして、その風の奥で

優しい声が響いた。


「……完璧な法なんてない。

でも、私は描き続ける。

未来を生きる……人の為に。」


風が遠ざかり、光が揺れた。


──ラルが遺した“光”は、

今日もどこかで、誰かを照らしている。



挿絵(By みてみん)


【第2章 LAW MAKER(ラル編)】 

END

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

ラルの物語は、ここで一区切りです。

この世界の物語は、まだ続いています。

また別の章で、お会いできたら幸いです。

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