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LAW ORIGIN —— 見えざる法のはじまり ——  作者: おまる
第2章:ラル編 ─ LAW MAKER ─
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【第7話】 消えた名のあとで ― それでも知ることから

翌朝。


世界は昨日と変わらないように“見えた”。


けれど──

どこかが静かに削り取られていた。


登校の途中、ラルは花屋の前で足を止めた。


昨日まで並んでいたはずの花束が、

もうない。


店の看板も、跡形もなく消えている。


ユラに話してみても、

彼女は少し首を傾げただけだった。


「……そんなお店、あったかしら……?」


ラルの胸の奥がきゅっと縮んだ。


「……やっぱり、私のせいで……」


ノートを開く。


昨日、必死で描き直したはずの法は、

黒い焦げ跡のように滲んでいた。


掠れた文字だけが残り、

紫の光はひとかけらも生まれない。


「描き足しても……救えなかった……」


喉が詰まり、呼吸が浅くなる。


ラルは崩れ落ちるようにしゃがみ込み、

ノートを抱きしめたまま声を絞り出した。


「ごめんなさい……

ほんとに……ごめんなさい……」


ぽたり、と膝に落ちるものがあった。


自分でも気づかないうちに、

頬を伝って涙がこぼれていた。


肩が震え、

指先までかすかに震え続ける。


「……ごめん……ごめんね……」


白い光が眼の奥で脈打つたび、

涙がにじんで世界が揺れて見えた。


そのとき──


眼の奥で白い光が淡く脈打った。


耳の奥で、微かな声が膨らんでいく。


……はすべて……すくえ……ない

………が……はじまり……


(……また……あの声。

前より少しだけ……聞こえる……?)


言葉は欠け、音は遠い。

それでも、どこか懐かしい温度を帯びていた。


視界を細めると、

白い光がまた滲んで、

世界の輪郭が解けていく。


(——“全ては救えない”?)


答え合わせみたいに、

胸の痛みが静かに形を持った。



午後。

教室の扉がそっと開き、

ユラが不安そうに顔をのぞかせた。


ラルを見るなり、

彼女の表情がやわらいだ。


「……ラル。最近……

あなた、ちょっと元気がなかったから……

気になって……」


ユラはそっとラルのそばまで歩き、

いつもより少しだけ柔らかい声で続けた。


「ねぇラル。最近ね……

街の雰囲気が、少し変わった気がするの。」


ユラは窓際に歩きながら続けた。


「記録を残す人が増えて……

手を取り合う人たちも見かけたわ。

“笑顔が戻った”って言う人までいたの。」


ラルは顔を上げた。


視界はまだ白く滲んでいたが、

その目にはかすかな光が戻っていた。


「……そうなんだ。

よかった……ほんとに……」


声はかすれていた。

けれど、その笑みだけは確かだった。


ユラはそっと外を見つめ、

優しい声で言った。


「たぶん……

“何かを信じて動ける”ってだけで、

世界は少しずつ変わっていくのよ。」


ラルはそっとノートに触れた。


(……私のしてきたこと、

全部が間違いじゃなかったんだ。


救えた命も、確かにあった。


だから……次は、絶対に間違えない……!)


ラルは小さく息を吸い、

ユラを見た。


「……ユラ、ありがとね。」


「え? あ、えぇ……

元気出たなら、よかったけど……ふふ……」


ユラは少し戸惑いながらも微笑んだ。


その笑顔を見るだけで、

ラルの胸にあたたかい風が吹いた。


窓の外では、春風がそっと花を揺らしていた。


紫の光が、ほんのわずかに空へ溶けていく。



教室へ戻る廊下で、

ラルは歩幅を少しだけゆっくりにした。


白い霞に目が慣れるまで、

壁に手を添える。


(……この力、使うたびに視界が白くなる。

そんな都合のいい力じゃないってこと……

本当は……なんとなく分かってた。)


(……慎重に使えって、

そういうことなんだよね……)


それでも、足は止まらない。


(……救えなかった人たち。

名前ごと消えてしまった人たち。


どれだけ描き直しても、もう戻らない。)


(私は、その痛みの上に

“次の法”を描いていくしかない。


忘れちゃいけない。

この罪を抱えたまま——生きていくんだ。)


そして、そっと呟いた。


(——“知る”ことから、はじめよう。)


ノートの角が、

掌の中で心臓のようにやさしく脈を打った。


世界はまだ、未完成のまま息をしている。


そしてラルの胸の奥でも、

小さな決意が静かに息をしていた。

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