【第5話】 調和分配の法 ― 届く平等 ―
まだ法が整っていないこの世界では、
今日も法学校で授業が行われていた。
黒板の前で、講師が古い資料を広げる。
「かつて“均地配分”という法がありました。
すべての人に土地を平等に分け与える――理想の制度。
しかし……結果は失敗でした。」
ラルはペンを止め、小さく首を傾げた。
「……どうして、失敗したんですか?」
講師は、ほんの少し寂しそうに笑った。
「人が、同じではなかったからです。
でも、だからこそ。
今の私たちは再建のために、この法を“もう一度”試そうとしています。
来月から、“調和分配法”として運用が始まります。」
(……昔は失敗しても、
今の人たちなら……違う形にできるのかも。)
ラルの胸の内に、小さな光がぽつりと灯った。
◇
数か月後。
街では、新しい法の試験運用が始まっていた。
“誰にでも平等な面積の土地を分け与える”――
理想のはずだった。
けれど現実は、少し違った。
「日が当たらない土地じゃ作物が育たない!」
「遠すぎて毎日通えないよ!」
「こっちは石ばっかりだ!」
不満と諦めが街中でぶつかり合う。
ラルはその様子を見つめ、
ノートを胸に抱きしめた。
「……やっぱり昔の法だし。
失敗したって記録があるくらいだから……
そう簡単にはいかない、よね。」
ユラは髪を耳にかけながら、穏やかに微笑んだ。
「ええ。昔は一方的に決められて……
意見を言える場所もなかったもの。
不満だけが溜まっていったのよ。」
ラルは頷きながら、視線を人々に向けた。
「でもね、今の人たちは……
ちゃんと“理由”を考えて怒ってる。」
ユラはその言葉に少しだけ目を細めた。
「……そうね。
昔の失敗は、今のための材料になる……
本当に。」
◇
数日後。
学校では、法の見直し会議が開かれていた。
教師、生徒、町の代表が集まり、
真剣な声が飛び交う。
「距離や家族の状況も考えるべきだ。」
「一年に一度は、意見を出し合える場をつくろう。」
「配分者は交代制にしよう。不正を防ぐためにも。」
ラルは窓際で静かに息を吸った。
(……人が、自分の頭で考えて、直そうとしてる。
これが“生きる法”なんだ……。)
◇
翌日。
街の掲示板には、改訂された文面が貼られていた。
《調和分配の法 改訂版》
・配分は距離・家族・環境を考慮すること。
・年に一度「交声(こうせい/声を交わす)」の集会を開くこと。
・管理者は交代制とし、不正が発覚すれば
権限を永久に失うものとする。
ラルはその紙を見つめ、
こっそりと息を吐いた。
(……これで、しばらくは大丈夫そう。)
ラルはペンを構え、
少しだけ悪戯っぽく笑った。
「……念のためっと♪」
そう言いながら、最後の一文を追記した。
附則:もし、この法が迷ったら――初心に帰る♡
──カンッ。
淡い紫の光が紙面に広がり、
ノートがほんのり嬉しそうに光を吐き出した。
◇
翌朝。
街には、少しずつ笑顔が戻っていた。
老夫婦 「これなら毎日通えるわね」
子ども 「ぼくの畑、日が当たるようになった!」
ユラはラルの横に並び、
そっと髪を耳にかけた。
「……空気が変わったわね。」
ラルはノートを胸に抱き、
ふんわりと微笑んだ。
「……うん。でも、これで終わりじゃない。
たぶん、どこかでまた迷っちゃうと思う。」
ユラは柔らかく目を細めた。
「それでいいのよ。
完璧な法なんて、誰にも描けない。
でも――ラルなら迷っても、
ちゃんと“見つけられる”わ。」
その言葉にラルは照れたように笑い、
空を見上げた。
「……へへ……なんか嬉しいかも♡」
風が頬を撫で、
紫の光が空へふわりと溶けていった。




