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LAW ORIGIN —— 見えざる法のはじまり ——  作者: おまる
第2章:ラル編 ─ LAW MAKER ─
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【第4話】 違いを受け入れる法 ― 和を以て貴しと為す ―

まだ法が整っていないこの世界では、

今日も法学校で授業が行われていた。


窓から差し込む光は淡く、

紙の上の文字がゆらいで見える。


講師が黒板に手を置きながら言った。


「……人の考え方は、環境や年齢で違う。

何が“正しい”かは、その人の立場で変わる。

だから、どれも間違いじゃない。


けれど、ときどき……その“正しさ”同士がぶつかってしまう。」


教室の空気が静まり返る。


「今の時代は、その時どうすればいいか……

まだ誰も答えを持っていない。


だからこそ、法学校の生徒である君たちも考えてほしい。

――どうすれば、人は分かり合えるのかを。」


一瞬の沈黙のあと、講師は静かに微笑んだ。


「人は、必ず分かり合える。

そう――必ず。」


その言葉が、ラルの胸に小さな光を落とした。

ほんの一瞬だけ、視界の霞が薄くなる気がした。



放課後。


ラルとユラは学校の前の道を歩いていた。


広場の端で、激しい言い争いが起こっていた。


「壊さないと、街が前に進かないんだ!」


「思い出を残さずに、何を未来に語るんだ!」


一人の少年が、必死に間に入っていた。


「でも……どっちも、この街のために言ってるんだよね?」


二人は少年を見たあと、どちらも視線を逸らした。


ユラが静かに呟く。


「……正しい人と正しい人が争うのって、

一番むずかしいね。」


ラルは頷きながらも、

ほんの少しだけ首を傾げた。


「うん……でも、“正しい”って、

同じ形じゃないのかも。


たぶん……見てる景色が違うだけなんだと思う。」


風が二人の間を通り抜ける。

その風を追うように、

ラルはほんの一瞬だけ、かすかな鼻歌を洩らした。



数日後。


ラルは街のいろんな場所を歩いていた。


胸の中のもやが晴れないまま、

人の声を確かめるように。


市場では、商人と客が小さな口論をしていた。

公園では、古い遊具を撤去するか残すかで町内会が揉めていた。

通りの先では、新しい建物の建設に反対する老人たちが集まっていた。


どれも、誰かを想った“正しさ”だった。


(……みんな、相手のことを知ろうとしないんだ)


ユラの言葉が胸に蘇る。


「……言葉だけで分かり合うのって、本当に難しいね。」


(……同じ場所で、同じ風を感じないと、

本当の意味では……分かり合えないのかも。)



夜。


ラルはノートを開き、ペンを握った。


《第93条 違いを受け入れる法》


人は、互いの違いを語るだけでなく、

その立場に身を置き、

同じ景色を見ようと努めなければならない。


理解は言葉ではなく、体験によって深まる。


(……うまく言えないけど……

 ちゃんと“見ようとする気持ち”が大事なんだと思う……)


──カンッ。


視界がふわりと揺れた。

ラルは目をこすった。


「……あれ? なんか……変?」


風が頬を撫で、霞はすぐに収まった。


紫の光がノートの上に生まれ、

それから少しして、街の空気が変わり始めた。



老人の一人が、若者の工房を訪れた。


冬の風が吹き込む作業場。

若者たちは黙々と鉄骨を磨いている。


老人は震える声で言った。


「……寒いな。」


若者が笑う。


「ええ。でも、ここで作る屋根が、

誰かの冬を軽くしてくれると思うと……

少しだけ暖かいんです。」


その言葉に、老人の目が細くなった。


逆に、若者が古い家を訪れた日もあった。


沈む床。

焦げ跡のある壁。


そして、一枚の古い写真。

炎の中で、誰かを抱く男の姿。


「この場所は……?」


「避難所だった。最後まで残った人たちのな。」


若者は何も言えず、ただ頭を下げた。


「……こういう場所、他にもあると聞きました。

だから……せめて、形に残せないでしょうか。


たとえば、石碑とか。

みんなで作る形で。」


震えてはいたが、真っすぐな声だった。


老人はしばらく空を見上げ、静かに頷いた。


「……そうだな。

しっかりと皆の手で形にするのも……悪くない。」


若者の肩がわずかに震え、安堵の息が漏れた。


やがて、広場の片隅に慰霊碑が建てられた。


挿絵(By みてみん)


古い瓦と焼けた梁。

いくつもの家の記憶を集めて組み上げた碑だった。


石には刻まれていた。


『勇気ある人々の祈りをここに刻む』


老人が碑に触れ、微笑んだ。


「……前を向けるよ。ありがとう。」


若者は小さく頷いた。


「俺たちも……守ることの意味を知りました。」


風が碑を撫で、光が隙間を通り抜ける。


ラルは少し離れた場所から、その光景を見ていた。


静かにノートを閉じる。


「……本当は、みんな悪い人じゃないんだ。

それぞれの思いが、ときどきぶつかるだけで……。」


紫の光が碑のすき間を通り抜け、

ゆっくりと空へ昇っていった。


ラルはその光を見上げ、胸の奥で小さく呟いた。


(……これで、少しでも分かり合えるようになったら……いいな。)


──ふと、昔の夜の匂いが蘇る。


崩れかけた家。

母の声。


助けを呼んでも、誰も来なかった。

法も記録も、何もなかった。


(……だから、もう二度と……

あんな世界にはしない。)


ペンを握る手に、そっと力がこもる。


「うん。変えられる。少しずつでも……♪」


光が風に溶けていく。

世界の色が、ほんのわずかに明るくなった。


遠くの屋根の上で、一匹の猫がこちらを見ていた。

尾をゆっくりと揺らしながら、静かに瞬きをした。

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