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LAW ORIGIN —— 見えざる法のはじまり ——  作者: おまる
第2章:ラル編 ─ LAW MAKER ─
15/31

【第1話】 風の法 ─ 開花 ─

朝。

《無垢ノ地》の丘は、今日も静かだった。


風が草をなで、どこか懐かしい匂いを運んでくる。


ラルは胸にノートを抱えながら、

「んふふ~♪」と小さな鼻歌をこぼして歩いていた。


この丘は、昔から彼女がひとりで来る“お気に入り”の場所だった。


風がやわらかくて、胸の奥がすうっと軽くなる。

理由は分からないけれど、ここだけはずっと落ち着く。


昨日書いた言葉を思い返す。


《法は、未来を生きる人の為にある♡》


その一行が、まだ胸の奥で小さく光っていた。



丘の上には、しゃがみ込んで花を撫でている少女がいた。


挿絵(By みてみん)


その傍らには、崩れかけた石のかたまり。

名前も刻まれていない。


(……あれ……あそこ、誰かのお墓みたい……?)


ラルが近づくと、少女は振り向き、メガネをそっと直して首を傾げた。


「……誰かのお墓?」


ラルの問いに、少女は小さく首を振った。


「ううん、よく分からないの。

でも……ここに座ると落ち着くのよ。

気づくと、この花の前に来ていて。」


風が通り抜け、花の茎が小さく揺れた。


(……を……まも……って……くれ……)


誰かの声のような、風のささやき。


ラルは肩を震わせ、あたりを見回した。


「えっ……今の、誰?」


返事はない。

ただ、風の向きが変わっただけだった。


「……守る? 何を……?」


ぽつりと呟いた声に、少女が聞き返す。


「え? いま、何か言ったの?」


「……ううん。風の音が……ちょっと、誰かの声に聞こえて。」


少女はふっと微笑み、髪を耳にかけた。


「ふふ……この丘、よく喋るのよ。

きっと、気のせいだわ。」


ラルは小さく息を吐き、照れ笑いした。


けれど胸の奥には、微かな熱が残った。


――何かを“守らなきゃいけない”ような気がした。



ラルは、柔らかく笑う少女の気配に少しだけ肩の力が抜けた。


「ラルだよ♪ 成瀬ラル!

……えっと、その……呼びやすいほうで呼んでいただければ幸いであります♪」


少女──ユラは小さく微笑んで、メガネをそっと直した。


「変な言い方するのね。」


「私は……新生ユラ。ユラって呼んで。

“ラ”繋がりね……ふふ。」


ふたりは同時に笑った。

その小さな笑いが、丘の風にさらりと溶けた。



ユラがラルのノートを覗き込む。


「……それ、どんなものを書いてるの?」


「あ、これ?」


ラルは少し照れながらページを開いた。


《法は、未来を生きる人の為にある♡》


「なんかね、ふっと思いついちゃって。

落書きみたいなものだよ♪」


照れたまま、ラルは指先でその言葉をなぞる。


──カンッ。


空のどこかで、小さな音が響いた。

丘の空気がふっと変わる。


風が草をなで、

土の奥から淡い光がにじむ。


そして──

枯れた花が、ほんのわずかに震えた。


茎に春のような温もりが宿り、

花弁が一枚だけ、ゆっくりと開く。


ラルは息を呑んだ。


ユラはその変化に気づかず、

ただ開いた花を見つめ、ほっと微笑んだ。


そのほんの少しあと。

背後の草が、ふわりと揺れた。


ラルが振り返ると、灰色の猫が座っていた。

音も立てず、ただじっとこちらを見ている。


「こっそりくんだ♪

いつの間にそこに……ほんと“忍びスキル”高いなあ♪」


ユラは思わず吹き出した。


「なにそれ……ふふっ。

でも……静かな子なのね。」


「うん、ぜんぜん鳴かないの。

勝手に“こっそりくん”って呼んでるだけなんだけどね♪」


猫は鳴かず、ただ静かに瞬きしていた。

風がふわりとふたりの間を抜け、その毛並みがやわらかく揺れる。


ラルが微笑むと、猫はまるで返事をするように尻尾を一度だけ振った。

それから、そっと視線を花のほうへ向ける。



ユラもその視線につられるように花へ目を落とし、

しゃがんでそっと指先を伸ばした。


その触れ方は、驚くほどやさしかった。


「……ありがとう。」


その“ありがとう”は、

花でも、ラルでも、猫でも、風でもなく──


崩れた石のほうへ。


ユラ自身、その理由に気づかないまま、静かに向けられていた。



帰り際。

ラルはノートを閉じて、小さく呟く。


「……光、なんだったんだろ。

今日の丘……なんか、いつもより優しかったかも♪」


丘の上に残った一輪の花が、

そっと、もう一度だけ揺れた。


そのすぐそばで、

灰色の猫がゆっくり尾を振り、

ふたりの背中を静かに見送っていた。

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