表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、剣を持つ。  作者: 初心なグミ
【一部一章:始まりの物語】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/23

6話「ダリアと領内散歩」


 澄んだ青空の下、人々の営みがそこにはあった。

 私はダリアと二人、エーデル領の街を散歩している。

 

「ルカお嬢様……コルン様との淑女磨きで、最近とても大変そうですよね」


 あの日、私が立てるようになってから幾許かして、コルンが私の教育係になっていた。

 主な教育は三つ、『礼儀』『教養』『嗜み』である。

 礼儀では、淑女としての立ち振る舞い方に、誰も彼もを魅了する美しい礼の仕方を──。

 教養では、文字の読み方は理解しているので、簡単な地理や歴史・経済などの知識に、使える社交辞令を──。

 嗜みでは、お紅茶をシバキながら菓子を食べ、将来で私が恥をかかないようにとダンスを──。

 私はほぼ四六時中、学んでいるのだ。


 故にこそ、私と手を繋いで街を歩くダリアが、そう苦笑いを浮かべたのだろう。

 が、しかし、私にとっては特別大変だとも思わない。

 何せ前世の祖父との稽古の方が、山篭りだの滝修行などで特段大変だったからだ。


「んーん。お祖母様の授業楽しいし、苦でもないよ。私よりダリアの方が色々と大変でしょ?」


 それはそうだ。ダリアは私のお守りだけでなく、他のメイドを束ねたり、家事のあれこれをしているのだ。

 客観的視点からして私の苦労とダリアの苦労、比べることすらも烏滸がましいというもの……なのだが。


「んー……そうでも無いですね? 私、何だかんだ二十四年間も居ますから。慣れた、というものです」


 そう、ニコリとした笑顔でいわれてしまった。


「そうですか……無理が無いようならよかったです。それにしてもダリアって、二十四歳なんですね?」


「ええ、そうですよ? それがどうかしましたか?」


「いえ。お若いのに(うち)のメイド長で凄いなって。それに、その剣といい、かなり腕も立つようですし……」


 私の視線はダリアが腰に差している剣へと向いていた。

 それは今まで見たことの無い得物で、先程からずっと気になってはいたのだが、ダリア共に凄まじい圧を感じる。

 いや……その凄まじい圧すらもが、ダリア自身によって手加減されているような、そんな気さえするのだ。

 しかしダリアは「よく分かりましたね」と、何処か嬉しそうな、されとて哀しそうな表情を浮かべた。

 その表情の機微について私には想像し難いが──、


「これも、ルカお嬢様を護るメイドの嗜みです!」


 ──と、笑って流されてしまったので、私にはそれ以上踏み込むことが出来なかった。


「ダリアは凄いわね……私には出来ない。……尊敬だわ」


「へ〜?ふーん? ルカお嬢様が私のことを……尊敬してくれている、ですか……ふっふふ……」


 ダリアの顔に影が宿った。かと思えば、二ヘラと口元を緩めて笑った。

 それに私は引き気味に、「ええ……まぁ……?」なんて肯定の意を告げると、ダリアが私の肩に手を添えてきた。


「ではでは。一度で良いので、私のこと、ダリアママって呼んでくださいませんか!?」


「へっ……?」


 興奮しているダリアが変なことを言ってきた。

 唐突な出来事で私は呆然し、変な声が出てしまった。


「お願いします! みなさんに内緒で一度だけ!」


「い、いやいやいや……べ、別に言うのは良いですけど、急にどうしたんですか!?」


「い、いや……そ、それは…………ただ、呼んでもらいたいだけですよ?」


「(一瞬、なんか悲しげなためがあったが……)まあ、それだけで気が済むなら、分かりました」


 ダリアの願いに応えることにし、「本当ですか!?」と嬉しそうにする彼女を裏に私は、コホンと咳をして──、


「ダリアママ、何時もありがとう! 大好き!」


 ──嘘偽りの無い本音を、少々の幼さと共に告げると優しく抱き着き、ダリアの背中を優しく撫でた。

 するとダリアが、私のことをぎゅっと強く抱き締めて、「愛してるわ」と涙ぐんだ声で呟いたのだ。

 私はこれを聞いていない振りをして、そっと静かに瞼を閉じると、ほんの少しの時間をこのまま過ごした・・・。


「ありがとうございます……ルカお嬢様……」


「いえいえ、これくらい大丈夫ですよ、ダリアママ」


「ひゃいっ!?」


「ふふっ。あ、それはそうと……今日って、一体何処に行く予定なんですか?」


 私の半笑いにダリアは赤面しながら、その透き通る海の様な青の髪を梳き、その場で立ち上がった。

 それに私も釣られて立ち上がると、「今日行くところはですね……えへへ」と二人手を繋ぎ、また歩みを進めた。


『うふふ。ダリアったら、昔はあんなに小さかったのに、今ではまるでルカお嬢様のお母様みたいね』


『そうだねぇ……ダリアもだがルカお嬢様も、日々スクスク育っていらっしゃる御様子』


『それもこれも、レーヴェ様にコルン様、シュタルク様にアルト様が、お役目を果たして頂いてるおかげだ……』


『ああ。これでここ、()()()()()()も安寧ってものさ』


 それは私達の一連を、遠目に眺めて涙ぐんでいた人達。

 パン屋のおばちゃん、果物屋のおじいちゃん、武器屋のお兄ちゃん、服屋のお姉さん──。

 そんな、今までの散歩で関わって来た街の人々だった。

 みんな優しくて親切にしてくれるので、私にとっては良いご近所さんって感じである。

 が、しかし。それほど近しい人達でもあるのだ。

 ダリアが「うっ……うぅ……恥ずかしいです……」と、先程までとは桁違いの赤面をするのも理解出来る。

 

「どうどう、ダリア。それで、何処に行くんですか?」


「あっ、ああ……それは、ココです……」


 ダリアが指差したのは花屋だった。


「花屋、ですか?」


「ええ。今日はルカお嬢様にプレゼントが……」


『あっ、ダリアだ! 約束の花、あるよー!』


 花屋の人と思わしきうら若いお姉ちゃんが、友達なのだろうダリアに手を振って微笑んでいる。

 私達はそちらの方に歩いて行くと、『あら。ルカお嬢様もいらっしゃったのですね』と、二人の目が合った。


「どうも、はじめまして。ルカ・エーデルです」


『これはこれはご丁寧に。私は花屋のマリーです。ちゃんと挨拶が出来るお嬢様には、花ちゃんをあげますねっ』


 マリーさんが「はい、どうぞ」と、一輪のマリーゴールドの花を手渡しでくれた。

 花弁のオレンジ色がまるで太陽のようで、生命の輝きを感じて胸がポカポカとするのだ。

 それが何とも心地がよく、無自覚に破顔していた。


「ありがとうございます」


『いえいえ。お嬢様の笑顔を見れて本望ですよ』


「こちらからもありがとう、マリー」


『いいって、いいって! それよりさ……はい、これ。例のクロッカスの花ね』


 マリーが包装されて後ろにあった、美しい黄色のクロッカスの花束をダリアに渡した。

 ダリアはそれを受け取ると、「ありがとう」と感謝を述べつつ笑みを浮かべ、お金の支払いを済ませた。


「ねえ、ダリア。この後、他に何処か行くの?」


「いいえ。特に予定はありませんよ? 早速、今日買った花達を飾りたいですし」


『そっかぁ。もう帰っちゃうのかぁ……残念。少しくらい遊んでいけば良いのに?』


 口惜しそうにいうマリーに、ダリアが心苦しさを表情に浮かべたが、私のことをその水色の瞳に捉えると──、


「そうしたいのは山々だけれど、何せルカお嬢様もいらっしゃるもの。長居は出来ないわ」


 ──そう、笑って誤魔化した。


(馬鹿ね・・・そんな下手くそな笑顔じゃ、子どもの私ですら騙せないわよ……)


 ただただ心苦しかった。

 普通ならダリアは今頃、好きな人と出逢って結婚して、子どもの一人や二人育てていて。

 私なんかに構っていないで、もっと自分の好きなことをしていて、もっと幸せな時間を過ごしてて。

 きっと私のせいでダリアは、友達と満足に同じ時間を過ごすことが出来ないんだ、って──。

 そう想うからこそ私は、ただただ心苦しかったのだ。

 

「ねぇ、ダリア。私は別に良いのよ? だって何時も頑張ってるもの、少しくらい遊んでもバチは当たらないわ」


「ルカお嬢様……」


『ほら、お嬢様もそういってるよ? 久しぶりにさ、あの花畑に行こうよ? お嬢様も一緒にさ』


「う、うん……わかった。じゃあ少しだけ。ルカお嬢様も良いですよね?」


 ダリアと目があった。その瞳には、申し訳ない思いに溢れているが、一筋の期待と楽しみが見て取れる。

 彼女は友達と遊んでいるとき、どんな表情でどんな声色でどんな風に在るのだろうか、と想う私がいて……。

 だからって訳じゃないだろうが、私もダリアと同じくらいに楽しみにしているのだ。

 

「ええ、大丈夫よ。逆に、楽しみなくらいだわ?」


『それじゃあ決まり。店仕舞いするからさ、行こっか』


 こうして私達は、マンテルの街の外れにある、豪華絢爛な思い出の地、花の園へと向かうのであった。


「ふふ。久しぶりね」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ