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悪役令嬢、剣を持つ。  作者: 初心なグミ
【一部一章:始まりの物語】

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5話「ここでの戦い」


 私は今、愉快な家族達に囲まれている。


「ほらルカちゃ~ん、こっちだよ~パパの方においで~」


「いやいやいや。偉いルカちゃん、パパの方にだけは行っちゃダメよ~? ほら、ママの方においで~?」


「ほらルカや。じぃじの方へ来い」


「もちろんルカは私の方に来るわよね?」


 彼ら彼女らはみな、家族四人の輪の真ん中にいる私が、一番最初に誰の元に行くかで躍起になっている。

 ちなみに当の私はというと──


(あ、圧が凄い!? 昔の私だったら、迷わず生前のおじいちゃんの所に行ったんだろうけど……。何だろう、期待されてることが恥ずかし過ぎてちょっと……)


 謎の使命感に、凄く恥ずかしがっていた──。



◆◆◆



 ──前回まで遡る。


「──立ったぁあああああああ!!!」


(あ、ホントだ・・・)


「こ、こ、こ、これは…………はやくみなさんに知らせないといけませんわ!」


(えっ、ちょっ……!?)


「失礼しますわね、ルカお嬢様!」


 私が初めて立ったことに驚愕したダリア。

 彼女は勢いよく、それでいて優しく、私のことを抱き抱えると屋敷中を走り回った。


・・・


 まずは最初に向かったのは中庭。

 そこには稽古をしている軽装の祖父と父がいた。


「俺が見てねぇ間に、ちったぁ腕、上げたじゃねーか」


「ははは。褒めたって何も出ませんよ? それに僕達は、力を付けなきゃ大切なものを守れませんから」


「まったくだ。ちげぇねぇ」


 向き合う二人は手に、鞘にある真剣を握っていた。

 それをダリアに抱えられ見ている私は、真剣という殺しの武器に驚きつつも、そんなものかと受け入れている。


「そんじゃあ続きといこうぜ?」


「そうですね。ルカにパパの良いところを見せないと」


「ガハハ、そりゃ残念だ。何せお前さんは、俺に負けるんだからよ?」


 このとき、祖父が抜剣した。

 鞘から解き放たれしは、光り輝く黄金の剣。

 太陽に照らせているそれは神々しく、光すらをも斬り裂くに難くないのだと、そう思わせる迫力がある。


「さて。それはやってみないと分かりませんよ?」


 続くように、父が抜剣した。

 鞘から解き放たれしは、闇に染まりし漆黒の剣。

 祖父とは正反対ともいえるそれは深く、一度目にしてしまえば離してやまない、強い魂が宿っている様だ。

 ちなみにそれは比喩でも何でもなく、当の私自身が父から目を離せないでいる、その事実からの感想である。


(何だあれ……。シュタルクの剣から、本人に似ても似つかない闇が、怨念が、魂が感じる。目が離せない──)


 父は中段に、祖父は上段に。

 二人はそれぞれ、異なった構えをとっている。


「・・・?」


 刹那の一瞬、二人の得物に光を見た。

 目を凝らしていたので間違いはない。

 そしてこれも間違いでなければ、今二人の全身には何か力のようなモノが、強く速く巡っているのだ。

 これを()で、体内を透過する様に()た。


「シュタルク──思いっきり来い!」

 

「──行きますっ!!」


 二人は地面を力強く踏み締め。

 そして、男の稽古が始まった──。


(二人とも凄い迫りょ……く………………え?)

 

 一斬りの突風が頬を撫でた。

 それは自然のものなどではなく、二人が剣を一振したときに生じた圧だった。

 そして、私がこれを認識したときだ。

 あまりに常識離れした事実が、まるで何も知らない子どもに教える様に、現実として襲い掛かってきたのだ。


(なに、これ…………? 地面が……抉れてる……?)


 二人の初撃から発生した衝撃が地面を深く抉っていた。

 しかし当の二人はこれを気にも留めず、またダリアも驚いた様子もなく、何事も無いかの様に稽古が続いていく。

 

 互いの剣を避け、防ぎ、隙を見て攻撃を挟み。

 読んで字のごとく舞う様に、一つ一つの動作を力強く、それでいて滑らかに繰り出している。

 それはあまりに無駄が無く、まるで、生前の祖父のような丁寧さだと目を奪われていた。


(当たり前だけど、どっちも私より格上だ……。これはちゃんと目に焼き付けておこう。勉強になる)

 

 両者退かぬ激戦が続いていく。

 二つの刃がぶつかった時に生じる音、そして火花。

 それらの現象が、この稽古における二人の冷めやまぬ熱を現しているのだとしても相違ないだろう。

 

「オラァア──ッ!!」

 

 祖父が叩き付けるように大振りの一閃を放つ。

 父の真っ黒な頭上へと黄金の剣が迫るが、彼はこれをブレイドに手を添えることで、何とかギリギリで受けた。

 

「そんなもんか!シュタルク──!!」


 その重すぎる力に受け手()の手は震え、その身体は片膝が着くほどに地面へと押し付けられる。

 が、父の()は未だ闘志で燃えており、諦めを知らない。


「うぁあああああ──!!!」


 父が吼えた。奮い立つように、力強く吼えた。

 手と脚の筋肉が膨れ上がり、血管が浮き出た。

 父の力が祖父の力を、徐々に押し返していく。


「何──っ!?」


 さながら生死を賭けた戦いである。

 互いに負けじと、相手を殺す勢いで力を出している。

 

 そして、これはおじいちゃんの受け売りだが、力とは肉体(強さ)であり精神(思い)である。

 ならば強さが互いに拮抗しているとき、どちらに勝利の女神が微笑むかなど、必然的な結果でしかないのだ。

 

 故に、この勝負に勝つべきは決まっている。

 それは──、

 

「負けられるかぁあああ!!」


 ──父である。


「ぐあっ?!」


 より強く地を踏み締めた父が、祖父の体を押し出した。

 負けた祖父は後ろへと少し蹣跚(よろ)けるが、その体勢を取り戻すべく素早く退った。


(──────)

 

 流石は強者(プロ)だ、攻守がちゃんとしている。

 第三者目線から見てではあるが、普通なら父が祖父に勝つことは叶わないだろう。

 が、これは殺し合い(普通)では無いのだ。

 大事な家族を護るために少しでも強くなりたい父と、そんな父の成長をみたいだけの祖父では、差があり過ぎた。

 だから祖父は父に敗れるのだ。


「僕は何よりも大切な家族を、命を賭けて護る騎士だ!」


「・・・・・・っ!?」


 剣を下段の、しかも後ろ側に構えた父が、文字通りの目にも止まらぬ神速で祖父へと肉薄した。

 祖父の手前まで詰め寄った父は、剣身の向きを斬能力の無い横へと変え、右足を一歩前に出す。

 このとき父の持つ漆黒の剣には、視認することが容易いくらいの黒い光が輝いて、その全身に纏っていた。


(はっ…………やるようになりやがって・・・)

 

 父の本気の一撃が来る。

 それは祖父だって気づいているだろう。

 しかし祖父は、難しい顔をするでもなく、心の底力から嬉しそうに微笑んでいた。

 

「これ、少しばかり効きますよ──お義父さん」


 今より放たれしは、

《数多の死の中で深い闇に抗い、一筋の希望を護らんと、命を捧げることを誓った騎士の剣。》

 故に、一度たりとも敗けは許されず。

 あるべきは必然、「勝利」の二文字だけである──。

 

「|闇を斬り光を護りし漆黒の騎士のシュバルカ・シュナイデン──ッ!!」


 放たれた渾身の一撃が祖父の腹に練り込み、共に孕んだ凄まじい衝撃が、その身体を吹き飛ばす。

 祖父の屈強な身体は、地面を何度かリバウンドすると、約五十メートル離れたところにある中庭の木に衝突した。

 

(す、凄い……これが、ここでの戦い…………)


 阿呆らしく口を開け、驚愕した。

 それは、これが戦いであることへの驚愕。

 そして、これが現実であることへの驚愕。

 その二つの驚愕である。


 まるで脳に電流が走ったかの様な気持ちである。

 が、しかし。それ以上に、何よりも一番に驚いていることが私にはあった。

 それは──、


(人間……いや、現実離れした速さだった……。普通なら目で見れるようなレベルじゃない、その筈なのに……。何で私はこれに──ついていくことが出来たの?)


 ──私自身への驚き、疑問であった。

 

 人は認識し、悩み、考え、克服する生き物である。

 特に自分自身への疑問であれば、これをすぐにでも解消したいと思うのが当然の摂理であろう。

 故にこそ、私もこれに対して頭を悩ませたが、ここで今すぐ晴れる問題で無いことも理解した。

 疑問を解消するには、あまりにも情報が足りない。

 ならば今段階では、あの千年戦争の本同様に、いずれの機会を待つしかないのだ。

 つまりはそう、棚上げである。


(んー……この世界特有の基準の場合もあるし、この家族が特殊で凄く戦闘に特化した血筋の可能性もある。後は単純に私が女神様に力を貰ったとかで特別な可能性も……。んー、情報が足りなさ過ぎる……。今決めつけるのは流石に早計か……。うん、今考えても仕方なし!)


 そうこうして私が結論づけたときだった。

 稽古を終えて此方へと寄ってくる二人を視界に捉えた。

 そこには腹に手を添え摩る祖父と、そして、それを心配そうに見ている父の姿があった。

 

「フィィ……いたた……」


「加減したんですけど、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。あんがとよ。それにしてもよ、シュタルクお前、滅茶苦茶成長したな?」


「お義父さんほどの人にそう言われると、やはり何時になっても嬉しいものですね」


 汗と泥が全身に滲む二人は、爽やかな表情を浮かべ私達の眼前へとやって来た。

 二人の姿からは何処とない色気を感じ、相手がもしも他人であったなら、間違いなくドキドキしていただろう。

 そのくらいのエロスがそこにはあるのだが……。


「お二方、お疲れ様です」

 

 どうやらダリアには何とも無いようで、清々しいまでに澄み切った笑みで二人を労っている。

 流石はメイド長ダリアである。

 

「おう、ありがとよ」


「ダリアさん、ルカを見てくれてありがとう」


 二人もダリアの労いに礼を返す。

 シュタルクと目が合った。彼は何か思い出したようにダリアに尋ねる。


「そういえばですが、ここには何をしに来たんですか?」


(あ、そういえば……忘れてた……)


 そういえば、とハッとした。

 どうやらそれはダリアも同じらしい。


「そう、それです! 私としたことが、すっかりと忘れていました! お二方、心して聞いてくださいね!?」


「「は、はい……?/お、おう……?」」


 ガバッと食らいつく様に迫るダリアに、私を含めた三人がやや引き気味ではあるが、それどころではない。

 何故なら早速とばかりに、間をために溜めたダリアが例の話を切り出したからだ。


「な、なんと! お嬢様が今日、初めて立ったんです!」


「「・・・えぇえええええ!!??」」


 男二人の絶叫が中庭の全体へと木霊する。

 これには私本人も、そんなに驚く?とびっくり。


「マジかよそりゃあ!?」


「はい!マジですよ!」


「う、うぅ……子どもの成長って速いですね……」

 

 特に感慨深そうにしているシュタルクに、当の本人である私が嬉しそうだな、とそう思い。

 ダリアもまた、同じように想ったのだろう。

 私の身体を中庭の地面に下ろすと、目と目を合わせてお願いするようにニコリと微笑んだのだ。


「お嬢様。お嬢様の成長を、お父上とご祖父様にお見せしてあげてくださいませ」


 私にこの想いを断ることは出来ない。

 人としても、この人達の子どもとしても、だ。

 

 私はこくりと頷くと、二人の元へと歩いて行く。

 少しずつ、ゆっくりと、だけど確実に──。

 やがて私が二人の元へと辿りつくと、涙目のシュタルクが私を抱き抱え、二人で喜び、褒めてくれた。


「よく、頑張ったね。ルカ」


「ああ……偉いぞっ」


 それは幼子「ルカ・エーデル」への褒め言葉だったが、私の胸が温かくなるくらいに嬉しかった。

 だからなのだろうか、私は自然と微笑んでいたし、それを見たシュタルクにぎゅっと抱き締められた。


(恥ずかしいし、こんなことで褒められてもだけど……でも何だか、ちょっとだけ嬉しい……)


「それではお嬢様。お二方には見せましたし、次は奥様方のところに行きましょうか」


 後ろから声が聞こえた。

 それは微笑ましそうなダリアの声で、私をシュタルクから引き剥がすと、優しく抱えてくれた。


「えぇ……もう行くのかい?」


「そりゃあ無いぜダリア……」


 ムスッとした表情で見ている二人が切実に、でもそれ以上に何処か悲しそうにダリアに訴えた。

 だけどダリアは私から言わせて貰えば、何処ぞのアルトさんみたく鬼でなければ、心の優しい母である。

 ならばこのときダリアから出てくる言葉は……そう、さも当然のように紡がれるに決まっているのだ。


「では、皆さんも一緒に来ます?」



◆◆◆

 


 こうして次々と屋敷の中を巡り……。

「フラワーガーデン」の母に、「ティータイム」の祖母を仲間にした私達は、冒頭の遊びに行き着いたのだ。


「ほらルカちゃ~ん、こっちだよ~パパの方においで~」

 

「いやいやいや。偉いルカちゃん、パパの方にだけは行っちゃダメよ~? ほら、ママの方においで~?」


「ほらルカや。じぃじの方へ来い」


「もちろんルカは私の方に来るわよね?」


(あ、圧が凄い!? 昔の私だったら、迷わず生前のおじいちゃんの所に行ったんだろうけど……。何だろう、期待されてることが恥ずかし過ぎてちょっと……)


 恥ずかしくて、そして決めれなくて……。

 自分を囲う四人の真ん中をアタフタしたとき、本当に丁度よく言うべきか、ドアの開く音が聞こえてきた。

 そして、そこからはダリアの声がして私は──、


「あら皆様方、何をしておられるのですか? ──って、あらあら? どうしたのですかお嬢様?」

 

 ──気づいたときには彼女の元へと駆けていた。


「だりあ」


「……えっ…………もしかして今、ダリア、って……?」


「えへへ」


「「「「ええええええええ!!!???」」」」


 ただただ絶叫し悔しがる家族と違って、ダリアの目からは一筋の涙が流れていた。

 が、これに気づいた者は私を含め誰も居なかった──。


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