21話「血を吐く俺と小さな少女」
魔力解放によって全身から溢れる魔力が、瞳に流れている決意の魔力が赤となり、空に線を描くように揺蕩う。
「『…………………………………………』」
刹那の静寂。
俺は気づいてしまった。
──否、知っていた。
「……は、はは…………」
俺は目を細め、微かに口角を上げ、虚ろを見据える。
ただ、ただ……親友と、仲間達のことを考えていた。
俺は木漏れ日のように儚くも淡い声色で、涙を零す。
「やっぱ、かなわねーか…………」
俺の放った親友との最終奥義は、風の魔力を膨張させて作り出したバリアで、すんでのところで軽減された。
俺はというと腹に穴が空き、致死量の出血と抉れ出た肉と骨が混ざって、何とも言えぬ気持ちである。
「……………………カハッ!」
痛い、痛い、痛い、いた……い……。
脳が麻痺して、徐々に痛みを感じなくなってゆく。
もはや、心地がよいとすら錯覚している。
──バタッ。
グリフォンの鉤爪が、俺の腹から外された。
引っ掛かるように体内から出るので、見るも無惨にも臓腑が引き摺り出されている。
瞳は虚ろへと染まり、地面に膝を着いた。
「……ぁ……ぁぁ…………ひゅぅ……ひゅぅ…………はは」
息が出来ない。もうそろそろ死ぬ。
俺は、この天空で、グリフォンに敗れ死ぬ。
何ともまあ呆気なく、静かな最後──。
そう、思っていたが。
『ピギャアアアアアアアアアアアア!!!!』
「──~──~~───っ!!」
──ドガァアアアン!!!
ほとんど死骸と化した俺の身は、猛禽の鉤爪に掴まれ、空へと続く歪な石の回廊に投げ落とされる。
分断された岩塊を貫くように、轟く衝撃と舞い上がる土煙を纏いながら──俺の勝利を信じて、帰還を待ち続けるシュピツエのもとへと、堕ちていく。
「コーパァアアアアアアアア──ッッッ!!!」
俺は地面に衝突せず、シュピツエに受け止められた。
が、しかし。俺を受け止めたシュピツエは、あまりの勢いに数メートル飛ばされてしまった。
「………………………………っ!」
俺達の身体は地へと無様に伏せた。
「ちっ──!!」
(もう、終わりか……)
視界がボヤけて見える。
が、すぐそこにグリフォンが居る。そのどうしようもない事実だけが、ヒシヒシと五感で伝わってくる。
「……………………」
もはや俺もシュピツエも戦えず。
シュピツエに至っては剣を握ろうとするが叶わず。
ただ、ただ……理不尽な現実に追い詰められていく。
やがて。
けたたましい咆哮の、その圧を感じた。
ドシドシと揺れる大地を、壊れた背中で感じた。
──何も見えない。
(シュピツエの野郎は何をしてんのかなぁ……。なんも、なんにも……アイツの顔すら見えねーや……)
静かな世界で俺は鎮座していた。
(シュピツエには悪ぃことしちまったなぁ……)
後悔ばかりが募っていく。
やるせない。
俺が、弱いばかりに……。
俺がもっと、もっともっと、レーヴェ様みたいに強かったのなら……アイツを巻き込まずに済んだのに……。
「くそぉ……」
悔しさに涙を流した──そのときだった。
「っ!!」
──感じた。
小さな小さな拍動を……。
眩い希望の光を……。
俺は微かに感じた。
だからなのだろう。
諦めてすらいた生を繋ぎ止めるように、まだ体内に残留している魔力を全身に巡らせていた。
「……………………」
意識が覚醒した。
俺はシュピツエに運ばれ、木に凭れ掛かっていた。
俺の眼前には、こんな俺を護るために、ボロボロのシュピツエが立ち塞がっていた。
そして。そんな優しいシュピツエが今まさに、グリフォンの毒牙に穿たれようとしていた。
何も無かったのなら、俺達は二人まとめて死んでいた。
しかし。しかし、そうはならなかった。
スタスタと聞こえてきた小さな足音が、徐々に、徐々に大きくなっていき──救世主が現れたのだ。
(……キミ…………は……………)
それは、本来であれば俺達が命を賭して護るべき者。
これからの未来を背負って立つ、綺麗で輝かしい小さな小さな幼き蕾であった。
「私はもう、逃げないっ!! そう、決めたんだ!!」
そうだ、彼女の名は──。
「……ル、カ…………」
──ルカ・エーデル。
隊長の得物を腰に吊るした彼女は剣を握った。
バチバチと、彼女の全身に電流が走った。
彼女は眼前に居るグリフォンを睨むと、全身に巡っていた魔力を足と剣に集中──地面を踏み締め、そして……。
「!!」
俺は自分の目を疑った。
それは刹那、一瞬にも満たぬことであった。
雷鳴の如く魔力を輝かせたかと思えば、彼女は目にも止まらぬ速さで抜剣。
あの強敵であったグリフォンを、俺達が命を削っても殺りきれなかったグリフォンを。
──細々に、八つ裂きにして魅せたのだ。
「建御雷神──ッ」
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA──ッッッ!!!』




