17話「五人の兵士」
ここから本格的なバトルが始まります
──魔物。
それは人を襲いし、邪の権化。
打倒すべき、我が人類の仇敵。
魔物には種類がある。
俗に言う魔族に近しい種族である妖種から、翼の生えたトカゲ畜生こと龍種に、ただのトカゲこと竜種やら。
その他にも獣種、鳥種、魚種、虫種、草種──言葉そのままの見た目と、性質をしている魔物がいる。
特に妖種に関しては、王、公爵、伯爵、子爵、男爵、騎士と力によって組み分けされており、その王というのが【魔王】のことである。
よって強力な魔王は妖種から誕生する(呪いによって人が魔王化することもある)のだが、他にも妖種と同じ様に強大な魔力を持ちながら固有魔法も使ってくる龍種──。
この妖種と龍種をツートップに、魔物の枠組みによって力の差も大きく異なってくる。
例えば、妖種一人で龍種十から二十匹程度の力を持つ。
なので基本は、魔物内コミュニティでのヒエラルキーが確立されているのだ。
が、極々稀に、そのヒエラルキー格差を無くす規格外な魔物が誕生する。
その規格外な魔物は全て神性を持ち、一匹一匹が魔王にも匹敵し得る強さを持つ、空前絶後の超生物──。
人はそれを──【幻想種】と呼ぶ。
『ピギャアアアアアアアアアアア───ッッ!!!』
◆◆◆
私の眼前には、クラウスが名前を叫び形容した魔物──幻想鳥種・グリフォンが空中に在る。
かのグリフォンは死と圧を感じさせる様な、禍々しい魔力を放ちながら、小さな私達を上から見下している。
私はけたたましい咆哮に屈しぬよう、そして少しでも隙を見せぬように、眼前にいるグリフォンを睨みつけた。
──否、睨みつけることしか出来なかった。
グリフォンは強い。ゲームでは魔王に次ぐ強さで戦場に登場し、何度も苦戦を強いられた。
特に、風属性の魔法攻撃が高威力の範囲攻撃で、中々に厄介な存在であった。
私はそんなグリフォンと、ゲームでも何でも無い現実の生身で相対している。
今まで生で魔物など見たことが無かったが、いざこうして対面してみると、かなり恐ろしいものがある。
これからはこんなのと戦っていくのか、と足が竦む。
レンやクラウスにアベルなど、お姉さんとして護るべき存在が居なかったら、今頃泣いて逃げ出しているだろう。
そう思わずには居られないくらいに、この緊迫とした状況が恐ろしくて仕方ない。
そして。グリフォンもそれに気づいたのだろう。
その屈強な大羽をはためかせ、風の様な速さで湾曲した鋭利な前足を、私へと振り下ろしてきた──。
「──っ!」
刹那の反射で魔力による脚力の強化をし、後ろに控えているレンを抱きかかえ、斜め後ろへと一瞬で回避。
グリフォンは私達を過ぎり、急旋回。またも私達の方へとその巨体を向ける。
「お姉ちゃん!!」
「ルカさんっ!!」
「大丈夫ですか!?」
「ははっ、危なかったぁ……。でも大丈夫!!」
本気で死ぬかと思ったが、それはそれ。
不安と心配の色を見せる表情で私を呼ぶ三人の為に、精一杯の虚勢で誤魔化し、ニコリと微笑んでおいた。
それにしてもこれ、どうやって逃げよう……。
ゲームだと風属性の広範囲魔法攻撃と、前足を使った物理攻撃が主要攻撃で……。
ここで回避に専念しても直ぐに全滅するだけだし……。
かと言って背中を見せて猛ダッシュしたところで、私達なんか一瞬で追い付かれて、足で掴まれて他界他界……。
言うまでもないが、私如きが何かをしたところで、それは相手にとって毛程のダメージにもならない……。
(はっきり言って詰み! だけど、そう簡単に諦めてしまう訳にはいけない!! ──どうする!?)
右手で後ろに居るレンを守りながら冷や汗を垂らし、そう思考を巡らせているときだった。
グリフォンに向けて一本の剣が投擲された──。
『────っ!?』
グリフォンが黄金色の瞳の瞳孔を丸めた。
どうやら投擲された得物は威嚇目的らしい。
私達とグリフォンの丁度中間に突き刺さり、その立派な銀の剣身が、太陽の光をギラギラと反射している。
「ご無事ですか!みな様!!」
それは、最初に私達を案内してくれた人の物だった。
彼は私達の前に立つと、地面に突き刺さっている剣を引き抜いて構え、私達に向けてニコリと微笑んだ。
彼に続くように他の兵士達も、ぞろぞろと駆け足で私達を護るように庇ってくれた。
離れていた所で私達を護衛してくれていた城兵が、先程よりも二名程数を減らして助太刀に来てくれたのだ。
クラウスが満面の笑みで、心底嬉しそうにしている。
「みんなっ!来てくれてありがとう!!」
「当たり前です!この国の子ども達は皆、大人が命を賭してでも護らなければならぬ、大切な宝なのですから!!」
「ブレイブ!」
「それに、可愛い可愛い弟弟子が困ってたら、助けるのが兄弟子の役目ってやつだよな!!」
「コーパー!」
「ブレイブとコーパーの言う通りだぜ!」
「シュピツエ!」
「遅くなってゴメンね。怖かったよね。みんなは後ろに下がっててね。いまクリンゲとクノーフが、急ぎで国王とレーヴェ様に報告しに行ったからね!」
「グリフ──みんなっ!」
城兵のみんなは優しくて……私達を不安にしまいと、満面の笑みで笑って見せた。
でも私には、それが強がりであることを理解出来た。
──否、理解してしまったのだ。
微かに震えている脚が。冷や汗をかいて、上手く剣を握れていない手が。恐怖で乱れている呼吸が──。
私には全て……全て、視えてしまっているのだ。
が、しかし。まだまだ子どもで弱い私には、優しくて強い彼らの為にと、何かが出来る訳がないのだ。
だから私は忸怩たる想いに下唇を噛み、血が出るほどに自分の手を握り締めるしかない……。
『ピギャアアアアアアアアアアア────ッッッ!!!』
先程まで静観し、追加された敵なのか獲物なのかを見極めていたグリフォンが、再度咆哮を轟かせた。
──バタッ!バタッ!バタッ!
グリフォンがその大羽で風を起こし、まるで襲いかかる予兆の如き姿勢で、私達へと威圧を与えてくる。
「くっ……なんつぅ圧だよ──!」
「ああ……気ぃ抜いたら一瞬で吹き飛ばされるぜ!」
「でも、僕達が時間を稼がなきゃだよね!」
私達の眼前に居る四人は覚悟を決め、バタバタと抑圧してくる風を足を踏み締めて耐え、前へと顔を見上げた。
「みんなっ!行くぞ──!!!」
「「「──応……ッ!!!」」」
戦いの火蓋が切って落とされた。
ブレイブの掛け声で一斉に駆け出し、グリフォンを取り囲む様に一瞬で陣取って行く。
(──速い!! 流石は王城の兵!プロだ!)
まず最初に攻撃を仕掛けたのはコーパーであった。
「うらぁああああ───っ!!!」
ガタイの良いコーパーは、他の人よりも少し大きな得物を上段に構え、飛び掛る様にグリフォンへと肉薄。
高くへと跳躍し、グリフォンの頭目掛けて、剣を上から下へと縦に振り翳す。
しかし相手は空中戦のプロである。一度その羽を動かすだけで回避し、次に来るであろう攻撃にも備えている。
──が、それがどうしたと言うのか。此方の兵士達も戦闘のプロである。
ならば──第二第三の矢があるのも自明の理なのだ。
「こっちだぜ!!」
細マッチョの兄貴系兵士であるシュピツエが、コーパーの作った隙を突くように、剣先の軌道を描いた。
それはグリフォンの背中を掠り、微小ではあるが皮膚の高い防御力を貫通。痛みと共に出血を促し怯ませ──。
言葉通りに間髪入れず、私達に優しく寄り添ってくれたお兄さんことグリフが、剣に集中していた魔力を放った。
「喰らえ!!──斬撃ッッッ!!!」
剣に流していた魔力が飛躍する斬撃となり、空を斬ってグリフォンへと直撃。
これにはグリフォンも、刹那の動揺を見せる。
「今だ──っ!!」
傷を負い動揺しているグリフォンの眼へと、地面に足を力強く踏み締めたブレイブが、鋭い剣を素早く投擲──。
──ヒット!!
グリフォンの瞳に深く突き刺さった剣が、傷口から流れる赤黒い血で視界を狭め、相手の運動感覚を鈍らせる。
「「まだまだぁ!!!」」
上段に構えたコーパーとグリフが、それぞれグリフォンの左右の両翼へと肉薄。
出血によって出来た死角を利用して接近し、空高くに退避しようとするグリフォンの翼を斬りつけた。
『グガァアアアアアアアアア──ッッ!!』
鳥種にとって命とも呼べる翼に傷をつけられたことで、グリフォンは初めて悲鳴を上げ、バランスを崩した。
そして。それを見逃す兵士達でも無い。
ブレイブはグリフォンに向けて走り、一瞬シュピツエの方を見ると、腹から大きな声を張り上げる。
「シュピツエ!!俺を飛ばせ──!!!」
「了解だぜ!リーダー!!!」
シュピツエの斜め前に向けて跳躍したブレイブは、シュピツエが構えている剣身に足を乗せ──、
「おらぁああああああっっっっ!!!」
──シュピツエに押されるようにして、前方を飛んでいるグリフォンへと、音速と見紛う超高速で飛ばされた。
グリフォンの元へと一秒も経たず、コンマ数秒の時間で辿り着いたブレイブは、上昇していくグリフォンの瞳に刺さっている剣を身体を捻ることで強引に引き抜き、その反動でグリフォンよりも高い位置に……。
遂に身体が上昇する運動エネルギーと、世界を包む重力のエネルギーが拮抗した瞬間──。
銀色に輝く剣を片手に構えたブレイブが、グリフォンの首へと目掛けて自由落下していく。
その間、得物と自分の全身に魔力を付与して強化。
高速で身体を何度も回転させることで、更には遠心力すらをも自分の味方にして──そして!
「隕落の一撃──ッッッ!!」
歯を食いしばった痛恨の一撃を与えた!!
『GYAAAAAAAAAAAA────ッッッッッ!!!』




