11話「プライベート謁見」
城内に入った私達は兵の案内で、王様が待っているという客室に向かっていた。
客室までの通路は豪華絢爛という言葉が、これ以上ないまでに的を射た表現をしていて。私とレンはどことないアウェイ感に包まれ、四方八方に視線を向けていた。
が、それも少しの間の話で、やがて客室の扉の前まで来ていた私は、気持ちを切り替えてここに立っている。
「王様、どんな人なんだろうね? ね、お姉ちゃん」
私に耳打ちをするように、レンが囁いた。
これに私が「会ってみればわかるわよ。大丈夫、お祖父様が良い人だって言ってたもの」と、小声で返答。
すると。コルンが私の、レーヴェがレンの頭を撫でて、安心してと言わんばかりの柔和さで微笑んだ。
『それでは貴賓の皆様方。この先で、主君がお待ちしております。どうぞ、お入りくださいませ』
ガチャ・・・客室の扉が開いた。
そこには、男女二人の大人と、そして男女二人の同い年くらいの子ども達が、フカフカな椅子に座って居た。
男性──赤髪赤眼の国王は、まさしく威風堂々たる佇まいで雄々しく、何処か歴戦の勇士を思わせる。
女性──金髪碧眼の王女は、まるで凛と咲いた一輪の花の如く品格で、優雅を絵にした様な人である。
男子──金髪赤眼の王子は、幼くて可愛らしい顔立ちではあるのだが、芯が強くて自信に満ちている。
女子──赤髪碧眼の姫様は、まるで人形の様に華奢で綺麗な姿をして、惹き込んで離さぬ魅力がある。
と、それらが私の主観による、四人の感想である。
私達エーデル家四人は、そんな王族の方へと向かうと、全員で膝を着き頭を垂れる。
「我が王よ。レーヴェ・エーデル、参上仕りました」
私達の謙譲の姿勢。これに王は、何やら面白い様子。
レーヴェの方を見ては「ハッハッハ」と笑い、立ち上がって此方の方まで歩み寄って来た。
「良い良い。頭をあげよ、皆の者」
「はっ!」
どうやら許可を頂けたようで、一斉にその頭をあげる。
このとき王は、扉の前で護っている城兵に「そなたはもう下がっても良いぞ」と、この部屋から立ち去らせ──、
「久しいな、レーヴェ──我が心の友よ」
「ああ、オスカー。テメェも元気そうで良かったぜ」
──と、立ち上がったレーヴェと友愛のハグをした。
「それにしても、ルカとレン、か……」
オスカーと呼ばれた王と目が合った。
その瞳には温もりが孕んであり、祖父が孫に向ける愛情と同様なのだろう。
「俺の自慢の孫だ。可愛いだろう?」
「ああ。それに二人とも……特に姉のルカの方は、とてつもない力を帯びている。これはレーヴェ、お前より強くなる運命を背負ってるぞ?」
「おう、知ってるぜ? なんたって自慢の孫だからな」
「そうかよ、そいつは良かったよ」
強くなる運命を背負ってる、か。
それってきっと──私が強くないと、強くならないと、世界を救うことが敵わないからなんだよね。
こうして、やり直しの機会を貰ったからには、彼女との約束を果たしてあげたいけれど。
何をもって世界を救うのか、一番大事なそれを聞いていなかったから、どんなに考えてみても分からない。
だから精々今は、出来ることを積み上げるのみだ。
なんて、私が未来を見据えて前を向き直すと、王が後ろに控えている三人に声をかけた。
「お前達、こっちに来なさい」
「はい。お爺様」
「分かりました。お爺様」
「分かりましたわ」
王の言葉に呼応するように、後ろに座っていただけだった尊き血の三人が、堂々と佇む王の隣へと位置した。
その瞳には一片の澱みすらも無い。特に女の子の方は楽しそうに、イタズラな笑みを浮かべているのだ。
が、男の子の方は何やら思い詰めている様にも見えた。
何をそんなに強ばらせる必要があるのか。隣に居る妹なのか姉なのかの様に、年相応にすれば良いのに──。
などと私は密かに愚考するが、その身勝手な憐れみは、彼と視線が重なったときに理解し、霧散した。
だって・・・彼の悩みの要因は恐らく──初めて会ったはずの私にあるのだから……。
私は思いがけず、彼から目を離していた。
「ああ、そうだ……みなも立ってくれ。今日はあくまでプライベート……無礼講というものだ。楽にしてくれ」
私と彼の雰囲気を知ってか知らずか、王が今もなお片膝を着いていた私達にご高配を賜る。
これにコルンが、「ご厚情を頂き感謝申し上げます」と礼を述べた後に立ち上がったので、私とレンも同じように続いて「感謝します」と身を起こした。
すると、「それじゃあ、まずは挨拶といこうか」という王の提言で私達は、それぞれ、挨拶をすることになった。
「初めまして、お二人さん。俺はこの国の王をしている、オスカー・シュヴェアート。お前さん等の祖父、レーヴェの戦友だ。オスカーおじちゃん、とでも呼んでくれな」
王が私とレンの頭に手を添え、優しく撫でながらいう。
「分かりました。オスカーおじちゃん」
「おうっ! それで──」
王が隣に居る女性の方を振り向いた。
そして。これに気付いた彼女は、私達を見据える。
「私がこの国の王妃、アン・シュヴェアート。アン様、もしくはアンおねえ様とお呼びになって」
「はっ! お前、おねえ様なんて歳じゃねーだろ。若作りは肌だけにしと、け…………ぐふっ!?」
「「な・に・か・し・ら?」」
王の腹部にコルンとアンの拳が練り込んだ。
女性二人の表情は般若の如く──眉毛がピクピクするのと連動するように、より深くダメージを与える。
「なんで・・・コルン、まで・・・」
「まあ、ふふふ。女性に……それも、私の大事な大事な茶飲み仲間にあんなことを言うなんて……ねぇ?」
キツそうにしている王だが、それもそのはず。いま二人の拳には、魔力が集中しているのだ。
この世界では、魔力を身体の部位に集中させることで、その能力の強化を行うことができる。
人によっては、拳に魔力を集中させることで、巨大な岩すらも破壊出来るレベルだ。
如何にひ弱そうな二人の女性とはいえ、ノーガードで食らってしまっては、それなりのダメージになるだろう。
ちなみにだが。例の戦友だかはこれを、「ガハハ!」と大爆笑して傍観している。
「す、すまぬ…………だから、もうやめてくれ…………」
「うんうん。それで良いのよ、あなた」
王の謝罪によって攻撃を辞めた女性二人。
アンは王に恐ろしい笑みを魅せると──、
「ねえルカちゃん。アナタも是非、私のことはアンおねえ様って呼んでね?」
──私の方を向き直し、巨大な釘を刺し込んできた。
「わ、分かりました……アン、おねえ様……?」
「えぇ……えぇ……そう、そうですよルカちゃん。アナタは凄くすごーく、偉くて可愛いですわね」
(ひっ……ひえっ!)
こ、怖い……。寝惚けて「おばあちゃん」と呼んでしまったときのコルンが、「いま、なんて言ったのかな?」って静かに問いただしてくるとき並に怖い……。
正しくは、私が「お祖母様は美しいですよ」とフォローした後の、「あら~ちゃんと分かってるじゃない」っていう、明らかに笑ってない笑みのときのコルンだが……。
私は思わず、身の毛が弥立ってしまった。
しかし。どうやらアンの猛攻は止まらないらしい。
今は先程まで傍観していたレンにまで、そのターゲットを集中させ、毒牙に掛けようとしているのだ。
「レンちゃんも、私のことはアンおねえ様って呼んでね」
アンはレンの眼前に位置し。しかも、小さいレンの目線に合わせるように、屈み込んでいる。
私はその気遣いに誠実さを感じているし、悪い人でないことも容易に理解出来る。理解出来るのだが。
四歳に対しても言うのは、正直に如何なものかと思う。
だから私が、二人に待ったを掛けようとしたが。
「はいっ、アンおねえ様! アンおねえ様は、まるで絵本で見たお姫様みたいで素敵です!」
と、レンが素晴らしくも恐ろしい愛想を振りまき。そして、アンにぎゅっと抱き着いたのだ。
その姿はまるで、愛くるしい子犬の様である。
(レン……おそろしい子!)
これに戦慄してやまない私であるが、どうやらそれは私だけで無いようで。
つい先程まで腹パンをされていた王や、それを見て爆笑していたレーヴェまでもが、愕然と凝視している。
「ねえ、お兄様。これ、私達も真似しませんか?」
「いや……僕はちょっと……恥ずかしい、よ…………」
名を知らない王子と姫が、ボソボソと小声で囁いた。
その内容からして、二人も色々あるんだな……と、同情をしなくはないが、少なからず私には聞こえているのだ。
もう少し声量を小さくした方が良いと思う。
「………………………………ホシイ」
「「「「「………………え?」」」」」
アンが何かを呟いた。が、誰も何も聞こえなかった。
私とレンを除いた残りの五人が、アンに反応した。
アンの手は小刻みに震えているが、やがてレンの背中へとまわっていって……。
「私……この子、欲しい……」
と、強く抱き締めた。
「「「「「「はぁあ!?」」」」」」
レンとアン以外の六人が、揃ってその困惑を顕にした。
そして。私の目の前には、「お姉ちゃん……助けて……」と今にも泣きそうな表情のレンがいた。
だから私が「ちょっ……それは困りますよ……」って、アンに異を唱えたのだが……。
このとき、驚くべきことに──アンの身体が徐々に、子どもの様に、小さく、幼くなっていったのだ。
「って、えええ!?」
この事実に私とレンは吃驚し。特に私は、思わず声にも出してしまった。
しかし。他の面々は「あちゃー……」と、手で額を抑えているだけで……何か知っているようだった。
「えっ……?え……どうなってるんですか、これ……」
「いやあ……俺の妻がすまんな、二人共」
謝罪の言葉を述べたのは王であった。
彼はぎゅっと離さないでいるアンから、レンを解放して姉である私の方へと返してくれた。
「お姉ちゃん……怖かったよぉ……」
レンが私の胸元に泣きついて来る。
私は柔く抱擁して、その背中を優しく摩ってやる。
「うん、そうだね……怖かったね……。これから女性を褒めるときは、まずは考えてから褒めようね」
「……うぅ…………うん、わかった…………」
悪戯に女性に愛想を振り撒くと痛い目にあうって、身をもって勉強した将来のプレイボーイ、レンであった……。




