第二章一話 土手の午後、影の距離
あの日の空は、見上げるにはまぶしすぎた。
空はまだ薄い青で、太陽が真上に近かった。空に浮かぶぼんやりとした白は、形を持たず、ただ流れているだけ。俺たちにとっての夏の終わりの日は、未だ蒸し暑く、日差しがジリジリと蝉の声を肌に響かせていた。
いつも通り光が先頭で、その次に華蓮と七瀬がいる。後ろの二人は、俺と華蓮が入れ替わったり、隼と七瀬が入れ替わったりしていた。それでも光はずっとみんなの前にいて、いつも笑顔でいた。
だけどこの日はみんなバラバラになっていた。
風は弱くて、熱を撫でるように肌をなぞった。
河川敷の草は押しつぶされ、土の匂いと湿気が立ち上っている。
「ここなら、座りやすいと思って」
光が、どこから出してきたかわからないレジャーシートをバサッと広げた。
白いTシャツに短パン、頭には麦わら帽子。その帽子についた白いリボンは、帽子のツバから垂れている。
「風、全然ないね……」
華蓮が口元に手を当てながら言った。薄い水色のスカートが足元で揺れて、陽射しの中で白く輝く。
僕は、二人のやりとりを少し離れた木陰から眺めていた。
その距離は、日陰のぶんだけ涼しくて、
でも、心は少しだけ焼けるようだった。
「おい令、熱中症で倒れんなよ」
隼が缶ジュースを二本持って戻ってきた。ひとつを僕に放り、もうひとつを自分で開けた。
プルタブを引いて、ガスが解放された音と、缶の底から上がってくる何かの音が聞こえる。
「気が利くな、お前にしては」
「気を利かせてんじゃねぇ。お前が面倒になるのが目に見えてるからだよ」
隼の軽口に、僕は苦笑するしかなかった。ちょうどこの前、部活で頑張りすぎて倒れたばかりだった。
隼とは陸上部の繋がりで、中学の頃からライバルだった。高校になってからは一、緒に肩を並べて走るようになったけど、俺達の競争はより激化した。ライバルで、親友みたいな存在。走る速さは俺の方がコンマ5秒速いぐらい。隼はその日、いつになく走る本数を増やして、それに負けじと練習に付き合っていた。
少し遅れて、七瀬が来た。その時には四人はもうレジャーシートに腰を落としていた。七瀬は白いワンピースの裾を手で押さえ、スケッチブックを小脇に抱えている。彼女はその白い姿と共に風を運んできた。
「今日も絵描くの?」と僕が訊くと、七瀬は軽くうなずいた。
「忘れないように」
その言葉に、光が一瞬だけ顔を上げた。
けれど、何も言わずに再び地面に目を戻した。
代わりに華蓮が笑って、言った。
「じゃあ、ちゃんと綺麗に座っとかないとね。」
その笑顔を見たとき、なぜだろう、胸の奥が少しだけ冷えた。
笑っているのに、そこには何かが欠けていた。
夏の夕暮れの空は、まだ高く、白く、大きく、ただそこにあるだけだった。
この本を手に取ってくださいまして、本当にありがとうございます。感想や反応をくださると大変喜びます。
初めまして、天海双達と申します。普段は写真を撮ったり、映像を作ったり、小説を書いていたりしています。
この小説は、一昨年僕が書き始めた演劇の脚本を元に作成しております。高校演劇をするための台本だったため、色々と縛りがあり、小説との表現の違いに悩まされたりしています。少々無理矢理な表現もあったりするかもしれません。少し大目に見てくださると助かります。
普段はInstagram、TikTok等で活動しています。僕の写真や映像に興味がある方は、少し寄ってみてくださると大変嬉しいです。