元病棟と出会い
俺は施設の最後の”科”、介護福祉科を近衛部長の案内で訪れた。近衛部長は”介護福祉科は独特だ”と話した後、観音開きの扉をノックした。元病棟とあって分厚い扉。その扉の向こう側から人の気配を感じる。”ガチャ”と扉が開き、中から、チームリーダーの平澤つぐみが顔を覗かせた。部長が”ちょっといい?”と話すと、平澤が扉を開けた。近衛部長は俺をチラリと見ると、”受講中だから静かにね”と念を押すように話す。中はかなり広く、数台のベットがあり、1人1組のペアになって実習をしていた。その様子を近衛部長と俺は静かに見ている。と俺は1組のペアに講義を行う1人の女性が目に映った。他が車椅子の移乗練習をしていたが、”彼女”はテーブルに向かい合わせになる様に受講生と座り、パソコンを使いながら、何やら説明していた。「心疾患、高血圧症など…」…何をしているんだろう?と見ていると、それに気が付いた平澤さんが教えてくれた。
「彼女は管理栄養士の資格を持っているんで…今日だけ講義を…。何時もだと夜間の橋田さんなんですが、今日、橋田さんお休みなので…あの2名は今日、初めて受講されに来た方々です。」
平澤さんがそう話すと、近衛部長は驚いた表情を見せた。「”藤原さん”、資格もってるんだ…。」
そう小声で話す。近衛部長は総活部長と言っても、3年前に本部から異動してきた身…全ての部下を把握している訳じゃない。「ありがとう。では…」そう部長がコソッとお礼を述べると、平澤さんは扉をそっと開けた。”ガチャ…”そっと音も立てず介護福祉科を出た部長と俺。”誰か”が気になるのか、部長は振り向いて、介護福祉科の扉を眺めていた。そして、肩を落とすような、ため息を付くと、近衛部長は俺に方に向きを変えた。「…さてと…案内はこれで終わり。これからオリエンテーションになります。あ…仁科室長!」
たまたま総合ステーションに来ていたPC科の仁科光貴室長に声をかけた。ステーション内から出てきた仁科室長は俺らを見て、「あ、案内が終了しましたか?」とにこやかに尋ねた。近衛部長は「えぇ、今丁度終わった所です。」と返すと仁科室長は、俺を見て、「では、PC科へ…オリエンテーションを行います。河本主任こちらへ。」…近衛部長が仁科室長に”後はよろしくお願いします”と一言話すと、仁科室長は軽くお辞儀をし、俺をPC科室へと案内した。
「ここがPC科です。」
案内された扉を開けると受講生達がパソコンを打っているのが目に入ってきた。”カタカタ”と音が聞こえる。本部と変わらない講義の風景だが1つだけ違っていた。それは、受講生が車椅子に乗っている方や、片手で打っている人達がいたからだ。
「身体が不自由な方々も受講されてます。」
そう言って、仁科室長は、俺をデスクへと案内した。「ここが休憩室兼我々のデスクになります。トイレも完備されてます。…昔はここは食堂だった場所です。」…元病院…いや病棟とあってやはり変わっている。




