旅行前日
旅行前日の午前中。私は、”着ていく服”に、頭を悩ませていた。以前、まきちゃんから、「”たまにはオシャレしなよ”!」…と言われ、今日きた、メールには、たった1行、「”オシャレしてこうね♪”」 と…。まきちゃんはお見通しだった。私が、いつもの、”デニムにブラウス”で来る事を…。「…どうしよう…。何着ていこう…。」 クローゼットを全開にして、腕を組んで立つ私…。ハンガーにかけてある服たち…。「”こっちは定番”だし」 畳んで置いてあるのは、部屋着。「うーん…ん?…これ…なんだっけ?」 クローゼット内の、右側の、片隅に、袋に入れて置いていた物に目いく…。袋をとり、中を見た。服が入っている…。カサカサと音を立てて、袋から、服を、引っ張り出した。「”あ…これ、前に買ったワンピースだ”…。」 何年か前に買った、デニム生地の、ワンピースタイプのスカート…。「”これなら…着れるかも?”…。」 これに、…。”これでいいかな”…。合わせ終わると、久しぶりに、出したワンピースは、どことなくホコリ臭い…。軽く洗濯して、ベランダの日陰側に干す…。暑いから、あっという間に乾いた。
旅行用のカバンも準備完了。「明日、楽しみだなぁ♪」 そう呟き、寝室のドレッサーの近くにカバンを置くと、チラッと、ドレッサーの左側に置いてある、”ある物”を見た。
「…”皆オシャレしてくるのかなぁ”?…」 何故か、その時、河本主任が脳裏に浮かんだ…。笑顔の河本主任…。”河本主任も…”。すぐに脳裏から、消えてしまったけど…。準備を済ませ、明日を待つ。
《その頃…。某ショッピングモール…。》俺は、英と、旅行に着ていく服を、選んでいた。久しぶりの旅行とあって、俺もオシャレ?て言うのか?”ちゃんと”した服を買うことにした。「”服を、選ぶって結構、難しいんだな”…。海と言っても、海外の海に行くわけじゃねーし”…。」 …少し派手な、前開きのシャツ…。これに…ハーフタイプのズボン。中に着るシャツは…。服を、あらかた手にとり、試着室に向かった。服を合わせてみる。「…なんか…俺じゃねぇな…。…まっ…これで…。」服を合わせ終わり、試着室から出た…。と…。
「あれ?…河本主任?」
どこかで聞き覚えのある声…。振り返ると、”介護福祉科”の平澤つぐみさんが、立っていた。籠には、男モノの服が、何着か入っている。「”あ、こんにちは。買い出しですか”?」 適当に話す。平澤さんは、「そうなんです。主人のと息子の服を買いに…。」 「そうですか。…あ、すみません。失礼します。」 そう断り、手を振る英の元に、歩み寄った。「”海ちゃん”達、明日、姉さんのホテルで、待っているって。さっき…。」 「あ、なんなら、俺、”青野さん”も、迎えに行くよ。英メールして…え!?俺が?…。あぁ…分かったよ。」……俺は、この時、気づいていなかった…。この会話を平澤さんに、聞かれていた事に…。




