報告書
…あの物語、藤さんが…
「仕事を辞めて、半年かな。…職安に行って職探ししながら、実家とかに行って、家の事したりして、過ごしてました。その時に…前職の上司から、一緒に働かない?って誘いを受けたんです。介護員では無くて、パソコンを使った仕事だと。」
…藤さんは半年前の事が既に懐かしいのか、まるで昔話をしている様に話す…。
「パソコンの事をよく知らないから、主人のお古のパソコンを借りて、ちょっとだけ練習をして。最初はキーボードやマウスの使い方…操作って言うのかな?そこから、始めたんです。ローマ字打ちで、あいうえおやアルファベットを打ったりしてました。慣れてきたら、都道府県や植物、動物なんかの文字を…。」
…だからか。初心者の割に、キーボードをそれなりに打ってたのは…。
「それが…なんで物語になったの?」
明里さんが藤さんに尋ねた。
「…ただ文字を打つのに飽きたの。で、パソコンの文字打つ練習がてらやってみたの。物語をやってみようかな…と。」
「…そうなんですか。あ、でも…」
加藤主任が疑問に思っていた事があったのか、藤さんに尋ねた。
「あの…職場…それから報告書って…?」
…藤さんは、うーんと…と頭を左手の人差し指を使い、カリカリと掻いた。…
「どう説明…」
ギョッとする加藤主任。俺も驚いた!その口調が…いや、仕草が伊原さんと同じだった。
「…前職で、ある報告書を書く事があったんですが、これが凄く大変だったんです。この報告書…ヒヤリハット…」
「え!ヒヤリハット?!」
伊原さんが驚いて声を上げた!な…なんだ?その…ヒヤリハット?って??…と…
…今まで藤さんの話を黙って聞いていた、うみが藤さんに話した。
「ヒヤリハット…。ひやりとした出来事や、はっとした出来事。ですよね?」
「う…青野主任、知ってるの?」 「はい。」
伊原さんが知ってるのは、何となく分かったが、まさか、うみが知って…
「そうです。…そのヒヤリハット報告書を書いて提出したら、そこのリーダー格からね、散々言われてね。で…落ち込んでたら、常勤看護師の方がヒヤリハットの書き方を教えてくれて…。その看護師さんが書いたヒヤリハット報告書…その時の報告書がその時の場面?いや光景…情景?が…手に取る様に分かったし、その時にあった事が見えた。…で、何度も読み返して、メモしたりして…。」
「…それで…」
伊原さん…声震えてる…
「…それを思い出しながら、パソコンに打っていって…で、それをその一緒に働かない?って誘ってくれた上司に、スマホのカメラ機能で写真を撮って…LINEで送って見てもらった。そしたら…」
そ…そしたら…(汗)
「これ…情景分かって、いい。冬ってこんな感じだよねって。その後でその上司からLINEで…」
LINEで…?
「これ、携帯小説に掲載してみたらって…。」
…藤さんは、そこで話すのを止め、会議室の時計を見た。




