会計音
伊原さんと店の女性の会話を耳にしながら、コーヒーを飲む。…この店…凄くいいな。ビーフシチューを食べたけど、肉がとても柔らかくて、味もしっかり染み込んでいた。野菜も小さな玉ねぎやじゃがいもとにんじん。それらの旨みもよく出ていた。伊原さんが5歳の時に初めて来たお店か。…話しを終えた伊原さんがコーヒーを飲んだ。しずかさんは、レジへ…。…♪…。…懐かしいなこのレジの会計音…。伊原さんがコーヒーカップを皿に置いた。
「…このコーヒーも、注文が入ってから豆を挽くから、凄く香りが良くて美味しい♪♪昼はランチ、少し休んだら、15時からは喫茶店になるんだ。軽食もある。」
そう教えてくれた。デザートを口に運ぶ。デザートは貝の形をしたケーキ。
「マドレーヌですね。」
うみもマドレーヌを食べた。
「ここのマドレーヌも美味しい。しずかさんの手作り。…ここは昔から変わらない。」
デザートを食べ終え、コーヒーも飲み終わった頃…。…店のドアが開いたのが分かった。カラコロと木で出来た、ドアベルの音が聞こえた。新たな客が来たらしい。
「…そろそろ、行こうか。」
「はい。」
…会計は各々で支払った。外に出ると、雪は止んで、地面には薄らと積もっていた。
「…また来たいです。」
加藤主任が伊原さんに言った。
「今度はサイコロステーキを食べに来よう。」
「はい。」
俺たちもまた来たいな。
「また皆でこよう…。」
洋食屋を後にし、車の中で加藤主任が呟くように言った。
「洋食屋 一輪花か…。」
それを聞いた伊原さんが、俺たちに教えてくれた。
「一輪花じゃなくて、一輪花って読むんだって…。しずかさんの名前なんだ。」
一輪花でしずか…か。本当に静かで居心地が良かった。




