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言葉に迷う

デイコーナーからでた、根岸さんと俺。「”来て貰えますか”…。」 根岸さんの後ろをついて行く。妻の居る、病室から、ずっと離れた個室。”317”…。根岸さんが扉を開けた。…「…どうぞ…。」 俺は、根岸さんに言われるまま、病室へと入る…。 「…?!?」 俺の目の前には、ベットに横たわる男性がいる。鼻から酸素が繋がれて、点滴も…。男性は、目を開けていたが、根岸さんが近くに居ても、反応が無い…。植物状態…。

「…私の主人です…。」……「…え!?」 俺は、しばらく、言葉が出なかった。その様子に、根岸さんは、静かに教えてくれた。「…子どもを助けて、川で溺れたんです。…。ずっとこのままです。」俺は、かける言葉を選んでいた。

「…そう…だったんですか…あ…と…根岸さん、この事は、ふ…青野さんや、まきさんは?」

根岸さんは、ご主人を見ながら、静かに首を横に振った。「…知らないんですか…?」 俺は、また静かに聞いた。

「私とうみちゃんは、同じ歳で、結婚も同じ、5月に入籍してるんです。だけど、結婚して、2年経った8月に、主人が”この状態”に…。うみちゃんにも、まきちゃんにも、話せなかった。”約束”してたから。」

「……約束?」

「…どんな事があっても、”彼を支えて”いくっ

て。うみちゃんは、”幸せに”なる…。そう約束したんです。…でも…私…”好きな人”が出来ちゃったから。…。」

俺は、根岸さんの葛藤が、手に取る様に分かった。俺は、”別”だったけど、今の根岸さんの気持ちが痛いほど解る。だが…言葉が…かける言葉が出ない。…!

「い、以前、ふ…青野さんが、”豊川”君に、”やってみたら…本気なら”…と、言葉をかけていました。俺、あの時…”言葉が逆だ”と思っていて、英君に言ったんです。言葉が逆じゃないかと…。そしたら、英君は、「それじゃ、別の人に意見を求めると。もし、本気なら、もう辞めてると。止めて欲しくて、相談した。だから…ふ…青野さんは、逆の言葉をかけて、応援したんです。…この話しが…役に立つかは、分かりませんが…。」

俺は、言葉に詰まってしまった。「後…”誰も止めない”…とも…言っていました。」

俺は、根岸さんに、”この言葉”だけを伝えて、根岸さんの病室を後にした。沙織の病室へ戻ろうと、病棟の廊下を歩いていた。病室の外に、兄貴と衣織が出てきていた。衣織は、落ち着きを取り戻していた。衣織を抱きしめた。

「もう…大丈夫かな?落ちついた?」

衣織は、「うん。」 と縦に振った。

俺は、立ち上がり、兄貴に

「時間があったら、話そう。」

そう言って、病院を後にした。

車の中で、衣織は、疲れたのか、後部座席のシートで眠っていた。信号待ちで、車を停めた、兄貴に、俺は、

「…今は…気持ちが落ちついてないから、ちゃんと時間をとる。その時、時間が出来たら、連絡するから…話してくれないか?」 と 伝えた。兄貴は、”分かった”と一言、答えた。信号が青に変わり、車をゆっくり、前進させた。

「……”やってみたら?…本気なら”…か。」

ぽつんと呟いた。


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