我にかえる
俺は、アパートで、自分の右手を見ていた。
「……この手で…衣織を殴った…」 小さな身体に、当たった感触…。「…沙織が…自殺未遂…。」 俺は、着替えもせず、靴も履かず、アパートを飛び出した。兄貴は、駐車場から、出ようとしていた。
「待ってくれ!!」
慌てて、兄貴の運転する車の前に飛び出した俺。
俺が急に、飛び出してきたから、急ブレーキをかけた兄貴。「…!?…!」 運転席に近寄り、窓を叩いた。
「…衣織を医者へ!俺も行く!後…沙織の病院に…」
ジッと俺の顔を見ている兄貴。
… 兄貴の車に乗り込んだ。衣織は、後部座席のシートに横たわっている。俺が、衣織を殴ったせいで、衣織は、気を失ったままだった。俺が衣織を抱きかかえるのを、確認して、兄貴は、車を静かに発進させた。 「”頭はぶってないが”…。」 俺は、衣織の襟をずらした。首の下と鎖骨のちょうど、出ている辺りが、青くなり腫れていた。「…”後…どのくらいで…病院に着く”?」 車を走らせて、10分くらい経った頃、気が付いた衣織…。
「…?…パパ?…」 …今にも、消えてしまいそうな…小さな声で俺を呼んだ。「…衣織…ごめん。痛かったね…。ごめん…。」 俺は、衣織の…殴った辺りを、そっとさすっている。 「…どこ行くの?…ママのトコ?」 俺は、衣織に「…お医者さんに、”ここ”、診てもらう…。」 それを聞いた瞬間…
「行かない!!ママのトコに行く!!じゃなきゃお家に帰る!!」
突然、声を上げて泣き出した。
「お医者さん、嫌だ!!ママのトコに…。」
突然、泣き出した衣織に慌てる俺。大粒の涙。車の中にこだまする、泣き声。兄貴も驚いたらしく、たまたま目に付いた、コンビニに入った。コンビニの駐車場。トラックも休める程、広い駐車場の1番、左端に車を停めた。
「…!…行かない!!」
車が停まった事で、更にパニックになった衣織。
俺に、必死にしがみついてくる。
「…衣織ちゃん。病院じゃないよ。…よく見てごらん?」
兄貴が優しく、衣織に、声をかけた。震えながら衣織は、俺にしがみついたまま、恐る恐る、車の窓から、外を見た。コンビニの駐車場だと解ると、震えが、少し落ちついてきた。
「…衣織ちゃん、ママは、病院に居るから。衣織ちゃんが、”行きたくない”なら、帰るよ?」
……。「衣織?どうする?…」
「…ママに…会いに行く。」
兄貴は、また、静かに車を走らせた。
「衣織、ここ痛くないか?…」 「痛くない。ママに会いたい。」コンビニからでて、5分くらいで、ママ…沙織が入院している病院へと着いた。
兄貴に、これ、借りていいか?と尋ねた。裸足で出てきた俺。兄貴の車に付けてある、サンダルを借りた。…「面会ですね…。ちょっとお待ちください。」
病院の”門番”に止められる。
「医師の方から許可が降りたのでどうぞ。」
沙織が居る、病室に向かった。「”301”」…扉をノックし、開けた途端…「”ママ”!!」 衣織が病室内へと飛んで行った。俺と兄貴で衣織の後を追う。沙織は、起きていた。衣織を抱きしめている。泣いていた。
「……衣織…。」
しばらく、衣織を抱きしめ、泣いていた。




