再会
休憩を終えて、歯磨きをしに更衣室に向かう。ちょっと広めの更衣室にはトイレが1つ、シャワー室が1つ。洗面台が2つ。私は洗面台に向かい、歯磨きをして、リップクリームをつけた。唇が乾燥している。洗面台の鏡を見ながら、”白髪増えたな…。また染めないと…”…と思いながら、巾着袋に歯磨きセットとリップクリームをしまった。巾着袋を更衣室のロッカーに戻し、部室に戻る。と…ドアを開けてすぐの右向いには、福山課長のデスクがあり、そこで話していた人物がいた。そう昨日、福山課長が話していた”彼”…河本雷斗主任だ。見た目より歳が上に見える彼は、私より5歳下。妙に自信に溢れていて、挫折を知らないタイプ。そして、周囲の人間を巻き込み、人の話を聞いても、自分の考えを押し付ける。…私が最も苦手なタイプの男性だ。
素知らぬふりをして、自分のデスクに戻り座る。パソコンを起動させ、デスクの書類に目を通し始めた。”……これ…また…変えるのか…”…むぅ…と眉間にシワをよせ書類を見ていると、ふと薄暗くなった。”…ん?”…書類から目を離し振り向くと、そこには気配無く佇む、”彼”がいた。
「ビクッッ…!!」
私はびっくりし過ぎて声すらでず固まっていた。その様子を楽しそうに見ている彼。
「久しぶりだね!!…異動したって聞いて…あれ?」
彼は私のネームプレートを見ている。私は慌てて、ネームを右手で隠そうとした矢先、彼は私の右手首を掴んだ。”ちょっ…”…思わず声が出た。
彼は私の本名をジッと見て、口を開いた。
「青野 海…?…君、藤原じゃ?」
パニックになった私を見て、村木さんが慌てて止めてくれた。
「ちょっと何やってるんですか?!…大丈夫?海ちゃん?!」
騒ぎを聞いた福山課長も私のデスクに来てくれた。
「河本主任、そろそろ戻らないと。」
福山課長が河本主任を外まで送り出す。私は、恐怖に震えていた。今では考えられない行為。それを彼は平気でする。彼は無意識でやるんだろうけど、やられた側はたまったもんじゃない。河本主任を送り出した福山課長が戻ってきた。
「青野さん大丈夫?」
震えながらも、頷くのが精一杯の私。右手首に彼の手の感触が残っていた。「”キモチワルイ”」
その様子に福山課長は私を休憩室へと連れていき、少し落ち着くまで休ませてくれた。
「河本主任の件、仁科室長に話しておくから…。」
仁科室長は河本主任の直属の上司で、見た目がとあるお笑いタレンさんに似ている室長だ。私は事を荒立てたくなかったので慌てて福山課長にお願いした。
「報告しなくても、だ…大丈夫です。悪気がないみたいですから…。業務に戻ります…。」
福山課長はしばらく私を見ていて、”そう…?もしまた何かされたら言ってね。”…そう言うと、休憩室から出ていった。私も後を追うように休憩室を出る。村木さんが心配して話しかけてくれた。
「海ちゃん、大丈夫?」
1部始終を見ていた同僚たちも来てくれた。
「河本主任怖いね…。青野さんにはいつもあんな感じなの?」
いや…うーん?…私は言葉に詰まってしまう。最悪の再会。