書類の山
服を大量に買って、アパートの内見を済ませ、少し落ち着いた、日曜日の朝。まきちゃんの経営してる、ビジネスホテルの部屋に、まきちゃんと、まきちゃんの、弟の英くんが来てくれた。弁護士をしている英くん。”離婚”に必要な書類を持ってきてくれた。私は、書類に目を通した。山の様な書類…。英くんは、私が読み終わるのを待ちながら、まきちゃんと何か話している。私は書類を読み終えると、英くんに声をかけた。
「読み終わりました。…返して欲しい物は、ドレッサーと、学生時代のアルバム。後は何も…。慰謝料は…。」
生々しいやり取り…言葉の重さに、私は怯む。
「…後は、英くんに全部任せます。よろしくお願いします。」
英くんは、「”分かりました。…あ、そうだ。警察に”被害届”は、出しますか?”」
私は、「”被害届?”」 と不思議そうに英くんに、尋ねた。
「…海ちゃんの貴金属を、ご主人が”勝手”に売られたそうですが、夫婦間でも、本人の了承無しに、物を売った場合、”窃盗罪”、”横領罪”で警察に被害届を出せます。ただ、身内間での事ですので、厄介払いになるかも知れませんが…。後、その貴金属が海ちゃんに戻る可能性は、低いです。」
私は、そこまで考えていなかった。ただ、”蒼空と離婚出来ればいい”それだけだった。私は、英くんに
「被害届は出しません。その代わり、慰謝料は払ってもらって、ドレッサーとアルバムを返してもらいたいです。後、”二度、私の前に現れない”事が条件です。」
英くんにそう伝えて、私は書類を書き始めた。
何枚か書き終えた時、私は、ふと思い出した。
「ねぇ英くん。蒼空に私の貴金属を売った、お店の店名と場所、聞いてくれない?…もし、売った店が分かれば、私が買い戻すから…ダメもとでいいから…無理かな?」
英くんは、しばらく考えて、
「もし、蒼空さんに、その事を聞いた場合、”離婚を白紙”に戻す事の、条件になる可能性があります。海ちゃんが不利になる。」
離婚するにも…色々”条件”がある。私は改めて、離婚が大変なのが、身に染みて解った。それでも、蒼空と”離婚”したい。私は、覚悟を決める。
「…成立までは、どのくらいかかるのかな?」 と
英くんに尋ねた。
「そうですね…成立までは、早くても3ヵ月から半年…長い人だと、1年くらいですかね…。」
私は英くんの説明にびっくりした。
「い…1年もかかるの!?」
英くんの話によると、私みたいに、”子供”が居ない家庭でも、状況によっては、1~3ヵ月、半年くらいかかり、”子供”がいて、なおかつ、相続やら、養育費やらと、色々な条件があったり、それで揉めたりして、1年くらいかかる人も居るとか、居ないとか…。流石に私は、これ以上は聞けず、「”あ…ありがとう…勉強になったよ…”。」 と、英くんにお礼を言った。
書き終えた書類を手にした英くんは、私を見て、
「なるべく、早めに成立させます。これからが、本当に大変です。覚悟してください。調停には、僕が立ちますが、1度か2度、蒼空さんに会わなければ、ならない事もありますから…そこだけは、ご了承ください。」
私は英くんに「分かりました。よろしくお願いします。」と伝えると、まきちゃんに振り向いて、
「もう少し、”お世話に”なります。」 と
頭を下げた。




