距離をおく
妻と子供達が、妻の実家へと帰った、日曜日の朝。俺は、寝室のベットの中にいた。何時もなら、俺の隣で、妻の寝息が聞こえるハズの朝…。独りで寝たベット。俺は、彼女の枕を見ていた。出会った頃から変わらない枕。妻は枕が変わると、眠れず、ずっとこの枕を愛用している。見栄えが悪い枕。カバーは頻繁に交換しているものの、中は潰れている。昔からある、そば殻の枕。俺は、この家に引っ越した時、妻に「”枕変えないの”?」
と聞いたことがあった。身重の妻は、「”…うん…”。」 と頷いた。そう会話した。口数が少ない彼女。カフェでバイトしていた時は、周りと楽しそうにしていた彼女。元々、穏やかな性格の彼女。俺と結婚し、出産を経て、子育てと家事の両立。”穏やかな彼女”…は、強気になり、攻撃的になったりと…出会った頃とは、まるで違う姿に、誰かが、乗り移ったように見えていた。…妻の枕を見ながら、俺は、”…懐かしいな” と…
昔の”妻”を思い出していた。出ていったきり、連絡は無いが、しばらく妻とは、顔を合わせる気はない。…妻に会えば、今度こそ、手が出てしまうかもしれない。それだけは、子供達の前では、避けたい。俺は、寝返りを打ち直し、仰向けになった。何時もなら子供達が騒ぐ声が聞こえるハズ。とても静かな寝室。…俺は、天井をまた見ていた。…「”…そういえば…”彼女”…。」
ふと、昨日のコンビニで見かけた、俺が勤務する、職場の講師の事を思い出していた。…”介護福祉科”の講師。”藤原 海”の事を。昨日、コンビニで見かけた”彼女”…。何だかいつもと違がった様な…?俺は、”彼女”…いや、藤原さんの何が違うか、この”違和感”がなんなのか、よく解らずにいる。「”…ダメだ!…わかんねー…!」
ベットから起きだし、寝室を出て、1階のリビングへと降りた。その前にトイレに向かう。用を済ませ、ついでに、顔を洗おうと、洗面所に向かう。洗面所の戸棚から、黒のフェイスタオルを出した時だ…。「”あ…あぁぁあ!?”」…俺は、声を荒らあげて、叫ぶように言った。
「…スカートだ!!後、化粧!?」…
俺が感じた”違和感”の正体が解った。そして、タオルの”柔軟剤”が変わっていた事には、気づかなかった俺。顔を洗い終え、リビングに向かった。
リビング入ると、窓に向かって、カーテンを開けた。”違和感”に気が付いた俺は、窓を開け、換気をした。”空気を入れ替えれば、少し気分が…マシか…?”…リビングから、窓から眺める。俺の自宅の裏側には、田んぼがあって、緑色のイネがサワサワと風で揺れている。静か過ぎる、日曜日だった。