欲の”代償”
沙織のアパート。仕事を仮病で休んだ俺は、昼近くになって、ようやく目が覚めた。彼女はまだ、眠っている。相当酒を飲んだのか、起きる気配がない彼女。俺の腕の中で、静かに寝息をたてる彼女を、ジッと見ていた。
「”……?”」
彼女が目を覚ました。俺は、「”……起きた?…”」 と
寝起きの枯れた声で、聞いた。静かに頷く彼女。
「…。何があった?……あんなになるまで飲んで…?」
彼女はずっと黙ったままだったけど、しばらくして、ポツリ、ポツリと理由を話した。聞けば、彼女には彼氏がいて、その彼氏から振られたと。…原因は、彼が彼女の友達に、寝盗られた…。そう話すと、また彼女は、泣いた。また別れ際に彼から言われた一言が…「”お前より、アイツ弱いし、護りたい。”」 …それが彼女が酒に溺れた理由だった。俺は、泣いてる彼女に、抱きしめたまま、
「……俺と…いるか?」
と聞いてみた。泣き止まない彼女。ずっと抱きしめたまま、彼女が落ち着くのを待った。それから、付き合っているのか、付き合っていないのか、解らない関係が続いた。互いが貪るように、”身体”だけを求めた。俺が彼女を欲しがったり、彼女が俺を欲しがる。”欲を”ぶつけていた。ベットの中の彼女…時折、「”せんぱい”」と呼ぶ…。求めているのか?探しているのか?解らない声で俺を呼ぶ…。俺はそのたびに、キスをする…「”ここにいる。”」…とつたえるように…。好きなのかも、嫌いなのかも解らずただ…只管に、”欲に”溺れた。ある時、”欲”をぶつけた、”代償”が俺の耳に刺さった。
「”子供が出来た…。”」
”欲”をぶつけ合った”代償”は、かなり重い。それでも…俺は、何故か嬉しかった。”順番”を間違えたが、改めて告白した。
「…沙織さん。ちゃんと”護れる”か、どうかは解らないけど、俺と付き合って…いや…結婚してください。」
彼女は、不安そうな顔をしている。それでも…
「…はい…。…」 と
返事をした彼女は、嬉しそうに、恥ずかしそに、微笑んだ。それから、彼女と籍を入れ、子供が生まれた。女の子だった。嬉しくて、可愛くて仕方がなかった。その後に、もう1人生まれた子は、男だった。俺は、嬉しさのあまり、妻と産まれた子供に抱きついた。……そんな細やかな幸せが…。
ずっと車の中で、ふりかえる。
いつの間にか、眠っていた俺。車の時計を見た。”10:04”と表示されている。
「……。腹減った…。」
少し眠って、冷静さを取り戻しつつあった俺は、急に腹が減ってきた。…「”1度帰って”……。」…俺は車のシートを起こして、エンジンをかけると、1度自宅に戻る事にした。小鷹町から長沢市へ入り、コンビニ寄った。財布は車に置いてたから、持ち合わせはある。コンビニに入り、レジに目をやった俺は、一瞬にして、目が釘付けになる…。




