あかくなる
長沢市の服屋さんに行った帰り、コンビニでお茶を買った私。お茶を手にして、逃げるように、まきちゃんの車に駆け込んだ。私が慌てて、車のドアを開けたから、まきちゃんは、びっくりしている…けど、さすがまきちゃん。私が動揺しているのをすぐ理解し、車を出してくれた。動揺している私に、まきちゃんは尋ねた。
「蒼空君に会った?」
私は、首を横に振る。動揺しながらも私は、ポツリとまきちゃんに話す。
「…”職場の人”…」
動揺するのも無理はない。普段、私の私服は、デニムかスカンツ。スカートは冠婚葬祭でしか履かない。化粧は、仕事の日以外は、ノーメイク。だから、外で知り合いや職場の人に会うと、恥ずかしい。今日は、珍しくスカートだし、化粧をしているし…余計に知り合いには、会いたくなかった。…なのに、よりにもよって、”アイツ”に…PC科の、”河本主任”に会うなんて…。運転中のまきちゃんに、”その事”を話すと、ケラケラと笑いながら
「あるある。私も。会いたくない時に限ってね。…でも、うみちゃんの”職場の人”…うみちゃんに見惚れてたんじゃない?…いるじゃん?漫画の世界じゃないけど、”大人しい子”に見えるけど、実は?…とか。”それ”じゃないの?」
まきちゃんは運転しながら、横目でチラと私を見た。私は、少し落ち着こうとして、買ってきたお茶を開けて、口に運んだ。と、、同時くらいに、まきちゃんの口から”トンデモナイ”言葉が飛び出した。
「……”その人”…うみちゃんの事、”好き”だったりして…!?」
その言葉に、私は盛大にお茶を吹き出した。そして、むせた。
「…げはっ……ゴホゴホッッ……!!?」
車のダッシュボードに、私が吹き出したお茶が飛び散り、借りたスカートを汚してしまった。まきちゃんが、びっくりして、車を路肩に停める。
車の中に響く、私のむせる音と”ハザードの点灯音がこだましている。
「…コホッ……はぁ…。」
まきちゃんは、後部座席に置いてある、ティッシュを取ると、私の手に当ててくれた。まきちゃんから、ティッシュを受け取り、口に当てる。
「…ごめーん。…そんなに動揺するとは思わなかったから…。」
背中を擦りながら、まきちゃんも動揺している。
私は、口元と鼻をティッシュで拭くと、”は…ふぅ”
と息をついた。
「…まきちゃん、それは…ない…から。…”アイツ”結婚してるよ?…多分?」
”アイツ”の事を全く知らない私。ただ、”別の科の新しい主任さん”あと”余計な事して、周りを巻き込む人”だとは分かる。まきちゃんは、落ち着きを取り戻した私を見て、安心したのか、「”車、出すね”」と話すと、路肩から、車を走らせた。
私は、ダッシュボードに、吹いたお茶をティッシュで拭きながら、顔を赤く染めている。その様子を横目で見ている、まきちゃん…。まきちゃんは、運転しながら、私にこう思ったらしい…。
「”もしかしたら…”アリ”…かもね?」…と。
陽高市内に入り、まきちゃんの経営するビジネスホテルから、ほど近い、アパートに着いた。車をアパートの駐車場に停めて、大家さんの部屋に向かう。まきちゃんが車を運転しながら、教えてくれた。
「今行くアパートね。元々は、ホテルで住み込みで働いてた方の寮だったんだけど、最近は、通勤が多いから、アパートとして貸出する事にしたの。大家さんは、ホテルの元従業員だった方だよ。」
そこまで話すと、アパートに着いたのか、まきちゃんは、車をアパートの駐車場に停めた。
「良い方だよ。」
まきちゃんに案内されて、私はアパートの一室へと向かった。




