朝帰り
研修会が終わり、帰宅した俺は、子供と一緒に風呂に入っていた。上が女で8歳、下が男で4歳になったばかり…。子供の髪を洗う。シャンプーが目に入らぬようにシャンプーハットを付けさせているが、子供が動く度に、ハットの角が俺に当たる。「”すぐ終わるからジッとしてて”」とお願いするも、聞いたもんじゃない。最近になり、自分で身体を洗う真似をする様になった。タオルに石鹸をつけて、渡すと、「”ゴシゴシ♪”」と言いながら、楽しそうに身体を洗う。しばらく身体を洗う様子を、見ている俺。前は洗えていたが、背中が洗えないでいる。俺は子供の背中を洗う。小さい背中。優しく洗うと、気持ちいいのか大人しくなった。全身キレイにして、湯船に浸かった。「気持ちいいね~…」…俺は、「”もう少ししたら、1人で入れるかな?”…」 と思いながら、見ていると、”バシャバシャッ”…湯船で遊びだした。「…上がろ…っか…。」…顔面にお湯を攻撃された俺。「”上がる”」と聞いて、渋る子供に、「”ママ、ご飯作って待ってるよ”?」 と話すと、「”ママ!”」 と叫び、子供は湯船から慌てて上がろうとしている。…「”やっぱり”母親”…か…?」…などと思いながら、風呂から出た。服を着ると、一直線にリビングに駆けていく子供。俺は、バスタオルを洗濯機へと放り込むと、慌てて、子供の後を追う。リビングに入ると、夕飯の準備をしている妻。食卓には、子供達の好物が、並んでいる。今日のメニューは、ポテトサラダに、オムライス。コンソメスープ、デザートにイチゴがあった。子供達にはワンプレートで、俺には、普通の皿に盛り付けた、オムライス…。家族で食卓を囲んで、色んな話しを聞いている俺。食事が終わり、妻が洗い物をしている。食べ終えた食器をキッチンへと運ぶ俺。と…甘い花の様な香りがした。妻の髪からだった。何時と違う香り。いつもは柑橘系の香りがするのに…。
「…シャンプー変えた?」
俺は、妻に問いかけた。妻は平然と
「…あぁ、気が付いた?やっぱり香り強いみたいだね。昨日、シャンプーの試供品、使ってみたの。」
…俺は”妙だな?”と思った。妻は、”香り”の強いシャンプーや柔軟剤は苦手のハズ…。それに、今日風呂場のゴミ箱には試供品のパウチなんか無かったよな?…。妻は下の子が寝たのを確認すると、また、いつも通りに、”飲み”に行ってしまった。その晩は金曜日。俺は独り、リビングで久々に、缶ビールを1本飲みながら、今日の”研修会”を思い出していた。…研修の講師を務めてくれた、”彼女”を。
「……”はんそく”…だな。……あんなにかわいかったなんて”…。」
ハッとして辺りを見渡す。…”今なら声に出しても、誰も居ないし、家だから、大丈夫だ”。と俺自身に言い聞かせた。
「…パ…パパ…朝だよ。」
いつの間にか眠ってしまっていた俺。昨日、ビールを飲んで、寛いでいるうちに、眠ってしまったようだ。時間を確認しようと、起き上がると同時に、上の子が不安そうに俺に抱きついてきた。「…”珍しいな?”……どうしたの?」
上の子がこうつぶやいた。
「ママがいない…。」
俺は、上の子に寝室に、居ないか聞いてみた。”居ない…” と答えた。俺は、上の子を、そっと離して、「”2階に行ってくるね。”」 と話した時だ。
「”ガチャ”…」リビングのドアが開き、妻が立っていた…。妻は、俺と上の子が起きていたのを見て驚いていた。俺は思わず妻に近寄り
「…今…何時だと…?」
俺は…”異変”に気が付いた。妻の服?からか…”香水”の様な”香り”……。
俺のただならぬ気配に、子供が怯えだした。殺気にも似た、俺の気配は、妻にも伝わっていた。
俺は、何も言わず、リビングを後にした。
このままだったら、妻を叩いてしまいそうだったから。