報告
俺は介護福祉科で、罵声を浴びた後、PC科へと戻り、早速、仁科室長に”今回の件”を報告し、謝罪した。仁科室長は、俺の報告を静かに聞いている。その沈黙に、俺は緊張と焦りを感じていた。仁科室長は、深いため息を吐くと、俺をジロと鋭い目で睨むように見た。こう問いかけた。
「河本主任、ここに来て、まだ日が浅いから解らないのか?それとも、本部では、ひとり立ちが早かったのかい?…君は私に、”報告”もしないで、介護福祉科に行き、”勝手”に研修をして欲しいと、話したようだけど、平澤さんが話したように”順序”を間違えていないか?…その”身勝手”な行動で、藤原さんだけで無く、他の職員にも迷惑をかけているんだよ?」
仁科室長の諭すような話し方に、俺は返す言葉が無かった。その様子を固唾を飲んで見守る、田山さんと豊川さんの視線が、俺の背中に刺さる。そして、返答が無い俺を、鋭い目で見ている仁科室長。しばらくの沈黙が続いた。
「…”順序”を間違え”身勝手”な行動を取り、申し訳ございませんでした…。」
俺は、仁科室長に頭を下げる。しばらく頭を下げた後…。
「報告が遅れてしまいましたが…」
俺は言葉を選びながら…たどたどしい口調で、仁科室長に”報告”した。…そして、”研修”をして欲しいと申し出た。…仁科室長は鋭く険しい目から、少しだが、優しい目付きに戻りつつある。俺が伝え終わると、仁科室長はしばらく考えてから、”そうだなぁ…”と呟くと、俺を見直した。
「今後、相川さんのような方や、今以上に”身体が不自由”な方が安心して受講出来るように、これを機会に、”研修”を行ってもいいですね。…やれば、出来るじゃないですか。河本主任。”順序”を間違え、”身勝手”な行動は、今回で最後にしてください。次に”間違い”を起こしたら、”責任を取って頂く”事を、忘れずにいてください。」
俺は、仁科室長に、何も言わず頭を下げた。
緊張と焦り、そして、仁科室長の静かな怒りを全身で受け止めた。その後、俺は仁科室長と共に、近衛部長にも、仁科室長に伝えた様に、謝罪し、報告…”研修”を提案をした。近衛部長も最初は、険しい顔をしていたが、俺がきちんと説明し、もう一度謝罪した事で、いつもの近衛部長に戻った。そして、近衛部長もしばらく考えた後、”うん…。”とひとり納得したように、俺達を見た。
「そうですね…。この機会に”研修会”をやってもいいですね。…今回、私はPC科の講習の様子を見ていましたが、確かに、多種多様な講習生が多く見受けられましたね。”講習生への接し方……。まぁ”接遇”と言いますか…その”研修会”を介護福祉科とPC科の合同でしてみましょう…。日にちは、仁科室長と平澤さん、藤原さんの予定を確認して、決めて頂いて結構ですので、決まったら私に報告してください。私も興味がありますので、参加させて頂きます。」
近衛部長と仁科室長の許可を正式に取った俺は、「ありがとうございます。」と…
一言お礼を述べた。