ごまかす
介護福祉科でキレた私。PC科の主任、河本雷斗の”身勝手さ”にキレた。もちろん、それだけじゃない理由もあるけど、本気でキレた。怒鳴り散らした私を止めたのは、平澤さんだった。
「まぁまぁ。藤原さん、落ち着きなっ…ね。…河本主任。…河本主任だけが”研修”を受けたいのでしょうか?」
平澤さんが河本主任に問いかけた。怒鳴られた河本主任は、しどろもどろに、平澤さんに答えた。
「いえ…とりあえず…私だけです。この件は仁科室長にも田山さんにも話していません。もし可能でしたら”PC科と介護福祉科合同”で…。」
その「”とりあえず”って何だ?!」…河本主任の、”考え方”に私はまた、怒りが込み上げてきた…が…平澤さんは、河本主任と私の間に立つと、河本主任を振り返り、こう説明した。
「もし、合同で”研修”をするなら、河本主任だけの一存だけでは、藤原さんに”研修”をしてもらう事は、出来ません。まして、まだ仁科室長にも、お話しされてないのなら、尚更です。…物事には”順序”があります。それを理解してから、また声をかけてください。」
平澤さんの説明に、河本主任は、納得していないような顔をしていたけど、しばらく考えてから、理解したのか、平澤さんにこう答えた。
「では、仁科室長並びに、近衛部長にも、お話しして、許可を得てから”研修”をしましょう。…それなら宜しいでしょうか?」
平澤さんは私の方を振り返って、「”どうかな?”」
と返事を求めた。私は怒りが収まらないけど、「”それなら…いいです”」と震えた声で答えた。
河本主任が介護福祉科を出た後、私はどっと疲れが押し寄せたのか、あの”胸の痛み”と共に、座り込んでしまった。その姿に慌てて駆け寄る、浅田さん達。根岸さんが私の左手を押さえ、脈を測っている。脈をとりながら、根岸さんは、浅田さんに私を実習用のベットに、寝かせるよう指示をだしていた。
「医師を呼んでください。脈の乱れがあるみたいです。それと、血圧計を…」
根岸さんは、元看護師。すぐに医師を呼ぶように平澤さんに指示を出した…それを聞いた私は、慌てて平澤さんを止める。
「ごめんなさい。ちょっとびっくりしただけだから…。大丈夫。医師は呼ばないで。お願い。」
”面倒を起こしたくない…。”…私が必死に医師を呼ばないでと、止めたので平澤さんは、呼びに行くのをやめた。その代わり、今日はもう退勤する事にし、アパートに帰る事にした。
退勤の準備をしていると、浅田さんと佐藤さんが「”ちゃんと医者行きな。”」と諭すように話した。
私は、「”はい…”」と呟くような返事を返すと、介護福祉科を出た。だけど…私はこの後、もっと酷い、怒りと絶望を味わう事になる。