全てを…。
海さん……。俺は不倫で、家庭を壊したのではありません…。俺には、ある時から、ある女性が気になりだした…。そして、好きになった。最初は、怖い人…。でも、ある日、その女性の仕事をしている姿や帰っていく時に見せた、笑顔…。それから、ずっと見ているうちにどんどん惹かれていった…。急遽、異動して、その女性と距離をとり、”好き”…という感情が薄れつつあった時に…。息子が事故で亡くなりました。…ソレが元で、”妻”…いや、沙織さんと距離を置くようになって…。ある日、忘れ物を取りに、昼間、自宅へと戻った…。だけど、自宅の駐車場で、兄貴…いや、兄さんの車を見てしまったんです…。沙織さんは、”また”…今度は、兄と?…。それからです…。俺は、沙織さんと別居したのは…。
河本主任は、静かに話している…。…。何も、言わず静かに、聞いている私…と…。
あの日…2回目の皆との食事会の時…食事が終わってアパートに帰った後、兄から連絡があったんです…。でも、俺は、ソレを無視した。次の日の朝、兄がアパートに尋ねて来ました…。衣織を連れて…。
「?…衣織ちゃん?」 私は、河本主任に尋ねた…。何故…衣織ちゃんが?…と…。
「…沙織さんは、息子を亡くしてから、酒を飲むように…その前からも、酒は飲んでたんですが、更に飲むようになって…衣織が甘えたくて近寄っても、ヒステリーを起こすようになってたんです…。だから、衣織を一時的に、沙織さんの元から離した…。ですが、ソレがダメだったんです…。沙織さんは、更に酒を飲むようになった…。そして……。」
そこまで、話して河本主任は、黙ってしまった……。河本主任が話す事を、音も立てずに、静かに待っている…。時間だけが静かに過ぎていく…。しばらくして、河本主任は、また静かに口を開いた…。
「あの日…食事会があった日…。沙織さんは、自殺を図りました。未遂ですんだから…よかった。そして、次の日に、兄が俺のアパートに知らせに来て…。俺は、兄に殴りかかろうとした…。その時でした…。俺を止めようと、衣織が飛び出してきて…俺は、この手で衣織を殴った…。男の力で…。どんな形にせよ、子供を殴ってしまった…。その後は、衣織と共に、沙織さんがいる病院へと行きました…。」
河本主任の声…震えて…。
「河本主任…もう…大丈夫です…私…」
そう伝えても、”聞いてください”…。と一言だけ私に話した…。
「その後…沙織さんが、退院してから、兄と沙織さんと3人で話し合いをしました…。兄は、沙織さんと肉体的な関係を持ってなくて、衣織を沙織さんに会わせに行ってた、だけだったんです…。だけど、兄は、沙織さんに好意を持ったのは、事実です。そして、俺も…。ある女性に惹かれて…いや、完全に好きになっていました。……それに気付いたのは、衣織なんです…。……。その後、英君にお願いして、離婚の手続きをし、離婚しました…。最後に、沙織さんに「俺の事…まだ、好きですか?」…と尋ねました…。…もし、まだ、俺を、好きだと言っても…俺は、もう、沙織さんを…。でも、兄を好きだって分かったから…。だから、別れました。」
河本主任の話しは……これで終わった…。私は、黙って聞いていた…。そして…。
「……青野 海さん……。俺が一番、護りたい女性です……。海さんが好きです。俺と、付き合ってください……。」
顔を上げ、しっかりとした口調と真っ直ぐな目で、私を見ている河本主任…いえ…雷斗さん…。
……。話し…く…あり…が…とう…ござ…います…。
そう返すのが精一杯だった…。




