たったそれだけで…
彼女の、”すみません。迷惑かけて”…。俺は、その言葉で落ち着いた…。
俺の名前は、加藤朔夜。ここに来て、3日目。俺は、中途採用で、この施設に入った職員。配属先は、PC科。仁科室長をはじめ、星野主任、田山さん。明日、退職する、斉藤さん。豊川君、莅さんの7人の部署だ。斉藤さんが、明日で、退職。結婚で、県外へと引っ越すらしい…。その日だった。
「あぁ~、新しい職員(人)?……へ~…。ね、貴方幾つ?」
低い声?…酒やけか?…しかも声デカいし…。
「あ、はじめま……」
初めて見る職員に、挨拶をと思い、声を出した瞬間…。
「アハハハハ!?何?!…その声?…ちゃんと声変わりしたの?…ていうか、まだ若いね?何歳?…それに、猫っ毛?…頭にネコ飼ってる?」
な…なんだ?このババア?…。俺は、イキナリ、俺が気にしている事を、平気で揶揄った職員に、ムカついた…。けど、入職3日目で、問題を起こすのも…。と思っていた時だ。
「平澤さん、薄部長から、お電話です。」
鉄の観音開きのドアを軽く開け、中から、女の職員が出てきた。「”分かりました。今行きます”。」
そう言って、俺の側から、離れて行った。怒りが収まらず、俺は、手をギュッと握りしめていた…。と、あのババアと入れ違いに、その人が出てきた…。そして、
「新しい方ですね?…すみません。迷惑かけて…。」
そう一言、話して、また、鉄の扉の奥へと戻って行った…。鉄の扉を正面、向かって、びだり側の窓の下に、”介護福祉士科”と、プレートがあった…。介護福祉士科…。PC科に戻り、休憩室の壁の片隅にかけてある、職員名簿を手に取った。
「か」 のページを捲る…。居た…このババアだ。
……”平澤つぐみ。介護福祉士科、リーダー”…。
とある…。…リーダー?!…あのババアが?!上?…。見た目からしてキツい顔。…あ
んなのが…。…?…この方…さっきの…?
…”藤原 海。介護福祉士科職員”…。
藤原…海…さん…。ネコ見たいな顔してる…。見た目、キツそう…。そうこの時は、そんな事を思っていた。…ところが、星野主任が急病で、休みになった事で、しばらく、介護福祉士科の藤原さんがPC科と、介護福祉士科の、掛け持ちでヘルプに入ってきた。俺は、「できンの?」…と思って、藤原さんを見ていた。藤原さんの教え方は、とても丁寧で、まるで星野主任みたいだった。…スゲェ…。その後…。
「加藤さん?…初めまして、これから、加藤さんと一緒に働く事になりました…河本雷斗です。よろしく!ところで、風邪だったんだって?」
……。「よろしく…お願いします。」
この男性が、星野主任の代わり…。…なんか…馴れ馴れしいな…?それに、随分…。
これが、河本主任の第一印象だった。…この人…トラブル起こしそうだナ…。と思った矢先…。
「失礼します…。」
?…この声は、藤原さん?…。
「…貴方が河本…。初めまして…相川さんに…。」
…なんかヤったか…。
しばらくして、朝の朝礼で、介護福祉士科とPC科の合同研修会があると。…講師は藤原さん…。河本主任が、藤原さんに依頼し、やる事に…。
…。なんか、妙な組み合わせだな。…介護福祉士科から、何を習うってんだ?…そう思いながら、藤原さんの講習を受けた。優しいけど、しっかりした口調…。「”すみません…加藤さん?…受講生の役をいいですか”?」…え?…俺?”「…はい…”」…。例えば、…。どうでしたか?…イキナリ、触れられたら…?…驚きました。…今、加藤さんが驚いた…
……温かな、藤原さんの手…。…少し、荒れている…それでも…キレイな手…。




