処分
騒ぎから2時間後…私は、木原室長と福山課長、近衛部長との4人で、2階の小さな会議室にいた。ここは、元々病院で、当時は、カンファレンス室だと、木原室長は教えてくれた。…間取りが変わっている、施設…。総合ステーションの木原室長は、最近なって、介護福祉士科の室長も兼務していた。平澤と渡賀にとっては、上司…。木原室長、福山課長と私が先に会議室で待っていると、近衛部長が、会議室へと入ってきた…。
「”ごめんなさい。お待たせして。”」 近衛部長が会議室へと入ってきた…。
「”いえ、今来た所です”…。」
と木原室長。近衛部長は、私を優しい眼差で、見ている。そして、
「青野さん…。貴女を疑ってしまい、大変申し訳ございませんでした…。」
私の側まで来て、立ったまま、頭を深々と下げた…。椅子に座っていた私に…。部長自らが頭を下げた…。
私は驚き、慌てて、近衛部長に声をかけた。
「私の方が…」
そう、言葉にした時、頭を上げ、”青野さん”と
優しい口調で私を呼び、話し始めた。
「プライベートな事なので、この件に関しては、当人達の問題なのですが、職場で、まして、業務を妨げた事は、由々しき事態です…。ただ、今回の件は、”あくまで、2人の人物”が、やった事…。青野さん自身は、関係なくもありませんが、1番悪いのは、キチンと仕事もせず、悪い噂を平気で流して、業務を妨害した。業務に関わらない…ましてプライベートな事です…。そして、その行為がバレると、嘘まで付いて、言い訳をした…。…先程、私の元に河本主任の上司、仁科室長が来て、河本主任と青野さんは、”不倫の関係”では、無いと。昨日の夕方に、貴女の同僚の、根岸さんが、私の元に来て、貴女と河本主任の”不倫の関係”がない事を、私に説明して下さいました。」
……。根岸さんが…?… けいちゃんがなんで?…近衛部長に、けいちゃんが何を…?
「あの…け…いえ、根岸さんは私の事を…。」
そこまで聞いた時…近衛部長のしっかりとした口調が、穏やかで優しい口調に変わった。
「河本主任のプライベートな事に、関わる事なので、この場では、差し控えますが…根岸さんは、貴女に救われたと…話していました。青野さん、根岸さんに送った、この言葉なら、分かるかな?」
「やってみたら?本気なら…。」
…あ…。あの時、豊川君に伝えた…。で…でも、それは、豊川君に伝えた言葉で…けいちゃんには…やってみたら?レンアイって…。あれ?…違う?……思い出せない…。思い出せず、焦っている私を見て、近衛部長は…
「根岸さんが悩んでいる時に、ある方に、相談をした。その方が、根岸さんに、かけた言葉は、貴女が話した、”やってみたら?本気なら”…。その言葉が根岸さんを救った…。それだけです。……木原室長…。」
そこまで、話したかと思った矢先、急に口調が強くなった近衛部長。
「平澤つぐみ、渡賀はつめ、この2名を、減給、そして、本部に異動させます…!2名とも、配属先は後日、辞令と書面にて、通告します。それ迄は、無期限の謹慎処分にします。介護福祉士科には、新たに、こちらから…」
そう木原室長に言い渡した…。木原室長は、真っ直ぐな目を、近衛部長にむけ、はっきりと返事を返した。
「分かりました。平澤、渡賀には、私からも厳重に注意をさせて頂きます。…青野さん、私からも、謝罪させて下さい。私の部下が迷惑をかけて、申し訳ございませんでした。」
木原室長も私に頭を下げた…。
木原室長にそう伝えた後、福山課長と私に、私の処分を言い渡した。
「福山課長、青野 海さんを、明日から9日間、謹慎処分にします。青野さん、再来週の月曜日から出勤して下さい。青野さん、この際だから、少しお休みしてゆっくりしてね…。…大切な女性かぁ…。私もいい人見つけたいなぁ…。」 と近衛部長…。
…へ?!…あれ!?近衛部長って確か、既婚者じゃ…。そう思っていたのが、顔に出てたのか、近衛部長は、私を見て、笑って
「ふふ…私、独身よ?…でも、ソレはないから、いい酒飲み友達が居たらなぁって…」
全てを知った様な、近衛部長の笑みは、優しくも、何故か、嬉しそうな感じがした…。




