知っていた
”妻”の車の運転は、少し危ねーし、付き合った女性は、何人かいるが…その度に、俺が運転していた。だから、彼女の運転は、早くもなく、遅くもない…とても、安定感のある、運転。穏やかで、心地がいい…。後ろに乗っている皆も、安心しているし、俺も安心して居られる。後ろに乗っている、衣織達は、旅の疲れも相まって、眠っていた。「”道の駅に寄らず真っ直ぐ、帰りますね”。…」 優しい彼女の口調。俺は、運転する彼女の横顔を、見ている。運転しているからか、何となく、表情がかたい。と、突然、「”みんな…寝ました”?」と俺に、彼女が唐突に尋ねた。俺は、後ろを振り返って、みんなの様子を見てみた。…皆寝てる…。「”皆、寝てますね”」 コソッと静かに話す俺。……もしかして…今なら…?…いや…彼女、運転中だし…焦ったら…。さっき、ちゃんと伝えられなかった言葉…。
「俺と付き合ってほしい…。」
もう一度…マジ…いや、本気だから…!!伝えたい!
「あの、海さ…」
「河本主任…。いえ、雷斗さん。」
運転しながら、彼女は、ハッキリと俺の名を読んだ。
「運転しながらで…すみません…。でも…この状態で、言わせてください……。」
な…なんだ?…俺…なんかヤったか?…。しばらく沈黙が続いた。俺は、震える声で、彼女に「”…な…何か…ヤラカシ…いや、悪い事しましっ…た”?」…焦りと緊張…んな言葉では、足りないくらい…強いて言えば…また、心臓が口から出そう…ていうか、爆発しそうだ…!!
「ら…雷斗さんのコクハク…ちゃんと…き…聴こえました。」
……え、、??…!!!ほ…本当に?…マジで…?!
じゃ…じゃぁ…。
「雷斗さん…。私、知っているんです。雷斗さんが、”隠している事”を…。」
お…俺の隠してる事…。それは、”離婚”している事…。ハンドルを握る彼女の手が、少し震えている…。
「…すみません。雷斗さん。雷斗さんが、奥様と離婚されたと…ある方から、”噂”で聴きました。でも、雷斗さんの口から、直接聞いた訳では、ありません…。ですが…その方を、信用していない訳じゃありません……あくまで…”噂”です。仕事に関係の無い事です。私は、本人が言った事しか、いえ…”仕事以外の悪い噂”…は…それなりに、受け容れますが…。プライベートの”悪い噂”は、一切、受け容れません。…雷斗さんの口で、声で、言葉で、キチンと話しを…説明を…して貰ったら…。…その時は…お付き合い…よろしく…お願いいたします…。」
彼女の、静かだけど、しっかりとした声。運転中だから、前を見ているが、身体や、ハンドルを握る手は、震えていた…。




