激ヤバ騎士団(第三者視点)
「これより! ダンジョン攻略を開始するっ!!」
「「「うおおー!」」」
先頭の女騎士の怒声にも似た号令が草原に響き渡る。整然と並んだ騎士団の目の前には最近発見されたばかりだというダンジョンがあった。
「それでは中の案内は頼んだぞ。ザイルとエグザ、だったか。そのために高い金を出してお前らを雇ったんだからな」
「へっ。わかってますよ。メリル団長殿。あの第三騎士団からお声がかかるとは光栄だぁ。よっぽどあの宝石には価値があったんでしょうねえ。俺たちが持ち帰ってきたあのエメラルドの輝きが国王様をも魅了しちまうとは」
皮肉めいた口調で言う男は、以前このダンジョンに初めてやってきたC級冒険者のザイルだ。彼らがダンジョンから持ち帰った宝石によって西部冒険者ギルドでは大騒ぎになった。ありえないほどの高純度、大きさのエメラルド。そしてその加工技術も他に類を見ない精度。間違いなく図鑑に載るであろう逸品だ。その噂は瞬く間に王国全土に響き渡った。そしてその噂を聞きつけた王家が、このダンジョンに騎士団を派遣したのだ。ちなみに、そのエメラルドはすでに王家が徴収してしまった。それも100万ゼルという明らかに不適正な安値で。彼の皮肉めいた口調はそのせいだ。
「ごたくはいい。さっさと行け」
ザイルの軽口を、メリル団長と呼ばれた女騎士が軽く流す。セラフィム王国の第三騎士団団長、メリル・フロイス。銀色の長髪を一つ縛りにした、クール系の長身女性だ。スラっとした細身のスタイルだが、剣術の腕は王国騎士団随一。その圧倒的な実力を買われて23歳という若さで第三騎士団の団長にまで上り詰めた傑物だ。そのクールな無表情と彼女の得意とする魔法から付けられた二つ名は『薄氷』。名実ともに、この国を代表する実力者の1人だった。
「ちっ。ザイルくんになんて態度だよ。お前ら自分の立場分かってんのかあ? 俺らはギルマスに頼まれたからしょうがなくお前らの案内をしてやってんのによお。こんなはした金積んだくれえでいい気になりやうげぶっ!」
「馬鹿野郎てめえエグザ! 依頼主になんて態度しやがるテメェ!」
メリル団長にガンを飛ばしながら詰め寄ろうとするエグザの横っ面にザイルの拳が叩き込まれる。鼻血を吹き出しながら吹っ飛んでいくエグザに騎士団からもどよめきが上がる。メリル団長の表情はぴくりとも動かなかったが。
「すみませんねえ。メリル団長殿。俺の弟分が失礼な口を。この通りシメときましたんで、ここは一つ許してくれませんかねえ」
ザイルがへへっと笑いながら言う。メリル団長は一つ頷き返す。それを了承の意だと受け取ったザイルは倒れたエグザに近寄って小声で語りかける。
「おい起きろエグザ。お前、あいつに喧嘩売るのはやめとけ。あいつの噂聞いたことねえのか、下手すりゃあおめえ今ごろ命がねえぞ」
メリル団長の二つ名の『薄氷』。そこに込められたもう一つの意味、それは彼女が非常に短気だと言うことだ。彼女の噂はそれはもう酷いものだ。彼女の肩にぶつかったものを氷漬けにしたとか、盗賊団を壊滅させた後その構成員を全員串刺しの刑にしただとか、敵国の兵士が投降するのを拒否し皆殺しにしたとか、そのどれもが残虐非道。同じ王国騎士団内でさえも彼女は恐れられていた。
「ざ、ザイルくん、ごめん」
「俺こそ殴ってすまねえな。だがお前を守るためだった。分かってくれるな?」
「ザイルくん……!」
ガシッと抱擁する2人を、メリル団長は奇妙な目で見つめていた。そして今、第三騎士団がダンジョン内部の攻略に乗り出そうとしていた。
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「なああ!? ここで終わりなのか!? 主人公は、ケンはどうなったのだ!? これ絶対続きあるよなあ!?」
「ないぞ」
「なああああ!」
ソファから崩れ落ちて項垂れるカーラ。すごい感情移入するタイプだな。というかアニメハマりすぎだろ。
「そんなはず……そんなはずないのだ。ケンはルミと幸せになるはずじゃなかったのか? ルミを置いていなくなってしまうなど、酷いではないか……」
「ちなみにルミは原作だと途中で死ぬんだよな。ケンに殺されて」
「なんだそれはあああああ!」
酷い話だよな。でもまあフィクションだから。そこまで絶叫しなくてもいいと思うんだけど。
「嘘だ……信じないのだ。ハジメ……原作とやらを、見せてくれ。自分の目で確認するまでは、2人の幸せを疑いたくない……!」
「はいはい」
よろよろと這い寄ってくるカーラに、ほいとタブレットを手渡す。この中に今見ていたアニメの原作漫画が入っているのだ。
「す、すごい。これが漫画というものか。アニメの中の人物が絵になっているぞ」
多分逆だと思うんだけど、まあいいや。というかそれ、原作の方が展開酷いんだけど大丈夫かな? アニメだとかなりマイルドになってるんだよねえ。まあいいか。あんなにルンルンで読み耽っているカーラに声をかけるのもなあ。
「さて、ダンジョンの様子でも見るか」
そういえば、なんか変なのが来てたんだったな。あれからどうなったんだろ。
「あれ、なにこれ」
コンソールを開くと何やら見たことのない表示がいっぱい並んでいる。これは……一階層の魔物部屋と罠部屋がほとんど破壊されている!?
「ぬあ、何が起きてる!?」
慌ててダンジョン内部のモニターをつける。第二階層を写すモニターに、さっき見た全身鎧姿の奴らが写し出される。魔物と対峙しているようだ。数体のウィスプに弓矢インプ、俺が自ら作った合成魔物のグレムリンもいる。
『やああ!』
騎士が雄叫びを上げてウィスプに斬りかかると、物理完全無効のはずのウィスプが真っ二つに切り裂かれて消滅する。あの剣、魔力を纏っているのか?
『この野郎! あの時の恨みここで晴らしてやる!』
『落とし前はつけさせてもらうぜえ!」
今度はスキンヘッドの大男が棍棒を振り回して弓矢インプたちを蹴散らしていく。こいつは騎士とは思えないな。て、あれ? こいつ俺のダンジョンにやってきた記念すべき第一号の冒険者か? 間違いないな。こんな特徴的な奴忘れるはずがない。後ろにいるモヒカンもあの時のやつだ。サーベルを構えて突進していく。
『【散花】』
銀髪の女騎士が一歩前に出て、何か魔法を唱える。女騎士の周りに氷の花弁のようなものが現れ、グレムリンに向かって殺到する。それを受けたグレムリンは一瞬で凍りつき次々に向かってくる花弁に砕かれ粉々になる。あいつは……かなりやばい。グレムリンは所詮Dランクの魔物ではあるが、それを瞬殺するなんて。下手したらAランクのサイクロプスでも太刀打ちできないかもな……マジでやばいぞ。
「くそ、もっと早く気づくべきだった」
アニメに夢中になっていた俺が悪い。今はかなり危機的状況だ。何か対策を考えなければならない。幸い主力の3体、メガ・サンダーウィスプとメイジ・デビル、サイクロプスは残っている。とりあえずこいつらはマスタールーム手前の一箇所にまとめておいて、そこを最終防衛ラインとする。あとはそこに辿りつく前にこの屈強な騎士達をどれだけ減らせるかだが……。
「かなりハードモードじゃないか? これ」
ピリピリとした緊張感が心地よい。あれ、俺ってこんな性格だっけ? この世界をゲームだと勘違いしているのかもしれない。ほら、俺ヌルゲーってあんまりすきじゃないから。ボス戦前にレベルを上げすぎると白けるから、低レベルで挑むタイプなんだ。
「信長の野望で培った、俺の軍師の才能を見せてやるよ」