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完封勝ち


「さすがはマスター。あれほどの強者をいとも容易く封じ込めるとは……。あずきは感服いたしました」


 モニターを見ながら、あずきは呟く。俺たちはすでに【ダンジョン内転移】でマスタールームへ戻ってきていた。モニターに写し出された、“セッ○スしないと出られない部屋”に閉じ込められた元帥は意気消沈し部屋の床にうなだれている。時折慟哭のようなうめき声を発しているのが実に哀れだ。


「元帥……かわいそう。あんなに落ち込んだ姿なんて私見たことないよ」


 メリルは心底憐れんだ顔をしている。こいつにとっては実の上司だったわけだからな。この光景はいろいろキツイだろう。


「私もいい働きをしたな。私の演技に騙された時のやつの顔、見たか? 傑作だったぞ!」


「うんうん。カーラの演技は見事だったよ」


「そうだろう!?」


 少し棒読みだったがな。でもあのジジイはカーラの姿を見ていなかったから適任だった。想像以上に気持ちよく騙されてくれたよ。


「あずきも、落とし穴の底を沼にするってよく思いついたよな。耐久が高い相手にもあれなら効果的だ。メリルもいい感じにあのジジイを誘導してくれてたし、全員よく働いてくれたよ。あいつをあの部屋にうまく誘導できるかどうかが勝負の分かれ道だったからな」


「それで奴を怒らせるようなことばかりしてたのか?」


 カーラが首を傾げ聞いてくる。


「そうだな。あのジジイはマジで強い。冷静になってこのダンジョンの攻略に乗り出されていたらまず間違いなく勝ち目はなかっただろうな。あいつにはどんな罠も効かなそうだし、生半可な策が通じる相手でもなさそうだったからな」


「だから、初見殺しの罠で即座に仕留める必要があったのですね」


「そういうこと! あずきはよくわかってるな」


 俺が褒めるとあずきは照れたように頬を染める。

 

「だから、怒らせて俺たちを追いかけてくるように仕向けたんだ。その結果奴は、ダンジョンの扉を調べもせずにまんまと開けたってわけ。そこに俺たちが逃げ込んだと信じてな」


「完璧な作戦です! マスター」


 パチパチと手を叩くあずきとカーラ。メリルはなんだか複雑な顔で俺を見ている。あれ……そういえばシルクはどこいった? 部屋の中をキョロキョロと見回すと、部屋の隅っこで体育座りしているシルクの姿がある。その目からはハイライトが消えてる。どうしたよ。


「おいシルク。どうかしたのか?」


「あ、ああ。マスター。僕のことは気にしなくていいよ。なんの活躍もできない下僕など放っておいて構わないとも」


 なんだか卑屈だぞ。こいつこんなキャラだった?


「お前もよくやってくれたぞ。……ほら、あれだ。その……」


 そういえばこいつなんかしたっけ。氷の床のゾーンに糸張ったけど、引っ掛からなかったな。水バケツの仕掛けに糸を張ったのは俺だ。切れやすい糸じゃないとダメだったから。ええと……


「ふっ。いいさ。わかっているともマスター。僕は戦いでも役に立てず、作戦でも役に立てなかった。とんだ無能さ……」


 いじいじと床に文字を書いている。『無能』と。なんかこっちが申し訳なくなってくるな……。【物質創造】で俺はあるものを作り出す。そしてそれをシルクに向かって差し出した。


「これやるから元気だせよ。お前にはこれからバンバン働いてもらうんだから」


 それはパールがふんだんに使われたカチューシャだ。白い宝石がキラキラと輝き、上品な美しさを放っている。ウェディングドレスと合わせて使うような感じのものだが、シルクに似合うと思う。


「こ、これは……」


 シルクは俺が持っているものを見て固まってしまった。あ、これキモかったか? そりゃあアクセサリーをいきなりプレゼントされても困るよな。女の子は宝石が好きだろうと安易な考えで作ったが、ちょっと迷惑だったかもしれん。


「えっと、迷惑ならいいんだが……」


「そ、そんなことはないとも! でも、マスター。僕にはこんな素晴らしいものを受け取る資格はないよ。それに見合った働きをしていない」


「それならこれからその働きをしてくれればいいよ。それともシルク、お前は俺の元でずっと働いてくれないのか?」


「マスター。その言い方はずるいじゃないか。そんなことを言われてしまったら受け取らないわけにはいかないね。でも覚えておいて。僕はマスターの役に立つために生まれてきた。この先永遠にそれは変わらないってことをね」


 シルクはカチューシャを受け取ると、さっそく自分の頭に付ける。シルクの白髪にパールの白がよく馴染む。


「似合うじゃないか」


「ありがとう、マスター」


 シルクは満面の笑みで微笑み、抱きついてくる。あずきと違って羽のように軽いな。チラリと横目であずきを見るとそこには目を見開きこちらを見つめてくる姿があった。ひ、人殺しの目?


「こ、こほん。シルク、一旦離れなさい。俺たちにはまだやるべきことが残ってる」


「わかったよ、マスター」


 さて、勝利の余韻に浸るのは終わりだ。


「さて、あのじいさんを完封したはいいが、これからどうしようかな。あんな化け物みたいな奴を閉じ込めておける牢屋なんてないしなあ」


 手錠なんてかけてもすぐに壊されるのがオチだろう。捕虜にするには強すぎるんだよなあのじいさん。


「マスター。あずきは殺害を提案します。あの部屋はあくまでも条件付きで対象を閉じ込めるもの。自力でクリアしないとも限りませんから」


「それって、インプと……」


 あずきの言葉に反応したメリルは顔を赤らめ手で覆う。想像するなそんなこと。


「流石に殺すのは無しだ。それは俺のダンジョン運営の理念と反する。このダンジョンでは死人は出さない」


「差し出がましいことをいい、申し訳ありませんでしたマスター」


「とはいえ、この光景はあまりにも哀れすぎるな。俺としては、どうにか平和的に話を持っていきたい。今さら友好的になんて難しいかもしれないが……」


 モニターの向こうで土下座のような格好でうずくまるじいさん。もう見てていたたまれないよ。俺に老人をいじめる趣味はないのだ。


「ねえハジメ。お願いがあるんだけど……私に話をさせてくれない? このダンジョンと敵対しないように、交渉してみる」


「メリル。別にいいが、どう説得する? あいつきっとお前が俺に操られてると思ってるぞ。そんなやつの言葉を聞くかね」


「大丈夫。……とは言えないけど。なんだかんだあの人とは付き合いも長いし、話をするのは私が適任だと思うの」


「うーん。確かにそうかもな。それじゃあその件はメリルに任せるよ。もしものことがあったら困るから、あいつの周りに同様の部屋をいくつか設置しておこう」


 コンソールを弄り、セッ○スしないと出られない部屋を4つほど隣接させる。これであいつはインプと5回セッ○スしないとあそこから出られなくなった。


「ハジメあんた……人の心とかあるの?」


「失礼だな。デリカシーって知ってっか?」


 


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