元帥襲来、平和ボケした俺
「お、メリルじゃん」
モニターを眺めていると、第二階層を歩くメリルの姿があった。あいつが帰ってから1週間ほど経つが、遊びにでも来たのかな。
「メリルだと? 久しぶりなのだ。私に会いに来てくれたのだな」
カーラが嬉しそうに笑う。こいつらやたら仲良かったからなあ。この前もずっと2人で遊んでたし、はたから見たらまるで姉妹のようだった。
「しょうがねえな。迎えにでも行ってやるか」
コンソールを操作し、【ダンジョン内転移】をタップする。
「お待ちくださいマスター。隣にもう1人騎士がいるようです。ここに来た目的を確認するまでは様子を――」
「あ、ごめん。発動しちゃった」
ちょっと遅かったなあずき。でもまあ大丈夫だよ。あのメリルが俺に対して変なことするはずない。あいつの弱みは握ってるからな。
「マス――」
景色が変わり、第二階層の最初のころにある大広間に転移する。目の前にはメリルと……見たことのない大男が立っている。騎士のようだが、なんか偉そうなおじさんだ。ていうか、顔がいかつい。
「ようメリル。と……初めまして。そちらの方は?」
「ハジメ……!」
メリルは驚いているようだ。まあいきなり現れたらビビるよな。仕事モードのこいつが表情崩すのは意外だけど。
「そんなに驚くなよ。まあいいからそっちの方を紹介してくれないか? 初対面なんだから」
「逃げてっ!!」
「え?」
胸の辺りに衝撃が走る。なんだこれ。剣? ずぶりと生々しい音をたてながら両刃の剣が俺の胸を貫通していく。
「ぐふっ」
この、やろう。いきなり刺してきやがった。今までに感じたことのないほどの激痛。逃げないと。俺は迷いなく【ダンジョン内転移】を発動しようとするが、男に腕を捕まれる。
「ハジメ!」
メリルは焦った様子でこちらを見てくる。なんだよ。どういうことなんだよ。
「逃がさんぜ。ダンジョンの主よ」
「誰だよ……離せよジジイ」
「ほほっ。あいにくじゃが魔人なぞに名乗る名などないんでな」
これでは転移ができない。こいつも一緒に着いてきちまうからだ。それなら逆に、味方を俺のところに呼び出せばいい。
「こい、あずきっ!」
俺の横にあずきを呼び出す。【ダンジョン内転移】のスキルは俺の作り出したものであれば対象にできる。
「マスターから……離れなさいっ!」
「むうっ!?」
あずきが放った大剣の一撃がジジイの横っ腹に叩き込まれる。奇襲を受け、大きく吹っ飛ばされるジジイ。ざまあみろ。
「マスター! 胸は大丈夫なのですか!?」
「ん? ああ、なんか大丈夫みたいだ。……一応は」
「すぐに手当を!」
俺の胸からは血が一滴も出てこない。薄々感じていたことだが、俺の体ってもう人間を辞めているみたいだな。さっきあのジジイにも言われたけど、魔人という方が近いのかもしれない。
「いってえな、お嬢ちゃん。年寄りは労わるもんだぜ」
「おいおい。効いてないのかよ。嘘だろ?」
むくりと起き上がったジジイは首をコキコキ回しながら歩いてくる。まるでダメージを受けていない様子だ。あり得ないだろ。あずきが多分全力で放った攻撃は直撃したはずだ。サイクロプスくらいなら一撃で両断できるあずきの一撃がだぞ。
「ふうー。おいメリルよ。お前……どういうつもりじゃ? なぜこいつを庇おうとした? まさか……本当に魔人に洗脳されたわけじゃあるまいな」
圧力さえ感じるその眼光に、メリルはわずかに後ずさる。両手も震えている。それでも、何か決意したかのように話し始める。
「元帥、私はやはりこの者たちとは戦えません」
「なんじゃと?」
「申し訳ありません」
「この愚か者が!」
メリルはどうやら俺たちと争う気はないようだ。良かった。それならばあとはこのジジイさえなんとかすればいいわけだな。2人が言い争っている隙に俺はこのダンジョンの最高戦力を呼び出す。
「ケルベロス、アラクネ、ギガ・ウィスプ!」
転移してきた魔物たちが広間に並ぶ。圧巻の光景だが、多分これじゃ勝てない。俺はコンソールを操作してダンジョン内の主要な魔物をケルベロスとギガ・ウィスプを除き全て合成に注ぎ込む。その強化先は……アラクネだ。3000DPほどを捧げ強化する。俺の予想が正しければこれで魔人が生まれるはずだ。
「なんじゃ? あいつ、何をしおった」
遅いぞジジイ。アラクネはすでに進化の体制に入っている。蜘蛛の糸が全身を包み込み、繭玉を作る。するとそこにピシリと亀裂が入り、中から魔人が現れる。
「……マスター。僕を作ってくれてありがとう。必ずお役に立って見せるよ」
凛と透き通った声色。その魔人は全身が白一色だった。白くショートヘアの頭髪、陶器のように白い肌、シルクのドレスを纏い、唇までもが色素を失ったような白さだ。身長は140センチほどと小柄だ。
閉じた瞼がゆっくりと開く。そこにはまるで蜘蛛の複眼を思わせる、三つの青い重瞳があった。
「……シルク。お前の名前はシルクだ」
「シルク。いい名前だね。僕にピッタリだ。さて、マスターとはゆっくり語り合いたいところだけど、その前に」
シルクは俺の胸に刺さったままの騎士剣を握ると、ゆっくりと抜いていく。それと同時に白い糸が傷口を縫い付けていき、痛みもなく剣が抜かれる。
「これでもう大丈夫。あとはあいつを倒すんだね」
「ああ。ありがとう。シルク」
「お安いご用さ。マスター」
「準備は済んだかの?」
「ああすまないね。待っていてくれたのかい? 随分と殊勝じゃないか。騎士道精神に溢れているね」
「ほほっ。儂に騎士道を説くとは皮肉のつもりかの?」
「いいや、そんなつもりはなかったさ」
言葉の応酬が交わされる。その間にシルクのステータスを見ておこう。
魔人シルク ランクS
〈スキル〉
・操糸術
・回復魔法
・闇魔法
・魔力急速回復
なるほど、回復魔法が使えるのか。それで俺の傷を治したんだな。
「あずき姉様。協力といこうじゃないか。サポートは任せておくれよ」
「ええ、シルク。よろしくね」
あずきにシルク、ケルベロスにギガ・ウィスプを加えた4体でジイさんを袋叩き。絵面は非常によろしくないがこれで準備は万全だ。何やらオロオロしているメリルが目に入るが、敵対はしてこないのでとりあえず無視しておこう。
「行くぞ、嬢ちゃんら」
戦いの火蓋が切って落とされた。
おまけ
セラフィム王国六翼騎士団
……セラフィム王国が保有する騎士団は第一から第六まであり王国全土に展開されている。メリル団長率いる第三騎士団はハジメのダンジョンがある王国西部に配置された騎士団である。




