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やっと日常

 騎士団との激闘から10日がたった。

 

「そんな!? 嘘だろ、嘘だと言ってくれ!」


「嫌だ、死なないで氷獄さん!」

 

 俺がリビング(マスタールーム)でくつろいでいると、カーラとメリルが大声で騒ぎ立てる。うるさ。


「くそう、信じない。信じないのだ。きっと奇跡が起こって生き返るに違いないのだ……」


「カーラ。だめよ、現実を受け止めないと……。氷獄さんはもういないのよ。人は簡単には生き返れない。だからこそその生き様が美しいの」


「メリル……うう……。これが心の痛みなのだな……」


 一体何をやってるんだこいつらは。つい1週間ほど前まで全くの他人だったとは思えないほど仲良くなってるな。今はソファに2人仲良く並んで座って、お菓子を食べながらアニメ映画を見ている。“不滅の八重歯”か。興行収入歴代一位を獲得した伝説のアニメ映画だ。俺も好きだったなあ。


「というかメリル。お前いくら何でも馴染みすぎだろ」


「は? 何よ、悪いの?」


 悪いに決まってるだろ。お前つい前話まで敵だったじゃん。ちなみに、カーラの正体が邪神であるということは言っていない。なんか面倒なことになりそうな気もするし、わざわざ言う必要もないしな。


「だって、ここが快適すぎるのが悪いのよ。出てくるご飯は全部美味しいし、見たことないお菓子もいっぱいあるし……それに、アニメとか映画とか、面白すぎてもうこれがない生活には戻れないよ」


 ポップコーンとコーラ片手に言うメリル。たった数日でよくもまあここまで堕落したもんだ。最初こそ鎖で縛っていたが、食事の際に唐揚げだのハンバーグだのオムライスだの、現代日本の料理を出し続けていたらずいぶん懐いてしまった。ここでの暮らしが相当気に入ったらしい。敵意も感じなかったのでこうして今は自由にさせている。


 部屋も色々拡張したりして、今ではマスタールームは4LDKになっている。カーラ、あずき、メリル、俺の部屋をそれぞれ用意した。そしてリビングにダイニングキッチンをつけて、より現代日本の部屋って感じになった。ただメリルの部屋まで作らされたのは解せない。こいつ意外と図々しい。

 

「騎士の誇りはどこ行ったんだか」


「今はオフだからいいの」


 こいつ……。


「でもさ、お前そろそろ帰らなくて大丈夫なの?」


「うっ」


 メリルのポップコーンを掴む手が途中で止まる。もしかしてずっとここにいるつもりだったのか? こいつ。


「お願い、今さら帰れないよ〜。だってさ、私国王の命令を果たせてないわけだし、どのツラ下げて帰ればいいの?」


「いやいや。帰らなかったらそれはそれで問題になるだろ。というかお前を探しにまた騎士団とかがやってくるんじゃないか? 俺からしたらいい迷惑なんだが」


「まあ、そうなんだけどさあ……。しょうがない。一度帰るしかないのかなあ」


「俺の頼み、忘れてるわけじゃないよな? しっかり頼むぞ」


「わかってるよ。私としても、このダンジョンがなくなっちゃうのやだし……。でも、それで王国がこのダンジョンを諦めるとは限らないからね?」


「ああ。もしそうなったとしても()()をばら撒いたりはしないから安心しろ」


「あ、うん。ほんとに、お願いね」


「メリル、帰ってしまうのか?」


「カーラ。またいつでも遊びに来るわよ。私、ここに暮らしたいなあ。そのためには、王国にこのダンジョンの存続を認めさせないといけないわね」


「それはいいな! 頑張るのだぞ、メリル!」


「おい、勝手に決めんな」


 マジで言ってんの? どんだけ敵に絆されてんだこの女騎士。


「マスター。コーヒーをお持ちしました」


「おう、ありがとう」


 あずきが入れてくれたコーヒーを一口啜る。おいしい。ちなみに今のあずきは鎧姿ではなく俺が作成した黒いワンピースを着ている。デザインはスマホで検索して、気に入ったものを選んでもらっている。カーラとメリルの服も同様だ。カーラはピンクのドレスみたいな服。メリルは白基調のパンツスタイルだ。


「あずき! 私もコーヒーが欲しいのだ!」


「ございますよ。どうぞカーラ様」


 カーラにはミルクと砂糖がたっぷり入ったカフェオレを渡す。あずきは今兜を被っていないから、顔が全部見える。美人系かと思ったけど、実は可愛い系の顔立ちだ。少しタレ目気味で、おっとりとした印象を受ける。前髪はぱっつんで、腰まで伸びた綺麗な黒髪が艶やかだ。見た目の歳は二十歳くらいだろうか。身長だが、あまりに気になったので測らせてみたところ2メートル7センチあった。流石魔人というべきか。デカすぎる。


「私の分は?」


「あるわけがないでしょう。脳みそが腐っているのですか?」


 メリルに対して辛辣すぎる。この2人、ずっと仲が悪い。あれだけの死闘を演じた中で、友情が芽生える……なんてことはなかったか。


「そんなわけないでしょ? 脳みそが腐ったら死んじゃうでしょう。私頭悪いやつきらいなんだけど」


「それではご自分のこともお嫌いなんですね。可哀想な人です」


 空気悪いわ。やめて欲しい。せっかくのコーヒーが不味くなる。


「2人とも喧嘩はやめるのだ! 何でそんなに仲悪いのだ?」


「カーラ。この人がいちいち私につっかかってくるのよ」


「あら? 突っかかってなどいませんよ。ただ、ご自分の立場をもう少しわきまえたらいかがかと思っているだけです」


「何それ? 一体何が言いたいのあんた」


 メリルが眉間に皺を寄せながらあずきに食ってかかる。身長差があるので見上げる感じだ。それに対し、あずきはわざとらしく目線を下げ子供に諭すように言う。


「このダンジョンの主であるハジメ様と、カーラ様に対してのあなたのあまりにも礼を欠いた態度はいかがなものかと言っているのです。その砕けた口調も、不遜極まりないですよ」


「はー? 何言ってんのあんた。ねえハジメ、こいつにビシッと言ってやってよ。一応あんた主なんでしょ?」


「正直、俺はあずきの意見を支持してるよ。お前、一応捕虜なんだよな? 何当たり前のようにここでくつろいでんだ。お前から聞き出すことももうないし、いつでも帰ってくれていいんだが」


 むしろ俺の思っていたことを言ってくれたあずきに感謝したい。こいつ、図々しい上に厚かましいんだよ。早く出てってくんないかなあ。


「ええ!? ひどい。あんたまでそんなこと言うんだ!」


「マスター。私の意見に賛同してくれるのですね! あずき、嬉しいです!」


「うおっ」


 あずきにガバッと抱きつかれる。2メートル越えと168センチでは身長差が半端ない。俺は胸の辺りに顔を埋められ、全身があずきに包み込まれる。ヤバい、息ができない。どうにか抜け出そうとするが、どこを触っても柔らかく豊かな感触が伝わってくるだけで全く抵抗できない。デカい、デカすぎる。ヘキが、ヘキが歪むっ!


「うわ、あんたしもべにそんなことさせてんの……引くわ。キモっ」


「ひ、ひがっ(ち、違う)」


 否定したくても声が出せない。ちょ、マジで死にそう。気づいて、気づいてあずき。


「それじゃあ、私国に帰るわね。あんたらのことは王に上手く言ってみるけど、期待はしないで。それじゃ、またねカーラ」


「ああ。また会おうぞ! メリル」


 遠く薄れいく意識の中でメリルが帰り支度を始めている音が聞こえてきた。ああ。やっと帰るのか、あいつ。よかった。これでうるさいのが1人消えて……。


 ……………………。


「あれ、マスター? マスター!? 大丈夫ですか!?」


 次に俺が目を覚ましたのは、自分の寝室のベッドの上だった。危うく乳に溺れて死ぬところだったなんて、まったく笑えない。ただ一つわかったのは……巨乳は凶器だ。

 魔人 ランクS

〈スキル〉

・ーー


 魔物が極限まで強化されると人の形を取る、というのは知られているが、実際にその姿を見たものは少ない。出現が確認されると例外なくSランク指定され、国家レベルの脅威と認識される。

 魔人の持つ能力は多種多様。持つ能力によって対処方法も脅威度も大きく変わる。


※誤字報告くださった方ありがとうございます。非常に助かりますm(_ _)m

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