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交渉? 脅迫?


「でっっっっ」


 モニター越しで見た時もデカいと思ったが、実際に見るあずきはそれはもうめちゃくちゃデカかった。どこがって? 全部だよ。身長は2メートルは確実に越えてそう。成人男性であるはずの俺がまるで子供のようだ。


「ご命令の通り、連れて参りました。マスター」


「お、おう。ありがとな、あずき。そこに下ろしてくれるか」


「かしこまりました」


 兜が顔の上半分を隠しているからどんな顔なのかよくわからないが、見えている口元はめちゃくちゃ美人だ。あずきは肩に担いでいたメリル団長を床に降ろすと、首元に大剣を突きつける。妙な真似をさせないようにだろう。俺の後ろにはカーラも控えている。少女のような見た目だから、まず警戒されないだろう。メリル団長は一度俺たちを確認すると、吐き捨てるように声を発する。


「ふん。ずいぶんと知恵が回る魔物だ」


 メリル団長と目が合う。あ、ヤバい。こっちも実際に見るとめちゃくちゃ美人だ。鎖で全身を拘束され、ところどころ土で汚れていたりするが、彼女の美貌は少しも損なわれていない。銀髪碧眼で、すらっとしたモデル体型。俺、美女と目が合うと緊張するのよ。


「貴様がこのダンジョンの主か? とてもそうは見えんな」


「あ、はい……」


 蔑んだような冷たい目で見つめられ、グサッと俺の心にダメージが入る。確かに俺の見た目はあれだが、そんなにはっきり言われると傷つく。


「言葉には気をつけていただけますか? 私の手が滑ってあなたを殺してしまいそうです」


「そうするといい。せっかく私を捕らえた意味も無くなるだろうがな」


 あ、やっぱりそこは気付いているか。そう、メリル団長をここに連れてきたのは、彼女と交渉をするためなんだ。気遅れている場合ではない。


「改めて、初めましてメリル団長。俺はダンジョンマスターのハジメだ。お前たちの目的は俺を捕らえること、でいいんだよな?」


「なんのことかわからんな」


「誤魔化そうとしても無駄だよ。ダンジョン内での会話はすべてこちらに筒抜けだ。お前らが俺にしようとしたことも、その依頼主がこの国の王であることもわかってるんだ」


 ダンジョン内の騎士たちの会話はすべてモニターを通して聞こえてくる。貴重な宝石を生み出せる存在である俺を、国に連れ帰って監禁。宝石を吐き出させ続ける家畜にするつもりだ。それを初めて聞いた時は本当にビビったよ。


「……なるほど。それで、そうだったら貴様はどうするのだ? 言っておくが、私は人質にはなり得ない。私の命はとうに国に捧げている。私を人質として国に交渉するつもりならば、即座に自害してやるぞ」


「俺の提案は一つだよ。このダンジョンの存続を国に認めてもらうこと。もちろん俺たちの身の安全の保証もだ。別に難しいことは言ってないだろう? それとも、たかが国のために命を捨てるのか?」


「ふん。魔物の大将如きには騎士道はわからんか。所詮は畜生。その辺の野党の方がまだ分かり合えると言うもの」


 メリル団長の言葉を聞いて、あずきの大剣を握る手に力が入る。今にも振り下ろしそうだ。


「待て、あずき。こいつの挑発に乗るな。思う壺だぞ」


「マ、マスター。申し訳ありません。マスターの悪口を言われると私、頭に血が昇ってしまって……」


「ふん、乗ってこんか。つまらんな。だがいつまでもこうしていていいのか? 今に私の騎士団がここへやってくるぞ」


 さっきから無表情のまま淡々と語るメリル団長。ああなるほど、まだ味方が来てくれると思っているからこの余裕なのかな?


「いいや、そいつらがここにくることはないぞ。見ろ」


「なに?」


 俺はモニターをメリル団長の目の前に置いてやる。そこに写されているのは、罠部屋にはまった第三騎士団の団員たちだ。落とし穴の罠にハマったもの、落石の罠で生き埋めになったもの、ウィスプ部屋で無限に精神的ダメージを負わされ続け動けないもの、痺れ弓矢に引っかかり麻痺して動けないもの、睡眠部屋で眠らされているもの。死人は出してないはずだ。これでも。


「指揮官を失った隊というのは脆いものなんだな。思ったより簡単に制圧できたよ」


 メリル団長というチートキャラさえいなければ、数々のストラテジーゲームで培った俺のダンジョン作成能力で騎士たちは問題なく制圧できた。まあ、配置はめちゃくちゃ頑張ったけどな。


「こ、こんなことが」


「お、初めて動揺したところが見えたな。よかった。ずっと無表情だから何考えてるかわからなくてさ」


「悪逆非道の悪魔め。だ、だが。私のやることは変わらない。人質として捕らえられているくらいなら、自らの死を選ぶ。さあ、さっさと殺すといい」


 この期に及んでも騎士道を貫く彼女に、素直に敬意を表する。かっこいいよ。だって騎士って言っても仕事だろ? 仕事に命をかけるなんて、俺からしたら考えられない。でも彼女、まだ命を諦めているわけじゃない。さっきからチラチラと周囲を伺って、脱出するチャンスを窺っている。めちゃくちゃ厄介だな。俺みたいなコミュ障が話し合いで丸め込める相手じゃない。


「あー。ほんとに交渉する気はないか? 別に人間に危害を加えたりするつもりもない。モニターを見てみればわかるけど、死んでる人はいないだろ? 俺は人間たちとうまく共存していきたいんだ」


 俺の素直な気持ちをぶつけてみる。でも、メリル団長の表情はぴくりともしない。


「魔物の言うことなど信じられるか。交渉の余地などない」


「そうかー。そうか……。この手はできれば使いたくなかったんだが」


「何をするつもりか知らんが、心変わりはありえんぞ」


「さっき俺さ、このダンジョン内での会話はすべて筒抜けだって言ったよな?」


 メリル団長の眉が僅かに動く。微妙な動きだが、確かな動揺だ。


「それが……どうした」


「これ、なんだと思う?」


 俺が取り出したのは、一つのUSBメモリ。それをモニターに指し、ファイルを開く。そこに保存されているのは……


『はあ。たまには1人も気楽でいいなあ』


「っ!?」


 絶句し口をパクパクするメリル団長。今までにないほどの動揺だ。目を思いっきり見開いている。


『あー。ヤバいかな私、気ぃ抜けすぎ? でも今日はもう疲れたし。あんな怖い人たちの相手、私みたいな人見知りには無理だよぉ』


「や、やめてくれぇぇぇ!!」


 マスタールームに絶叫が響く。黒歴史の開示。我ながらなんて残酷な所業だと震える。共感性羞恥が痛いほど働く。


『私はメリル。第三騎士団団長』


「ああああ! やだやだ! 止めてぇ!!」


 もはや仕事モードのスイッチが切れ、素の彼女に戻っている。俺がモニターのスイッチを切ると、彼女は肩で息をしながら俯いた。


「さて、俺の話を聞いてくれないのなら、この映像を王国中にばら撒いてやろう。同僚が見たらどう思うだろうな。『あ、いつもはクールぶってるけどほんとはこんななのか』ってなるだろうな。それとも逆にファンが増えるかも? 『意外と可愛いところがあるじゃないか』なんてな。ギャップがありすぎるもんな」


「ハジメ」


 今まで黙って事の成り行きを見守っていたカーラが声を上げる。どうした? 


「泣いてる」


「え?」


 メリル団長に視線を戻す。そこには大粒の涙を流しながら肩を震わす成人女性の姿があった。


「な、な、ああの」


「ひっく。うわーん! ごめんなさい、それだけは本当に、やめてぇ……。なんでもします。なんでもしますからぁ!」


「え、えっと、ほんとうに?」


「はい! なんでもいうことをききます! だから許してくださいぃ……」


 号泣するメリル団長。俺はもうどうしていいのかわからない。頭の中が真っ白になる。


「ハジメ。流石にやりすぎなのだ」


「流石はマスター。一瞬で心を折るなんて、私感服しました」


「はは。ソウダネ」


 どうにか説得はできたが、めちゃくちゃ疲れた。俺の心にも精神的にダメージを負った気がする。今日はとりあえず休もう……。あとのことは知らん。

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