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『魔人』


「【魔物合成】」


 俺が手塩にかけて合成に合成を重ねてきた三体の魔物。メガ・サンダーエレメントとメイジ・デビルとサイクロプス。それらを全て合成したら一体どんな魔物が生まれるのか。その可能性に気づいていながらも、今まで実行には移すことがなかった。だって、めちゃくちゃ勿体無いし。それに、合成にかかるDPは4444と桁違いに高額だった。これで俺の手持ちのDPはすっからかんとなる。合成結果が何になるのかはさっぱりわからない。正真正銘、俺の奥の手だ。


「頼むぞ。うちの子たち」


 この三体に対する愛着はかなり深い。だって、ここまで強くするのかなり苦労したもん。コンソールをタップする手が震えるが、どうにか【合成】をタップする。突然、光の粒子となって宙に舞う魔物たち。


『な、なんだ? 何が起きた』


 モニターからメリル団長の戸惑う声が聞こえてくる。もう少しで倒せるところだったからな。まあそういう反応もするだろう。


 光の粒子は一箇所に集まり、円を描きながら凝縮していく。神秘的な光景だ。まるでイルミネーションみたいに、色とりどりの光の粒子がぶつかり合いながらくるくるくるくる回っている。


「サイクロ、メガ、デビル……。今までありがとな」


 短い付き合いだったけどね。メリル団長との戦いはマジで楽しかったよ。新たな魔物に生まれ変わってもよろしくな。


 光の粒子は凝集し、一つの形を作り上げていく。それは人型の、女性の姿だ。背はかなり高い。おそらく2メートルくらいはあるだろうか。全身には漆黒の鎧を纏っているが、上腕やお腹、太ももの一部は露出し白い肌が見えている。重武装というよりは、動きやすさも意識している鎧だ。顔には兜をかぶっているが、口元だけは見える作りになっている。白い肌に、血色のいい赤い唇が目立つ。少し赤みがかった黒髪は長く、兜から出て腰のあたりまで垂れている。スタイルは……なんていうか、非常に女性的だ。めちゃくちゃデカい。色んなところが。右手には俺がサイクロにあげた漆黒の大剣を持ち、左手にはデビルにあげた宝石の錫杖を持っている。一見異質な装備だが、彼女に似合いすぎてそれが自然に思えてくる。


『これはまた……とんでもないのが出てきたな』


「全くの同意見だよ。メリル団長」


 モニター越しにメリル団長に同意する。向こうには聞こえていないのだが、相槌をうたずにはいられなかった。だって、あんなのが出てくるとは思わなかったし。あれ本当に魔物なのか? 完全にコスプレした長身お姉さんじゃん。ちょっとデカすぎるけど。


『マスター。ご命令をください』


「え?」


 長身お姉さんが話しかけてきた。しっかりイヤホンもつけてるんだな。やっぱキミ、魔物じゃないだろ。普通に喋れんのかい。


『マスター? いかがいたしましたか』


「あ、いや、大丈夫です、よ?」


 ちょ、女性耐性ないのよ、俺。めちゃくちゃしどろもどろになってしまった。恥ずかしい。


『わたくしに敬語など不要でございます。マスター。どうぞ、何なりとご命令を』


 えっと。どうしよう。いろいろ衝撃的すぎて頭が回らん。


「そ、そいつを倒せ。ただし命は奪うなよ」


 いや、ちょっとめちゃくちゃなこと言ったな。メリル団長のあの強さからして、手加減して勝てる相手ではないだろうに。


『御意のままに。マスター』


 でも、この長身お姉さんは自信満々に杖を構えた。その迫力はメリル団長にも負けてない。これは、期待していいのか? 俺は何気なくコンソールを開き、彼女のステータスを見てみる。


 魔人 Sランク LV56

〈スキル〉

 ・全属性魔法

 ・魔力急速回復

 ・憤怒

 ・物理完全無効

 ・超再生


「ぶふぉ」


 やっべえぞ。これやっべえかもしれん。Sランクとか言う明らかに別格の魔物。しかも合成元の三体の特性を全て受け継いでいる。ゲームのキャラでこんなのがいたら苦情来るぞ。


『準備はいいのか? それならこちらから行くぞ』


『いつでもどうぞ』


 戦闘が開始される。口火を切ったのは、メリル団長の魔法だった。


『【散花繚乱】!』


 荒れ狂う猛吹雪が全方位に噴射され、氷の礫が殺到する。それに対して魔人のお姉さんは無造作に杖を突きつける。


『【炎華(えんか)繚乱】』


 全方位に熱風が吹き荒れ、火炎が殺到する。それはメリル団長が放った魔法に酷似していた。


「オリジナル魔法!?」


 いきなりかましてくる。メリル団長の【散花繚乱】を真似て作った反対魔法といったところか? 多分だけど、炎と風の合成魔法なんだろうな。


『なに!?』


 メリル団長の動揺する声が聞こえてくる。二つの魔法はぶつかり合うと、相殺し合うように消滅した。次の瞬間、剣と剣が激しくぶつかり合う音が響き渡る。いつのまにか接近戦が始まってる。メリル団長の騎士剣は氷で覆われて一回り大きくなっている。そのサイズは魔人の持つ大剣と同じくらいだ。


『剣でこの私と渡り合うか! 魔物にしておくのが勿体無いくらいだな』


『そうでしょうか? 【雷槍】』


 魔人が左手に持つ錫杖から発射された雷がメリル団長に迫るが、それは躱される。即座に反撃の魔法が放たれる。


『【咲け、白椿】』


 床に直径10メートルはありそうな巨大な氷の花が生成される。一瞬であの規模の魔法を放つとは……。魔人のお姉さんは大丈夫か?


『【炎槍】』


 氷の花を突き破り、中から炎が吹き上がる。全属性の魔法を使えるというだけあるな。対応力が高い。


『この魔法でもまるで応えないか。思った以上に厄介そうだ』


 再び2人の間合いが詰まり、激しい攻防が続く。モニター越しに見ている限り、2人の実力はほぼ拮抗している。だが、僅差でメリル団長の方が上回っているように感じる。魔人の動きに慣れてきたのか、魔人が少しずつ押され始めているのだ。


「ちょ、避けろ! 魔人!」


 体勢を崩した一瞬の隙をつかれ、魔人の左腕が切り飛ばされる。手放した錫杖もくるくると宙を舞う。


『勝負あったな』


 メリル団長が勝ち誇ったように言う。くそ、こいつどんだけ強いんだよ!


『いいえ。まだですよ』


『なに?』


 飛ばされた左腕は、塵になって再び魔人の左腕に戻ってくる。え、何それ。


『私は再生能力を持っています。私の魔力を削り切らない限りはあなたに勝ち目はありませんよ?』


 そうか、そういえばこいつ【超再生】とかいうスキルを持ってるんだった。だから、倒すには再生に必要な魔力をすべて削り切らなければいけない。しかも【魔力急速回復】のスキルも持っているので、長期戦になればなるほど有利になるのでは?


「それ、ズルすぎない?」


『え、そうでしょうか? マスター』


 魔人の狼狽える声が聞こえる。なんか俺の言葉にショックを受けたようだ。やべ。戦闘中に味方を困らせて何してんだ。


「い、いや! 素晴らしい力だぞ! さすがは俺の作り出した魔人だ!」


『勿体無いお言葉。……その、マスター。差し出がましいお願いなのですが』


「なんだ?」


 少し言いづらそうに、魔人がこちらに話しかけてくる。


『この戦いに勝ったら、私に名前をいただけないでしょうか』


 なんだ、そんなことか。


「そういうことなら、今つけてやるよ。“あずき”なんてどうだ?」


 理由? 髪の毛があずきみたいな色してるからだけど? それに、あずきって響きが女の子っぽくて可愛い。


『ありがたき幸せにございます! 私、“あずき”。この命の限りマスターに尽くしていくと誓います』


 目元は兜に隠れて見えないけど、口元がめちゃくちゃ嬉しそうに笑っているのがわかる。そんなに喜んでもらえるとは。名前をつけた甲斐があるってもんだ。


『期待しているよ。さあ早く、あの騎士をぶちのめして――」


『何をニヤニヤしているのだ!』


 メリル団長が痺れを切らしたのかあずきの元に突進する。再び近接戦が始まった。


『マスターのお言葉を遮るなど、万死に値します』


『さっきから何をブツブツと! 戦いに集中せんか!』


「頑張れあずき!」


 戦いはやはり、メリル団長の優勢のようだ。しかし、あずきはいくら切られても即座に回復してしまう。これは長引きそうだ。


『マスターにご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません。ですがご安心ください。準備は整いました』


「え? 何が」


『【憤怒】』


 次の瞬間、あずきの体から血色のオーラが迸り、その衝撃で大気が揺れるのをモニター越しでも感じた。

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