ネコと少女と男と刑事
西新橋3丁目、某マンションの1室。遮光性の高い花柄のカーテンが閉め切られており、日中の筈が部屋には十分な日差しが届いていない。荒らされた形跡はなく、被害者が営んだとされる生活感が整然と現れる。ただ一つ、ベッドに横たわる女の亡骸を他にして。
「被害者は24歳女性、接客業に従事、とは言っても、絢爛な衣装を着込んで男に酌をするほうのだ」
「ははーん、キャバ嬢ってわけですか」
スーツ姿の男が2人、白い手袋を着用し、現場、ひいては仏の見分を行っていた。独り暮らしであれば十分な広さをもつ居室でも、大柄な男性2人を入れれば、まるで子供部屋のごとし矮小。
男たちの見てくれはといえば、一人は黒髪の短髪で、ひげも綺麗に剃った好青年柄、もう一人は、目元に掛かるほどの長髪で、脱色したまま美容院を飛び出してきたのかと思うほど黄色に近い金髪、また髪質はモズクのようにチリチリである。
「けっこーな美人ですね、かーっ、生きてるうちに酌してもらいたかったなあ」
黒髪の刑事は、遺体の枕元にしゃがみ込むと、まるで眠ったような女の死に顔をまじまじと眺め、悔しそうに自らの膝をパチンと弾いた。そんな一連を見届けた金髪の方は、男が膝を叩いた要領で、整髪料で固められた黒髪をしばくと、構わず話を続ける。
「致命傷となった傷のほかに損傷はなく、ほかに暴行された痕跡なども見当たらない。部屋を荒らされていないことからも、強盗の可能性は低く、また強姦目的の犯行である可能性も低い」
「てこたぁつまり、私怨ですかね、美人は敵を作りやすいっすからねえ」
「あるいは…………殺人を目的にした犯行か」
その言葉に、黒髪の男は肺の中身を全て出し切るほどのため息を吐き、「よっこいしょ」と一言添えて、気怠そうに立ち上がると。
「いやだなぁ、変態を相手にしたヤマは」
「まだ決まった訳じゃない、それに、どんな事件でもクールを保つことが善い刑事の条件だ。セブンのモーガンフリーマンしかり、シャッターアイランドのレオ様しかり」
「いや、レオ様は中盤以降ずっと発狂してたでしょ。ていうか例えが古いんすよ、セブンなんて今どきのガキは知らないし、七つの大罪なんてベタベタな題材…………」
そう言って、黒髪の男が懐中電灯を使い、おもむろに部屋を照らした時だった。壁に飾られたカレンダーや写真などを上塗りするかのように、でかでかと、血のように赤い塗料で描かれたLust(色欲)の文字。
「せ、先輩…………」
「ん、なんだよ?」
「あ、ああ、あれ、あれあれ!」
黒髪の刑事に執拗に肩を叩かれた金髪は、それを鬱陶しそうに払いのけると、被害者女性に注目させていた視線を、黒髪が指さす方向へと移す。すると目に映るのは、部屋の薄暗さ故に気付き得なかった、光に浮かび上がるLust。
「…………」
金髪は一目その文字を見やると、再び視線を被害者へ戻し、少しの間、頭の中を整理した。そして、ものの数秒思考した後、大事に気付く。
「ねえ、なにアレ」
「なにって本物っすよ! ご本人様が登場してるんすよ!」
「いやいや、ジョンドウならブラピに射殺されたよ、それにここ日本だし、あり得ねえだろ、バンクシーか何かだろ、うん」
「いや、バンクシーの方がもっとありえないでしょうが」
「つーか殺害現場にまで落書きするなんて、奴の倫理観はどうなってんだ、ったく。掃除大変だぞこれ」
金髪の刑事はそう言って、あろうことか現場にあったタオルをもって壁のペイントをこすり始めた。その言動には黒髪の刑事が焦る。
「だからバンクシーじゃない…………って、ちょちょちょッ、何やってんすか先輩、現場保存、現場保存!」
「うるせー! いいから重曹もってこい!」
「さっきまでクールを説いてた人が何やってんすか! ちょっと誰かーッ、ヘールプ!」
金髪の先輩を羽交い絞めにし、これ以上の蛮行を防ぐことに成功した黒髪。そうして駆けつけた制服姿の警官たちに取り押さえられ、無事、現場は事なきを得たのであった。
「まったく、とんでもないヤマにぶち当たっちまったな」
ひとまず殺害現場を後にし、赤色灯を焚くパトカーが並んだ駐車場へと降りていた。黄色いテープが張られ、その中で鑑識や警官がぞろぞろとひしめき合う中、落ち着きを取り戻した金髪の刑事が、コーヒーをひとくち含んで呟いた。
「まさか映画みたいな事件が起きるなんて、思ってもみなかったっすよ」
「ああ。もしかしたら他の事件でも、俺達が気付いていないだけで、メッセージが隠されていたのかもしれんな」
「映画だと、冷蔵庫の裏とかに隠されてたんでしたっけ」
「まあそうだな」
「そうと決まれば、他の現場にも行きましょうよ! もっかい洗えば、何か手掛かりがあるかもしれないっすよ!」
黒髪の後輩は、そう言って鼻息を荒くするが、しかし金髪の先輩刑事からは、彼の様な熱意は感じられない。だがそれもそのはずで。
「ばか、刑事が先入観に囚われるな。先ずは地道に、だ」
「とはいっても監視カメラは全滅、目撃者も無しっすよ?」
「ガイシャのスマホは見つかったんだよな?」
金髪刑事から後頭部を小突かれ、昂った熱も平常を取り戻した黒髪刑事は、後頭部をさすりながら、彼の問いかけには面白くなさそうに答える。
「ええまあ、でも、それが何だってんですか?」
「ガイシャは24歳の女、つまり生前、SNSも多用してたことだろうよ」
「ははーん、先ずは女の秘密から暴こうって訳ですか」
「言い方は悪いが、そういうことだ。被害者たちの共通点も見つかるかもしれない」
亡くなった被害者のスマホを確認するには、それ相応のプロセスを踏む必要があるが、ひとまず捜査方針を固めつつあった彼ら、しかしここで、冷や水を浴びせるかのように、一人の警官が駆けてくる。
「ご苦労様です、愛宕さん」
「おう、ご苦労さん、どうした」
「なんか、ネコ? の人たちが来てるんですが」
若い男の警官は、自分でも何を言っているのか分からないといった顔で、金髪の愛宕刑事に、ただそれだけを伝言した。しかし愛宕には意味が伝わったらしく、彼は頭を掻きながら小さく嘆息を洩らした。なお、その様を見た黒髪の刑事はというと、何かを察したらしく、若い警官に声色を強くして言う。
「おい、悪いが俺たちは忙しいの、悠長にネコ探しなんかしてられないの」
「えぇ?」
意味が分からないのは同じなので、当然ながら黒髪の言い分には困り果てる警官。すると、「お前は黙ってろ。」と愛宕は面倒くさそうに黒髪の頭をひっぱたいて、困惑する警官を安心させるようにこう言った。
「了解した、あとはこっちで対応しとくから、持ち場に戻ってくれ」
「分かりました、ではこれで」
警官が来た道を戻ってゆくのを確認すると、愛宕に叩かれた頭部を撫でながら、黒髪の刑事が彼に問う。
「ちょっと、何なんすかネコって、殺し以上に大事な捜査なんすか?」
「ちげえよ、もっと厄介な連中だ、見ろ」
愛宕がアゴで指す方へ視線をやると、視界に入ってくるのは、警官や捜査員、鑑識班がてんやわんやになっている見慣れた風景だった。しかしそこに、明らかに場違いな十代と思しき金髪の少女と、白いペルシャ猫を抱える成人男性の姿があった。
「あんな若い私服警官、いましたっけ」
「ありゃ警官なんかじゃねえ、一言で言えば、疫病神だ」
得体の知れない2人組に警戒の意を示す黒髪の刑事、対する少女らも————主に男の方だけだが————緊張感を隠せずにいた。
殺人事件が起きたとのことで連れ出され、マンションの駐車場に到着するや否や、さも当然の如く黄色い規制線をくぐり抜けた小鳥遊ら一行。そして言われるがままに付いてきた男は、警察官から向けられる奇怪な眼差しに耐えられず、少女の肩を叩いた。
「おいおい、不味いって、事件現場だよここ、警察官だらけだよここ?」
「分かってますから、少し落ち着いてください」
「いや何言ってんの、俺は冷静だよ、でもネコがさ、さっきから震えてるんだよ」
「震えとるのはお前の方にゃ、いいから黙っとけ」
刑事とNECO、一歩も譲らない睨み合いが続き、そしてその距離もついに、パンチを繰り出せばアゴに当たるほどにまで近づいた。危うきこと虎の尾を踏むがごとし、という訳でもないが、そんな重苦しい空気の中、堂々と最初に口を開いたのは小鳥遊であった。
「お久しぶりです、愛宕警部補」
「アー、ナイトゥミートゥ?」
西洋人じみた顔立ちの小鳥遊をからかうかのように、愛宕は拙い英語で握手を求めた。挑発、ともとれるその態度には、ネコも男もいい気分はしなかったが、それでも少女は表情を綻ばせる。
「COME ON DETECTIVE, NO NEED TO GET ALL FORMAL. WE‘VE KNOWN EACH OTHER FOR A COUPLE OF YEARS. GET IT TOGETHER WILL YA?」
思わぬ返しに、愛宕の顔が引きつる。否、ネコを除いた他の者もぽかんとした表情を浮かべ、少しばかりの沈黙が彼らを包んだ。そしてまたしても口を開いたのは小鳥遊。
「やだなあ、見知った仲じゃないですか、そんなにかしこまる必要ありませんよ、愛宕さん」
「あ、あーそうだなぁ、ははは、いやあ、ほんと久しぶりだねえ、あ、背伸びた?」
「先輩、ダサいっすよ」
そうして場の空気感も少しは和んできたところで、流れは次のステップである自己紹介へと移る。
「こいつは最近、捜査一課に配属されたペーペー、足柄だ」
「ちいす、足柄でーす」
どこの馬の骨とも知らない子供と、その横で呆ける男に仕事の邪魔をされたとあっては、弁える礼節も不要と考え、黒髪の刑事、もとい足柄は、二本指で敬礼をして挨拶を決めた。しかしそれを善く思わないのは先輩の愛宕。
「おい、なんだその挨拶は」
「し、失礼しました、警視庁捜査一課、足柄です、階級は巡査部長です、26歳です!」
「年齢はいらんだろ…………」
刑事組の紹介が終ると、お次は“どこぞの馬の骨”組みが紹介を始める。
「NECO特別対策課の小鳥遊です、今後ともよろしくお願いします」
「えっと、NECOの三鷹と申します、28歳です。で、コイツがネコのビー玉です、こらビー玉、挨拶は? ————よろしくにゃん(裏声)」
ペルシャ猫と警視庁の刑事はさておき、明らかに説明不足のまま、ご満悦に自己紹介を終えようとする少女らに対し、足柄が声を大にして言う。
「ちょっと待てぇ! ネコってなんだよ、いやビー玉じゃなく————大事なところ抜けてるでしょうが、このままじゃ野良猫対策課って覚えますけど」
耳に手を当て、仮にも一般人である少女らの前でアホ面をさらけ出す足柄。警察のメンツを潰しかねず、また同時に、目も当てられない醜態に哀れみを感じた愛宕は、そんな彼でもピンとくるであろう一言を囁く。
「こいつらが、失律者を狩ってるアレだよ」
「…………えッ、マジで存在したんすか!?」
「ああ、感情抑制機構、略してNECOだ、警察学校で習ったろ」
「ネコの話してるのは知ってましたケド、コイツらのことだったんすね」
「何の講義だと思って聞いてたんだ…………」
独立行政法人感情抑制機構(National Emotion Containment Organization)とは、近年増加する感情特異症候群患者(失律者)の特別制圧、また発症の予防を行うため設立された組織である。なお、内閣府が内に「特殊感情対策室」を設けており、その下部機関としてNECOが運営されている————と、警察学校では、上記の通り教えられているが、足柄のリアクションを見ても、真面目に聞いている受講生は少ないと思われる。
「で、そのNECOの職員が、なんでウチの現場にいるんすか?」
「お前も察しの悪いやつだな」
「まさか、一連の事件のホシが、失律者ってことですか…………?」
いつまでも足柄に構っていては埒が明かないと踏んだ小鳥遊は、彼を尻目に、ここまでずっと足踏みをしていた仕事を進めるべく、まずは愛宕に話を振ることに。
「愛宕さん、我々も被害現場を見たいのですが、構いませんか?」
「構わん、場所は503号室だ」
「ありがとうございます…………それで」
愛宕からの了承を得られはしたが、それでも小鳥遊は申し訳なさそうに、まだ何か頼みごとがあるのか、上目遣いで彼を見る。そうすれば愛宕も、いつもの事だと割り切る様な素振りでこう返した。
「分かってるよ、部屋には誰も入らないよう、無線で伝えとく」
「どうも、毎度すみません」
そうして少女らは、エレベータを使用してマンションの五階へと向かった。すれ違う関係者は皆一様に首を傾げるが、彼女は会釈も返さず、その歩みを進め続けた。なお男はというと。
「あ、すいません、お邪魔しまーす、あ、すいませんスイマセン、ご苦労様ですう」
と、目の合った警察関係者すべてに挨拶をする始末であった。
そうして一行は、誰もいなくなった503号室に足を踏み入れた。フィクションでしか拝んだことのない世界、カーテンは閉め切られ、陽も当たらないその重苦しい空気には、男も尻込みをする。
「ここで人が殺されたんだよな」
「ええ、恐らく失律者の仕業かと、あれを見てください」
少女がスマホのライトを向けた先には、壁一面に赤く描かれたLustの文字。
「ひえー、セブンかよ」
「最近あった事件では、wrath(憤怒)の文字が、ひと月前の事件では、同様にLustの文字が描かれてました」
「なるほど、ラストが使用済みだったことを忘れていたか、手札にラストがダブっていたかのどっちかだろうな」
「全然ちがいます」
取り上げるに値しない男の推察はさて置いて、少女はベッドの方にライトを向けた。「うおあ」と男の悲鳴が壁を蹴る。光に照らされ、露わになる女の死体、服毒した白い姫君のように穏やかではあるが、その胸には、型でくり抜かれたような穴が開けられている。
「びっくりしたあ…………この人が、事件の被害者?」
「ええ、異能の力で殺害されたのでしょう。ビー玉、匂いは?」
ここまで沈黙を守って来たネコだったが、警察が退散したことで心置きなく話せるようになった彼は、引き続き男に抱えられたまま、部屋の隅々に顔を向けて匂いを確かめた。
「するにゃ、間違いなく、ここには失律者がおったにゃ」
「分かった」
少女はスマホのライトを消すと、踵を返して玄関へと戻ってゆく。殺害現場に入ってから数分しか経っていなかった。ゆえに男は呆然と問う。
「お、おい、もういいのかよ?」
「はい、これだけ分かれば十分です」
「まさか、犯人の居場所が分かったとか?」
「いえ、それを探すのは警察の仕事です。それまでは、別の仕事をします」
「別の仕事?」
殺害現場を後にして、再び駐車場にいる愛宕と足柄の元へと帰った少女ら、そして合流するや開口一番に、小鳥遊は言う。
「失律者の仕業ですね」
彼女の言葉に、苦い顔で金色の頭髪を指に絡ませる愛宕、それは、彼が一番聞きたくなかった言葉であった。なぜなら、失律者が絡む事件は、捜査や後始末が格段に面倒くさくなるからである。愛宕は鼻腔から目いっぱい酸素を取り込むと、それを口から吐き出しながら呟く。
「じゃあこの事件も、お前らとの合同捜査になるのか」
「はい、お手を煩わせるつもりはありませんが、ルールは守ってくださいね」
「分かってるよ、というか、この事件も失律者の犯行なら、麻布と大手町の件も、同じ奴の仕業ってことになるな」
「ええ、犯行現場に残された、七つの大罪にちなんだ落書きから見ても、そう考えて問題ないかと」
「やっぱりあったのか!」
「え」
思わず口を滑らせた足柄。否、愛宕も少女の言葉には眉をひそめたが、警察の威信に関わるため、聞くことはしなかった。まさか警察が、そんな大事な手掛かりを見落としているなどと、少女らに覚らせないために。しかしその沈黙は後輩によって破られたのだ。
後輩の口をふさぐ愛宕の姿に、小鳥遊は首を傾げる。
「あれ、既に警察も知っているものかと存じていましたが」
「あ、ああ、当たり前だろっ、あったよねー、あったあった、まったく今どき七つの大罪なんて、流行らないよねー!」
愛宕は部下の失敗を取り繕うようにそう言ったが、その汗だくの顔つきや、ポケットに手を入れたり、頭を掻いたりと、収まるところを探すような身のこなしからも、それが嘘であることは目に見えていた。
「真面目にやってます?」
「や、やってるに決まってんだろーが、警察の捜査力なめんなよ!」
「まあなんでもいいですが、早速、ひとつお願いがあります」
改まった様子で伺う少女に、落ち着きを取り戻した愛宕が「なんだ」と、聞き入れる姿勢をみせると、彼女は当たりさわりのない笑みを浮かべて言う。
「警察がこれまでの捜査で得た被害者たちの素性を、共有いただきたいのですが」
しかしその言葉に、刑事組は漏れなく善い顔をしなかった。真っ先に噛みついたのは足柄刑事、彼はその大柄な体躯を一歩前に踏み出す。
「おいガキ、なんでテメーなんかに極秘情報を教えなきゃいけねーんだよ」
「もちろん、必要な申請は行います」
「そういうことじゃ…………ッ」
さらに一歩、足柄が足を前に出し、少女との距離を詰めた。まさに一触即発、ここまで呆け面だった男も、刑事と小鳥遊の間に入ろうとした時だった、足柄を諫める声。
「やめとけ足柄、気持ちは分からんでもないが、こいつらも民間人じゃないんだ。お上のルールに従って、協力は必要だ」
「でも」
ここまで必死にかき集めた手がかりを突然横から持ち去られることは、刑事である彼にとって、計り知れない屈辱なのだろう。だが、愛宕が手綱を引いたおかげで、足柄も平常心を取り戻した。
「上から要請があり次第、お前らに共有する」
「申し訳ありません」
彼らの心を知らない訳でもない小鳥遊は、愛宕の返答に対し、深く頭を下げた。そんな健気な少女の姿を見て、「気にすんな」と、愛宕も煙を払うような仕草をして見せるが、しかしタダという訳にもいかない。
「ただし、お前らが持ってる失律者の情報も、こっちに開示してくれ」
「それは無理です。極秘情報なので、一般人に開示することは出来かねます」
「…………てんめえ」
妥協案として出した要望、しかし平然と断ってみせた少女に、愛宕は目をギンギンにさせ、頭の血管を膨らませた。しかし彼も分かっていた、失律者に関してはすべてが解明された訳ではなく、その研究は今もなお進行中であり、国家機密に相当する情報であることを。
「すいません、私も組織の端くれなので、お伝えできる情報が無いのです」
「あーそうですか」
「でも、私個人で把握した情報であれば、いつでも共有させていただきますので、その際は気兼ねなく言ってください」
「ま、それで勘弁してやる」
そうして落としどころを見つけたことで、話し合いもここで終了、彼らは再びチームに分かれ、事件現場を後にした。
「足柄、先ずはガイシャのスマホを確認する。遺族の許可と、解析センターに連絡を取れ」
「アイアイサー」
刑事組は引き続き捜査を————。
「先生、気になるカフェがあるので、帰りに寄ってもいいですか?」
「アイアイサー」
————NECO組は、土曜の休日を満喫するための計画を立てたのであった。