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完結記念SS④ 恋はまだ知らない

 新たに王族となった者は、その十四日目に王家の霊廟に行って報告の儀をしなければならない。

 女性ならば配偶者が同行するのが決まりだ。


 国王と結婚したシュゼットも、その日には朝から支度をして代々の国王や王妃が眠るお墓に向かった。


 どんよりした曇り空は、慣れない儀式での緊張を増幅させる。

 霊廟までの小道に、名もなき小花が咲いているのが救いだ。


(結局、アンドレ様は来てくださいませんでしたね)


 クレープ製の黒いドレスを身につけ、黒いヴェールで顔を隠したシュゼットに同行者はいない。


 夫のアンドレはまだ寝ている……と思う。

 彼は毎晩、美しい夜着で着飾って待つシュゼットの元には現れず、客間で寝泊まりしているので知りようがないのである。


 おそらく、カルロッタとの仲を追及されるのが面倒で、シュゼットと顔を合わせないようにしているのだろう。

 指一本どころか、視線もくれない夫をどうやって愛していけばいいのか、シュゼットは人知れず悩んでいた。


(明日はきっと顔を見せてくださる。そう信じるよりありません)


 結婚してまだ十四日しか経っていない。

 夫婦喧嘩にしては長いような気がするけれど、無知なシュゼットは他の家庭がどんな風に愛を育んでいるのか知らないから、いくらでも自分を騙せた。


 乾いた土を踏んで、先導役についていく。

 そのうちに、後方からたたたっと走り寄る足音が近づいてきた。


「王妃様、お待ちください」


 振り返ると、追ってきたのは国王補佐のラウル・ルフェーブルだった。


 灰色の宮廷服に黒いタイを結んだ準喪の服装だ。

 普段から険しい顔をさらにしかめて息を切らしているので、少し怖い。


「ラウル殿、どうしてこちらに?」

「今日の同行者を務めにきました」


 ラウルは沈痛した様子で「申し訳ありません」と謝った。

 

「アンドレ様がどうしても起きてくださらず……私のエスコートでお許しください」


 シュゼットの隣に立ったラウルは少し腕を曲げた。

 もしかして、ここに手を置けということだろうか。


 予想しつつも、シュゼットは彼の誘いにのっていいのか戸惑った。 

 国王という夫がいる身で、別の男性にエスコートされて霊廟へ行って、眠る王族たちは怒ったりしないだろうか。


(でも、霊廟は同行者と訪れると決まっているようです……)


 シュゼットが手袋をはめた手をそっとのせると、ラウルの眉間のしわが少しだけ和らいだ。


「では、参りましょう。歴代の王族は素晴らしい方々ばかりです。アンドレ様の父君も、王妃様が顔を見せればお喜びになるでしょう」

「前の国王陛下には大変よくしていただきました。そうですよね。霊廟に行けば、お会いできるんですよね」


 名君だったアンドレの父を思い出して、シュゼットは儀式が楽しみになった。

 ラウルだったら、王族の秘話もたくさん知っていそうだ。


「せっかくですから、歴代王族のお話を聞かせてください。宮廷史を読んでみようかと思っていたのですが、とにかく巻数が多くて手が付けられないんです」

「王妃様は毎日お勉強でお忙しいですからね。私でよろしければお教えします」


 二人は寄りそって霊廟までの道を行く。

 いつの間にか雲が割れて、日差しが小道に降り注ぐ。


 それは、シシィとエリック・ダーエが出会う前の、二人の在りし日の姿だった。

「おさがり姫の再婚」をお読みいただきありがとうございます!

ご感想やコメントいつも嬉しく拝読しています。

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