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完結記念SS② 次期公爵様の独占欲

「こ、これ全部いただいていいのですか……?」


 シュゼットは豪華な装飾がほどこされた本棚を見上げて震えた。


「ああ。全て君のために集めた」


 ラウルはなんとはなしに言うけれど、ヒストリカル文学や有名な詩人の全集といった貴重な本をここまでそろえるのは大変だったろう。

 特に充実しているのは恋愛小説だ。


 シュゼットがルフェーブル公爵邸での暮らしをスタートさせたのが数日前。

 ラウルの告白を受け入れて宮殿から移動したら、すでに部屋が用意されていた。


 ローズピンクを基調としたクラシカルな一室は貴族令嬢らしい慎ましさで一目で気に入った。

 しかし、手紙を書くためのライティングテーブルはあっても本棚はなかった。


 残念に思っていたところ、朝食の時間にラウルが「君にプレゼントを贈りたい」と言い出して、部屋に戻ってみたら本がぎっしり詰まった本棚が出窓のそばに置いてあったのだ。


 目をきらきらさせて感激するシュゼットに、ラウルは愛おしそうなまなざしを送る。


「気に入ってくれて嬉しい。俺のおすすめの本を入れてあるが自由に入れ替えてくれてかまわない。好みにあわない物は捨ててくれ」


「いいえ。ラウル様が選んでくださったものですから、全て読んで大切にします。下段は恋愛小説なんですね。エリック・ダーエ先生の作品ばかりのようですが……」


「君は、他の作家の本も読むのか?」

「読みます。ダーエ先生の作品が特に好きですが、恋愛小説と名の付くものでしたら何でも」


 エリック・ダーエは宮廷を舞台にした恋愛模様の名手だ。

 巷では恋愛小説が流行っていて、町娘と貴公子の物語が得意な作家や、貴族令嬢が婚約者の紳士と中身が入れ替わってしまうようなイロモノばかり書く作家もいる。


「少し前に読んだ恋愛小説がとても面白かったです。家の都合で男装して宮廷にあがった令嬢が、国王に見初められてしまう物語で――」


「俺だけではだめか?」


 低くつぶやいたラウルに、シュゼットは目を丸くした。

 国王補佐の仕事に打ち込んでいる時みたいに目を細めているけれど、口元に力を入れてむっとした表情は、普段の落ち着きはらった彼らしくない子どもっぽさで。


(ラウル様、すねていらっしゃる?)


 こんな姿を見るのは初めてだ。


 驚くシュゼットの頬に、ラウルは大きな手のひらを当てた。

 見つめてくる瞳から、じりじりとした独占欲を感じる。


「他の作家に君が心を動かされるのは我慢ならない。俺だけ愛してくれないか」

「わ、私が愛しているのはエリック・ダーエ先生だけです!」


 真っ赤になって告げれば、ラウルは満足そうに微笑んだ。


「次の本は君のために書くよ。姉のおさがりを押し付けられていた侯爵令嬢が、夫になった悪王の補佐と恋に落ちる物語だ」

「それは、まるで……」


 私のことのようです。

 そう言いそうになった唇はラウルに塞がれてしまった。


 強引なキスは恋愛小説よりずっと素敵で、シュゼットは胸の高鳴りを感じながらうっとりと目を閉じた。

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