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71話 毒を盛られた王妃

(ラウル殿は、私を自由にしてみせると言いました)


 舞踏会の夜以来、シュゼットはラウルに言われた言葉を反芻して日々を過ごしていた。


 相変わらずアンドレは姿を見せなかったが、そんな生活にも慣れた。

 寂しいのはラウルとも会えなくなってしまったことだ。


 彼はさらに多忙になってルフェーブル公爵家にも帰ってこないのだと、庭の薔薇を手入れしにきたリシャールが教えてくれた。


 宮殿にもいない。実家にもいない。


 ラウルは今頃、何をしているのだろう。体

 調を崩していないだろうか。


 会えないまま二週間が過ぎ、やっと顔を見られる日がやってきた。



 貴族議会の開幕式だ。


 慣例により、王族はみな出席することになっている。

 そこには国王補佐のラウルもいるはずだ。


 アンドレが先に議事堂へ向かったので、シュゼットは一人で王族用の馬車に乗り込んだ。


 正式な式典ということもあり、今日のシュゼットはベールを被っていない。

 傷跡を化粧で隠し、衿の詰まった清楚なドレスを身につけて、手首にはエメラルドと真珠のブレスレットを巻いている。


 何度か話しかけてみたが、あの舞踏会の日以来、ブレスレットが話してくれることはなかった。


 今日はラウルの顔を見られるだろうか。

 ぼんやり車窓をながめていたら、馬車は議事堂の正面ではなく裏手の小道に入って止まった。


(道を間違っているのでは……?)


「王妃様、どうぞ」


 馭者が扉を開けた。

 ドレスの裾をたくしあげて降りようとしたシュゼットは、馬車の近くに立った相手を見て固まった。


「お姉さま……」

「元気そうね、シュゼット。悪いけど、あんたが大きな顔をしていられるのも今日限りよ」


 夜会に着るような大胆なドレスを着たカルロッタは馭者に目配せする。

 馭者の男はニヤリと卑屈に笑い、シュゼットに殴りかかってきた。


「やめて!」


 身を守るように倒れたシュゼットの上に、馭者が飛び乗った。

 馭者はシュゼットの口をむりやり開けさせて、小瓶の液体を流し込む。


(なに!?)


「飲め!」


 口と鼻を塞がれて、シュゼットのごくっと喉が動く。

 得体の知れない液体を飲み込んでしまった。


「い、今のは何ですか?」


 青い顔で見上げるシュゼットを、カルロッタは愉悦に満ちた表情で観察している。


「無駄口を叩けないようにする毒よ。心配しなくても死にはしないわ。あんたはこれからあたしと一緒に会議場に乗り込んで、アンドレ様にラウルとのことを懺悔するのよ」


「そんな、こ――かはっ」


 言い返そうとしたら声がかすれた。


(声が出せないです……!)


 毒のせいで話せなくなったシュゼットの背中に、馭者がナイフを当てた。


「立て。抵抗すれば刺すぞ」


 やむなく立ち上がったシュゼットは、カルロッタの後ろを歩かされた。


(逃げることも、助けを呼ぶこともできません……)


 処刑場に向かう罪人のようにうつむいて裏口から議事堂に入る。

 カルロッタが議会場の扉を両手で開けると、着席してシュゼットの到着を待っていた貴族たちがいっせいにこちらを向いた。


 円形劇場のように並ぶ議員席を見下ろす位置に座ったアンドレ、王族用の観覧席にいるミランダも驚いた様子で体を起こしている。


(彼はどこに?)


 シュゼットは会場を見回した。

 ラウルは宰相の隣に、リシャールと共に座って目を見開いていた。


「シュゼット……?」


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