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68話 異能を知っても好きでいて

 ラウルは淡々と告げた。


 前王に畏敬の念を抱いていたからこそ、その息子であるアンドレが愚かな人間でも見捨てずにいた。

 前王の子でないのであれば、今までの頑張りは何だったのだろうと徒労感に包まれる。


 やるせない表情のラウルに、ジュリーも同調した。


「私は、生前の父から『お前には本当は弟がいるんだ』と聞いたことがあります。それは国王陛下のことだったのですね。申し訳ありません、王妃様。我が家のこんな話をお聞かせして」


「いいえ。私も知らなければいけなかったことです」


 これまでアンドレを国王と敬ってきた自分まで急に空虚なものに感じられて、シュゼットは目を閉じた。


 夫を裏切って想い人との逢瀬を続けたミランダは、懐妊が告げられた時、どんな気持ちだっただろう。


 嬉しかっただろうか。

 不安だっただろうか。


 どちらにせよ強く思ったはずだ。

 この子の父親が王ではないことは、絶対に誰にも知られてはならないと。


(だから、王太后様は私たちのことを言いふらさなかったんですね)


 叶わぬ恋に落ちたシュゼットとラウルを見て、ミランダは自分とレイリ伯爵を思い出したに違いない。

 若き二人の恋を非難することは、自分の人生を否定するに等しい。


 アンドレが愚王だということには、ミランダも気づいているはずである。

 息子の治世が長く続くように望むのであれば、有能な国王補佐であるラウルをやすやすと追放はできない。


 ジュリーを見送ったシュゼットは、彼女の話を書きとめるラウルを振り返った。


「宮廷録を隠したのは誰なのでしょうか?」

「王太后か前レイリ伯爵か、彼女たちをかばおうとした誰かだろうが犯人は分からない。単に、宮廷に混乱が起きるのを嫌がった誰かが手を汚した可能性もある」


 ミランダが不義の子を生んだとなれば、息子のアンドレは即位を許されず、自らも王家から追放されただろう。


 宮廷録が王立図書館や公文書館からなくなった時期が分かれば調べようもあるが、それすら手掛かりはなかった。

 歴代の職員をしらみつぶしに調査していったら膨大な時間がかかる。


 常識で考えれば、犯人捜しは諦めるべきだ。

 しかし、シュゼットには奥の手があった。


(宮廷録さんは、誰の命令で隠されたのか覚えているかもしれません)


 ラウルに見られるのは少し怖い。

 けれど、彼ならば受け入れてくれるだろうという期待が、同じくらい胸にある。


 シュゼットは、宮廷録を積み重ねるラウルに少し待ってほしいとお願いした。


「以前、リシャール様が言っていたことを覚えていますか? 私が薔薇と話していたと」


 あまり気にしていなかったのか、ラウルは一呼吸置いてあのことかと頷いた。


「覚えている。だが、君はそんなことはしていないと言っていた」

「嘘をついてごめんなさい。実は、私には物の声が聞こえるんです」


 シュゼットはおそるおそる自分の異能について語った。


 幼い頃から物と話せたこと。

 それは、頭に負った大怪我のせいかもしれないこと。


 この能力のせいで、カルロッタや両親、実家の使用人に嘘つきと罵られて生きてきたこと――。


 黙って聞いていたラウルは瞳を揺らした。

 それは動揺ではなく、素晴らしい書物に出会った時のような感動に満ちていた。


「君はすごい才能を持っていたんだな」


「私がすごいのではなく、話しかけてくれる物たちが優しいんです。彼らは持ち主の使う言葉を覚えるので、おさがり品ほどよくしゃべってくれるんですよ。私を信じてくださいますか?」


 彼が信じてくれなかったら、黙ってここを去ろう。


 これまでジュディチェルリ家でさんざん傷つけられたシュゼットは、この力を否定する相手にはどうしても心を開けない。


(どうか、私を受け入れて……)


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