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67話 玉座の不義の子

 面会室は、王族が使う謁見室とは異なり、家具や装飾も質素だった。

 しかし、鍵もかかるし壁も分厚い。


 内緒話には持ってこいの部屋で、シュゼットは、ラウルと共にレイリ伯爵と面会した。


「女性だったんですね」


 優雅に足を組んで紅茶を飲むレイリ女伯爵は、名前をジュリーと言う。

 伸ばした銀髪を一つに結い、男性用の宮廷服を着こなすかっこいい麗人だった。


 年齢はアンドレの十歳上だというから、三十後半だ。

 けれど、化粧っけのない顔には年齢以上の若さがみなぎっている。


 ジュリーは、驚くシュゼットににこりと微笑んでカップを置く。


「よく驚かれますが、下位貴族である伯爵や男爵家では女性が爵位を継ぐこともできるんですよ。父はもう二十年前に亡くなって、私は十代で伯爵家を継ぎました。ラウル様が聞きたいのは、父のことですね?」


「ええ」


 ラウルは、テーブルにシュゼットが発見した宮廷録を並べる。

 今から三十年前からの六冊は、保存状態がよく、ほとんど開かれた形跡もない。


「三十年前、現王太后ミランダ様が当時王太子だった前王に嫁がれました。その際、前レイリ伯爵は側近のようにミランダ様に付き添っておられたようですね」


「ミランダ様と父は年の離れた幼馴染だったんです。本当の兄妹のように仲がよかったので、そのご縁でお世話をしていたと聞いておりますわ」


「兄と妹ですか。本当に、それだけの関係だったのでしょうか?」


 まるで取り調べでもするかのように、ラウルの語尾が強くなった。

 シュゼットは彼の凛とした横顔を見つめる。


(何を聞き出そうとしているのでしょう)


 ジュリーの方はラウルの意図を察して、重たい荷物を下ろした時のようにふーっと長く息を吐いた。


「……それだけではなかったと思います。父は、ミランダ様が魅力的な少女になる頃には結婚して、私という子どもがいました。幼い私は、よくミランダ様に遊んでもらいましたよ。今から思えば、あれは二人の密会のついでだったんでしょう」


 前レイリ伯爵は、ミランダの美しさに溺れた。

 ミランダの方も、兄と慕ってきた人と結ばれるためなら不義の関係でもよかった。


 しかし、ミランダは王太子に見初められてしまった。


 王家に輿入れすることは貴族として誉れだ。

 たとえ令嬢が望んでいなくとも、家長は絶対にその幸運を逃さない。


 ミランダの場合も同じだろう。

 拒否できない結婚で引き剥がされた彼女と前レイリ伯爵は、領地から遠い王都に場所を移してさらなる裏切りを重ねていく。


「父はよく宮殿に出仕していました。仕事のためと話していましたが、ミランダ様に会っていたのでしょう。隣国との小競り合いがあった頃なんて、ほとんど家に帰って来なかったんですよ。毎日のように父宛の手紙を書いていた母を思い出します」


 寂しそうに微笑むジュリーに、ラウルは宮廷録の二冊目を開いて見せた。


「前王が出征されていた間、不安定なミランダ様を支えるためという名目で、前レイリ伯爵が宮殿に滞在していたようです。戦が終わって前王が凱旋されるのに合わせて、彼は領地に帰りました。そして、それからちょうど七ヶ月後に、アンドレ様がお生まれになった」


「七ヶ月後ですか?」


 シュゼットもおかしいと気づいた。


 子どもは普通、母親のお腹に宿ってから十月十日で生まれてくるはずだ。


 ラウルは答え合わせをするように、三冊目のアンドレが誕生した日を指さした。


「アンドレ様のお産に問題はありませんでした。身長、体重、すべて平均以上。早産ではありえない。ミランダ様の妊娠は、前王が戻ってくる前だったということです」


 暴かれた真実は、シュゼットの想像を超えていた。


「ということは、国王陛下は……」


「前王の血を引いていない。我々は、王になる資格がない人物を即位させてしまった」


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